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【中編戯曲】車街

車街

登場人物
 女1
 女2
 男

舞台  夏  だだっぴろい、どこまでも続くようなアスファルトの平原。 街灯や四角い枠の白線や、ブロックが規則的に並べてあり、遠くに薄れて 読めないが何かが書かれていた看板(可能なら、「空」と書かれた電光、もしくはLED掲示板がチカチカしていてほしい)などがある。
 コンクリートの隙間などから雑草が生えている。


   午後。
   中央に、ちゃぶ台がある。(地面が熱い場合はゴザを敷く)
   その上に、水筒や茶器や湯沸かしポットが置かれている。

  テーブルから少し離れた場所で、麦わら帽子や首にタオルをまいて、いかにも外作業をする格好の女1が草むしりをしている。

  「ピーヒョロロロロ・・・」
  トンビの鳴き声が聞こえる

  女1、立ち上がり空を眺め、丁寧にお茶を入れ飲む。

  フォーマルな格好だが服がよれよれで疲れ切っている女2が現れる。

女2 ここは、ここはどこですか。
女1 街です。
女2 街。
女1 どうかしましたか。
女2 帰れなくなってしまって。車ならひと時程で行ける距離を、山を超えて一日歩いてきたんです。やっと道に出て喜んでいたのですが、いけどもいけども人影見当たらなくて困っていたんです。
女1 街といっても私一人ですから。
女2 一人だけ。
女1 この町には私一人、だけ。こうやって草むしりをして、すごすのみ。
女2 そんな。
女1 それは大変でしたね。よければ少しここで休んでいらっしゃい。ちょうどお茶を入れていたところなのです。
女2 ありがとうございます。少し疲れていたんです。

   女2、座る。
   女1、再び丁寧にお茶を入れながら話す。

女2 ここでなにをされていたんですか。
女1 草むしりです。放っておくと草がどんどんと生えてきますのでね。そうするとこの駐車場もすぐに廃墟のようになってしまう。
女2 駐車場。ここは駐車場ですか。
女1 そうです。
女2 けど・・・車が。
女1 車はありません。けどほら停車場所を示す白線も料金を支払う機械も空(くう)」と書かれた看板もなにひとつ壊れてません。ここは確かにこの街に最初にできた駐車場なのです。車の普及とともに客足が落ちていた商店街がお客さんが車で来ることができるようにと、みながお金を出し合って作った、まさにこの街の魂というべき、伝統と歴史がつまった駐車場なのです。
女2 駐車場ならいつか車もきますね。町までくれば恥を忍んで頼み込んで誰かの車に乗せてもらえるかと思ったのですが。
女1 それは・・・難しいでしょう。
女2 でもここは駐車場だと。
女1 もちろんできた当初は駐車場に車はやってきていました。しかし次第にお店が一つ潰れ二つ潰れ駐車場になっていった。そうやってどんどんと駐車場が増えていき、最後のお店も潰れて街の駐車場は気づけば駐車場の街となってしまった。
女2 駐車場の街。
女1 空っぽとかかげた看板が晴れ渡る、車をとめても行く場所は駐車場しかありません。
女2 それでは誰も来ない。ではあなたは。
女1 私は駐車場の管理人。この街の駐車場を管理してるのです。
女2 一人で? この街全ての駐車場を。
女1 ええ。
女2 車は来ないのにですか。
女1 車がない間も駐車場は駐車場ですが、ここが駐車場であると決め料金を設定する人間がいなければそこはただの場所。私はそうやってここが駐車場であるために必要な存在なのです。
女2 車の為に駐車場を作ったのにその車が行く場所がなくなってしまうなんて。
女1 そういう街なのです。
女2 どこかへ行くために私たちは車を使うのか、車があるから私たちはどこかへ行くのか。
女1 どうぞ。熱いですからお気をつけて。

   女1、女2にお茶を差し出す。

女2 とても大変ですね。草むしりだけでも途方もなく感じます。
女1 ええ。毎日刈っているんですがそれでも次々生えてくる。きっと地面の奥底では色んな草花の根っこが張り巡らされているんでしょう。しかし放っておくわけにはいかないのです。アスファルトを突き破ってしまいますからね。根っこごと引き抜かないといけないのです。
女2 一人じゃ大変ですね。
女1 でもそれだけでもないですよ。それを飲んでみてください。

   女2、ゆっくりとお茶を飲む。

女2 おいしい。
女1 そこいらに生えている草を使ったお茶なんです。疲労回復の効果があるんです。
女2 野草ですか?
女1 ええ、とってもハーブやミントなんですよ。
女2 自生してるんですか。
女1 誰かがガーデニングで植えたのがこの街に深く根を下ろして広がったのでしょう。あそこに生えてるのはドクダミです。赤い葉っぱがハート型になっているでしょう。お茶にしたりもしますし、薬としてもおなかの調子を整えたりする効果があるのです。あっちに生えてるのはミントですね。ハッカともいいますけど、スースーとした清涼感が楽しめます。奥の山の方には竹も生えています。タケノコもとれますし、食器にしたり、道具に使えて重宝します。そうやってここで獲れた草をお茶にしたり、天ぷらにしたりする。ちょっとした楽しみですね。
女2 本当においしい。
女1 せめてもの、私から草花への抵抗です。おいしく調理すれば、こんなに心華やかになるのです。時間だけはありますから。今日は特別手間をかけて準備した自慢の品なんです。飲んでもらえてとてもよかった。
女2 じゃあいい時にここに来たんですね。
女1 とてもよい一日です。私にとっても。話し相手がいるお茶の時間は何年ぶりのことでしょう。とても素晴らし時間を過ごさせていただきました。ありがとうございます。
女2 そんな、私の方こそこのお礼をさせてほしいのですが。
女1 いいえ、だいじょうぶですよ。何もできなくて申し訳ない。よければこのお茶でよければいくらでも持って行ってください。
女2 いいのですか。
女1 ええ、いくらでも、いくらでもありますから。
女2 ありがとうございます。少しですが、私にできる事でお返しをしたいとおもっているのです。それを受けてもらえませんか。
女1 では、
女2 はい。
女1 無事に帰って落ち着いたら、またもう一度ここにお茶を飲みに来てもらえませんか。
女2 それだけでいいのですか。
女1 ここに誰かが来てくれるかもしれない。そう思える事が一番の望みかもしれません。
女2 そうですか。
女1 ただ、もし。
女2 なにかありますか。
女1 私の妄想なんですけど、笑わないでくださいね。
女2 なんでも言ってください。
女1 もう一度、
女2 もう一度。
女1 お祭り。あのお祭りの風景をもう一度みてみたい。
女2 お祭り。
女1 年に一度、この駐車場にやぐらを組んで、周りには屋台が並んで、いろんな食べ物の匂いが溢れて、くじを引いて落胆する子どもたち。金魚やお面を手に親に手を惹かれて歩いたこの駐車場の風景がもう一度みたい。
女2 そんなものでいいのですか。
女1 ええ。あの日は生きてる人も死んだ人もみんなこの街へ帰ってきて、お祭りに出かけたのです。けど、もうここには誰も帰ってこない。この場所に帰ってきた人たちは、車に乗ってどこへ帰っていったんでしょうね。
女2 わかりました。その風景をお見せいたしましょう。
女1 どういうことですか。
女2 昔、この山は多くの生き物にあふれていた。しかし、人が土を盛って道を作り、木を切り倒し、家を作り、岩を削って山を平たんにした。気づけばヒト以外の生き物には住めなくなってしまった。そして冬になれば、南の暖かい風を求めて、鳥は飛ばなければならなくなったのです。しかし、暖かくなればどうしてもこの山の幻影を求めて戻ってきてしまう。私の中には、遠い町の記憶も刻み込まれているのです。
女1 あなたは。
女2 私の本当の姿を明かすわけにはいきません。私には人の悲しみを救う力はありませんが、人の心を惑わすほどには力をもっています。少し準備をします。一つ、約束していただかねばなりません。忘れないでください。それは私の遠い昔の記憶の風景。幻であり、影である。決して、その風景に心を触れさせてはいけません
女1 心を触れさせてはいけない。
女2 守っていただけますか?
女1 わかりました。
女2 では、準備をしてきます。少しほど、お待ちください。
女1 ありがとうございます。
女2 こちらこそ。では。

  女2、去る。


  少しして、配達員の格好をした男が、荷物をもってやってくる。

男 こんにちわ。
女1 どうも。
男 ハンコか、サインお願いします。
女1 サインでいいですか。
男 これにお願いします。
女1 すいません。ペンありますか。
男 ああ、どうぞ。

   男、胸に刺していたボールペンと伝票を渡す。
   女1、ちゃぶ台で伝票に記入する。

女1 誰からでしょう?
男 知らないんですか?
女1 (伝票の送り主を見て)たろうぼうやさん?
男 たろうぼうです。
女1 すいません。これでいいですか?
男 はい。ありがとうございます。

   女1、荷物を開けると、「おかめ」のお面が出てくる。

女1 あの、これは。
男 じゃあ、準備しますね。
女1 準備?
男 何も聞いてないんですか?
女1 すいません。
男 困るなぁ。あの人、いつも説明しないで自分で勝手に進めるんですよね。準備は誰がするんだって感じですよ。
女1 なんの準備でしょう。
男 お祭りですよ。お祭り。そんなね、お祭りを急にやりますって言われても困りますよ。
女1 ごめんなさい。私のわがままなんです。お祭りが見たいって。
男 ああ、申し訳ない。あなたにいってるんじゃないんです。あの人はいつも急にいうもんだから。いうのは楽でしょうけど苦労するのは下の者だってことなんです。
女1 ごくろうさまです。
男 とりあえず作業しますね。

   男、幕を吊ったり、装飾したりし始める。

女1 あ、あの私もお手伝いしましょうか?
男 あ、いいんですか?
女1 はい。私が言い始めたんで。
男 本当はだめなんですけど。僕一人じゃ間に合いませんから、いわないでくださいよ。あの人、こういうのすごくうるさいんです。
女1 はい。なにをしたら。
男 じゃあ、あっちをお願いします。

   男、女1に、作業内容を伝える。

女1 あの人っていうのは誰なんですか。
男 〇〇(公演地の近くの山)山太郎坊ですよ。
女1 ○○やまたろうぼう?
男 あまのきつねの天狗っていったらわかりますか?
女1 天狗ですか。
男 ええ、天狗も天狗、大天狗ですよ
女1 言っちゃっていいんですか?
男 えっ。
女1 正体は明かせませんって。
男 今からあかせません。ってことになりますか。
女1 天狗なんですね。
男 ならないんですね。
女1 そんな偉い人だったんですね。
男 大天狗ですから。それがまたこんな危険なことを急に。怒りに触れたらどうなるか
女1 危ないんですか。
男 危ないですよ危ない。ぼくだっておとがめをくらうかもしれないってのに。
女1 ごめんなさい。
男 昔お坊さんがトンビに化けた天狗を助けたお礼にってお釈迦様の説法の幻影をみせたことがあったんです。
女1 どこかできいたような。
男 もう散々な目にあいましたよ。
女1 どうして?
男 帝釈天(たいしゃくてん)様が怒っちゃって。
女1 帝釈天様。
男 そう。帝釈天様からしたら天狗なんて小僧みたいなもんですから。おかげで翼をおられて飛べなくなって。もし今度失敗したら、命はないかも。
女1 やめましょうか。
男 えっ?
女1 そんな大変なことだと思わなくて、私。
男 それは困る。
女1 そうなんですか。
男 それはないですよ。突然お祭りやるっていったり、準備中にやめるっていったり、どっちなんですか。
女1 ご、ごめんなさい。
男 準備しちゃいましょうよ。
女1 は、はい。
男 ほら、なんかいい匂いしてきませんか。
女1 本当だ。懐かし匂い。
男 お腹すいたなぁ。ちゃっちゃと準備しましょう。
女1 ええ。

  二人、準備を進めるが、もし、時間がかかりそうなら、縁日の食べ物について話をする。
  (なにが好きだ。なにがおいしい。これは食べたことがある。これはたべたことがない。等)準備が終わった頃に、

女1 こんな感じでいいですか?
男 ええ、充分です。
女1 他には?
男 とりあえず以上ですかね。
女1 そうですか。じゃあ私、お茶を入れますね。
男 ああ、いいですね。

   女1、二人分のお茶を入れる。
   男も、作業を終わると、ちゃぶ台の方へやってくる。

女1 どうぞ。
男 ありがとうございます。いい匂いだ。お茶にはちょっとうるさいんですよ。
女1 そんな大したものじゃありませんけど。
男 いや、丁寧にしているのがわかりますよ。ちょっとしたことでも、手間が大事ですからね。時間を惜しまないというのがむずかしいんです。
女1 時間だけはありますからね。時間だけは。
男 ずっとここに一人なのですか?
女1 ええ、生まれて、きっと死ぬまで。
男 確かに、時間だけはありそうですね。
女1 けど、この時間はいつまでも続くのだろうかと思います。
男 ただ人生は続くだけ、悲しみ続けるには長く、楽しむには短いものですよ。
女1 そうかもしれませんね。お茶をゆっくりのむ時間はありますから。
男 一つ聞いてもいいですか?
女1 ええ。
男 失礼だったらすいません。一人でさみしくはありませんか。
女1 さみしい?
男 この広い街に一人きり。
女1 わかりません。
男 わからない?
女1 今は一人じゃないですから。
男 そうですね。
女 一人じゃなくなったら、さみしいのかもしれませんね。
男 すいません。

   夕日がコンクリートを染めていく。
   女1、ノスタルジーを感じる歌を歌う。

男 そろそろ逢魔が時です。
女1 日が沈む。
男 約束は聞いていますか?
女1 ええ、心を触れさせてはいけない。
男 心を触れさせる?
女1 ええ、そういってました。
男 わかりにくいなぁ。
女1 確かに、どういう意味なのかなとは思っていました。
男 いいですか。まず、先程のお面をかぶってください。
女1 これですね。
男 そして、目を閉じるんです。
女1 はい。
男 そしたら、あなたが見たいものが見えるはずです。
女1 はい。
男 決して目を開けないでください。簡単なことですよね。
女1 目を開けない。
男 なにがあってもです。何があっても目を開けないでください。
女1 なにがあっても、目を開けない。
男 わかりましたか?
女1 はい。目を閉じて、なにがあっても目を開けない。
男 では、はじめましょう。

   女1、お面をつける。

男 目をつむってください。
女1 はい。
男 目を開けちゃだめですからね。
女1 はい。
男 あれ?
女1 あれ?

   間。
   女1、不安になってくる。

女1 どうかしました?
男 目を開けないで!
女1 はい。
男 あっ、そうか。ペン返してもらえますか?
女1 あ、すいません。(ペンを探す)
男 目をあけちゃだめですよ。
女1 す、すいません。

   男、ペンを返してもらう。

男 いいですか、なにがあっても目を開けちゃだめですからね。わかりましたか。
女1 はい。
男 目、閉じましたか。
女1 はい。
男 絶対にだめですからね。絶対絶対です。
女1 はい、絶対の絶対。

   ゆっくり暗転。(掲示板の「空」も消える)

女1 もういいですか。
男 まだですよ。

   間。

女1 もういいですか。
女2 まぁだだよ。

   間。

女1 もういぃかい。
童子の声 もういぃよ。

   祭り太鼓の音が遠くから聞こえてくる。
   人々のざわめきが聞こえてくる。


   人々が行き交い、祭りの風景が映し出される。
   祭り太鼓と囃子の笛が鳴り響く。(できれば生演奏で)

  ※以下、5~10分、公演地の祭りの映像が舞台に映写されて、その真ん中で、お面を被った女1がその風景を見ている様子が流れる。
  もし、実際に公演地の伝統芸能的な物(例えば、獅子舞や神輿など)が上演できるのであれば、それを行う。
  そして、その間に役者たちによって縁日の屋台の状況が、舞台や客席で繰り広げられる。(実際に観客に売っても構わない)
  屋台で売られるものは、地元の名産品やグルメなどがよい。
   (例として、和歌山の名産品・グルメを販売する様子)

  「こおもて」のお面をかぶった、女2が、いろんなグルメをもってあるいている。

女2 らっしゃい、らっしゃい。和歌山ラーメンはいかが。行列せずに食べられるチャンスだよ。今日だけ特別。スープも麺も最高だよ。

  「ひょっとこ」のお面をかぶった、男が、いろんなグルメをもってやってくる。

男 地元のフルーツを使ったパフェはいかが。有田のみかんに、桃山の桃、はっさくに柿に三宝柑(さんぼうかん)。よりどりみどりに贅沢なパフェですよ。みずみずしいフルーツが盛りだくさん、てんこもりもり入ってますよ。

女2 紀州うめどりの焼き鳥だよ。備長炭で焼いた芯までじゅーしーなうめどりの串焼きもあるよ。勝浦でとれたマグロの兜焼き、日高川の鮎の塩焼き、どんどんどんどんやきまっせ!

男 鮎の押し寿司はいかがですか。ここで食べなきゃいつ食べる。酸味と旨味のハーモニー!めはりずしもありますよ。高菜の葉で一つひとつ丁寧に包んだ。おっきなおっきなめはりずし。よそじゃちょっと食べられないよ。通なあなたは鮒寿司も。発酵した旨味が一度食べたら病みつきだよ。

女2 梅酒はいかが、最高級の南高梅を使った梅酒ですよ。今年取れた最高の梅を漬けた梅酒です。ぼくやおじょうちゃんには梅ジュース。体にとってもいい梅ジュースもありますよ。お土産に梅干しも買っていってね。

女1 私もお茶を売ったら売れるかしら。
男 売れますよ。売ってみましょう。
女1 うまくできるかしら?
男 うまくなんてやらなくていいんです。冷たいお茶はきっとこの熱気を充分に潤してくれるでしょうから。
女1 お茶!お茶はいかが? ここでとれたお茶ですよ。
女2 ください。
女1 はい。どうぞ。ハーブティーは、いい匂いがします。ミントを使ったのはすうっとして、爽やかに。笹の葉茶はほっと心が落ち着きますよ。
女2 全部素敵。全部飲んでみましょう。
女1 ありがとうございます!
男 よし、ぼくが売り歩きましょう。冷たいお茶はいかがです? ミントにハーブに笹の葉茶。無添加、健康に最高だ。炎天下にはぜひこのお茶を!

   女2がポイを持ってやってくる。

女2 金魚すくいだよ。ぽいが破れるまで救い放題。今日は特別二枚重ねだ、もってけドロボー! 赤いの黒いの出目金も、いろいろ金魚を救い放題!

   男が、射的のピストルを手にやってくる。

男 よってけ、やってけ、うってきな。さあさあ、射的だよ。倒したら景品ゲットだ。よってけ、やってけ、うってきな。

女2 豪華景品ゲットのチャンスだ。かんたんかんたん、ひもを引くだけ。ほしい賞品があがってくれば、それでもう豪華景品はあなたのものだ。豪華景品早いものがち。いそがにゃそんそん、やっといで。

男 かたぬき、かたぬき。面白いよ。見事成功したら、賞品もあるよ。かんたん、かたぬき、かたなしだ。針でつついてちょちょいとぬけば、豪華景品、かんたんだ。

女2 おいちゃん。これどう?
男 だめだなぁ。ここがほうら、欠けてるだろ。
女2 今、おいちゃんが触ったからだ。
男 おいおい。証拠があるならいってみな。地球が何万何千何百回回ったときにだい?
女2 あーん

  女2、泣いている様子。

女1 かわいそうに。大丈夫?
女2 お姉ちゃんありがとう。はい、これあげる。

  女2が、女1に風車を渡す。
  女2が、お面の隙間から、風車を吹く。
  地面いっぱいに風車が回る映像が投影される。

  男と女2が盆踊りの歌を踊る。
  ※曲は、公演場所のご当地の歌がよい。もし都会であるなら、どこか地方の曲を選んでほしい。
  例:和歌山市「ぶんだら節」

  人々が盆踊りを踊る映像が投影される。

  お面(童子)をつけた男(もしくは、少年)がやってきて、

童子 ただいま。
女1 おかえりなさい。

  そして、童子、女1の横に座る。
  二人、人々が踊るのを眺めている。

  盆踊りが終わったころに、童子が空を指差す。
  女1が空をみると、花火があがる。(映像、もし可能なら実物を)

童子 お祭り、終わり?
女1 そうね、花火が終わったら、みんな帰っていく。
童子 どこへ。
女1 お家かな。
童子 行こう。
女1 どこ。
童子 帰る場所。
女1 帰る場所。
童子 そう、帰る場所。
女1 ここじゃないの? だってここには……
童子 ボクは、もうここにはいないんだよ。
女1 うん。
童子 ほら。

   童子が手を差し出す。

女1 私の帰る場所はどこにあるの。
女2 あなたが決めるの。
女1 わたしが?

   女2がそばにいた。

女2 あなたがいるからそこが駐車場になるなら、あなたがいる場所が帰る場所になる。あなたが決めるんです。場所が決めるんじゃない。あなたが帰るから帰る場所なんです。
女1 私の帰る場所、何も変わらない私の場所。
女2 あなたにとって大事な場所は、あなたを必要としてないかもしれない。だってそうでしょう。車が来ない駐車場の草をなんのために抜いているんですか。
童子 もういぃよ。

  女1、我慢しようとするが、誘惑に負けて、手を伸ばしかけるが、とどまる。

女1 一人でお茶を飲みながらふと想像するの。いつかこの街をハーブやミントがおおいつくしてしまう。その時、草花が咲き乱れてとてもいい匂いがするのでしょう。きっと誰かが願ったのかもしれませんね。この街を、国を、星を、きれいな草花で埋めて美しい星にしたいと。けど誰がその光景をみるのでしょう。きっとそこに人間はいらないのでしょうから。
女2 お祭りの後ってなんでこんなにさみしいんでしょうね。

   女1の手がとまる。お面を外そうとする。

女2 ダメ。
女1 でもね、私は草を抜くの。草が生えてるから。ただ私は草を抜く。明日も明日もその明日も。

   女1、お面を外す。
   暗転。
   (掲示板の「空」だけがチカチカしている)


   街灯がつく。
   女1が一人で立っている。
   足元に鳶の死骸が一つ、転がっている。
   女1、鳶の死骸を抱き上げる。

   配達員の恰好をした男がやってくる。
   女1、鳶を渡す。

女1 さようなら。
男 さようなら。

   男、去っていった。
   女1、座ってお茶をいれる。
   女1がもっていた風車が少し回った。

参考文献
   能「大会」 作者不明

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コチラをご利用ください

使用許可について

基本無料・使用許可不要。改訂改編自由。作者名は明記をお願いします。
上演に際しては、観に行きたいので連絡を貰えると嬉しいです。
劇団公式HP https://his19732002.wixsite.com/gekidankita

劇作家 松永恭昭謀(まつながひさあきはかりごと)

1982年生 和歌山市在住 劇団和可 代表
劇作家・演出家
深津篤史(岸田戯曲賞・読売演劇賞受賞)に師事。想流私塾にて、北村想氏に師事し、21期として卒業。
2010年に書きおろした、和歌山の偉人、嶋清一をモチーフとして描いた「白球止まらず、飛んで行く」は、好評を得て、その後2回に渡り再演を繰り返す。また、大阪で公演した「JOB」「ジオラマサイズの断末魔」は大阪演劇人の間でも好評を博した。
2014年劇作家協会主催短編フェスタにて「¥15869」が上演作品に選ばれ、絶賛される。
近年では、県外の東京や地方の劇団とも交流を広げ、和歌山県内にとどまらない活動を行っており、またワークショップも行い、若手の劇団のプロデュースを行うなど、後進の育成にも力を入れている

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