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【短編戯曲】1/2のエリコ

1/2のエリコ


作 松永 恭昭謀

登場人物


直隆
エリコA
エリコB
舞台
夫婦が二人が暮らすマンションのダイニングキッチン。
(上手・下手は逆でも構わない)


男(直隆)。

直隆 (歯が痛む)いたたたた。

下手から、エリコBがやってくる。

エリコB ねえ、
直隆 (PCから目を離さず)なに、エリコ。
エリコB 洗濯物ある?
直隆 部屋にタオルあったかな。
エリコB 部屋?
直隆 まあ、いいよ。
エリコB きたない。洗うよ。

エリコB、下手へ去る。
少しして、上手からエリコAが来る。

エリコA 直隆さん。
直隆 (PCから目を離さず)なに、エリコ。
エリコA ちょっとコンビニ行きますけど、なにかいりますか。
直隆 ああ……。アイス。
エリコA どんなのがいいですか。
直隆 クリーム系。チョコで包んだの。モナカ的なんじゃなかったらなんでも。
エリコA クリーム系、チョコで包んでモナカ的じゃないのですね。行ってきます。

エリコA、上手へ去る。
少しして、

直隆 コーヒーもらえるかな? ……。エリコ? 

部屋の中を見るが、いるはずのエリコがいないので、上手に去るがすぐに戻ってくる。

直隆 コーヒーどこ? いないの? 

エリコを探すがいないようなので、仕方なく戻ってくるとテーブルの上に置き手紙があるのに気づく。直隆、それを読んでかなり慌てて出ていく。
少しして、エリコBが部屋の下手から出てくる。

エリコB なにか言った? あれ?

直隆が慌てて戻ってくる。

直隆 エリコ。
エリコB どうしたの慌てて。
直隆 どうしたって。
エリコB マスク忘れたんでしょ。予備あったかな。
直隆 そうじゃなくて。
エリコB 部屋にあったとおもう。
直隆 おい、エリコ。

エリコB、下手へ去る。入れ替わりにエリコAが上手から来る。

エリコA ただいま。
直隆 エリコ。
エリコA アイス冷凍庫入れとくね。
直隆 ありがとう。
エリコA 今食べますか?
直隆 そうじゃなくて。
エリコA そう、じゃあ入れときますね。

エリコA、上手へ去る。
直隆が頬を抑えた。歯が痛いようだ。
エリコBが戻ってくる。

エリコB なに、歯が痛いの?
直隆 うん。
エリコB 先週歯医者にいったばかりでしょ。
直隆 全部直してもらったんだけど。
エリコB でも、痛い。
直隆 そうなんだけど。

エリコAが戻ってくる。

エリコA どうしたの、歯が痛いの?
直隆 うん。
エリコA 痛み止めあったかな。
直隆 虫歯じゃないと思うんだけど。
エリコA そうなの。
エリコB ストレス?
直隆 ねえ。
エリコA・B なに。
直隆 どっちがエリコなんだ。
エリコA 私はエリコよ。
エリコB エリコよ私は。

間。

直隆 そうだこれ。

直隆、封筒を取り出し中身を広げる。

エリコA なに?
エリコB 手紙?
直隆 エリコが書いたんだろ? わかるだろう?
エリコA ありがとう。
エリコB さよなら。
エリコA・2 エリコ。
直隆 (読み上げる)さよなら、ありがとう。エリコ。

直隆、エリコ達を見る。

直隆 どっちがエリコなんだ。
エリコA どっちだと思うの。
エリコB どっちが分からない?
直隆 オレはこっち(エリコA)の方が本物だと思う。うん間違いない。
エリコB そう。
直隆 ……。
エリコB あなたがそう思うならそうなんでしょ。
直隆 じゃあ君は何なんだ。
エリコB エリコ。彼女も私もエリコ。それだけの事。分からない?
直隆 ……。
エリコB じゃ。
直隆 どこに行くんだ。
エリコB 私はあなたのエリコじゃないんでしょ。
直隆 ……。

エリコB、去る。
立ちつくす直隆。振り返ると、エリコAがほほえんでいる。

直隆 何だったんだろ。
エリコA そうね。
直隆 ……。
エリコA なに。
直隆 いや。
エリコA ありがとう。私に間違いないって言ってくれて、嬉しかった。
直隆 コーヒーでも飲まないか。
エリコA ええ、入れるね。
直隆 うん。

エリコA、上手へ去る。
直隆、テーブルに座って考え込む。
エリコAが戻って黙っている。

直隆 どうした。
エリコA ごめんなさい。
直隆 なに。
エリコA 分からないの。
直隆 だから何が。
エリコA コーヒーがどこにあるか。
直隆 分からない。
エリコA どこにあったのか。
直隆 もともとなかったんだろう。そうだ、きっと。
エリコA ごめんなさい。
直隆 何が。
エリコA ……。
直隆 いや、いいよ。きっと疲れてるんだよ。
エリコA ……。
直隆 そんな顔するなよ。変なことにはなったけども、こうして元に戻ったんだから。いいじゃないか。
エリコA そうね。
直隆 まだ、混乱してるんだよ。
エリコA ええ。
直隆 なんだか変な感じ。
エリコA そうね。
直隆 なんていうか、キミが、
エリコA 私が。
直隆 半分になったのかと。
エリコA 半分。私が。
直隆 なんとなく。
エリコA 私はあなたの知っているエリコなの?
直隆 いや、当たり前だろ。エリコはエリコだろ。
エリコA その半分。
直隆 おい。

エリコA、去る。

直隆 ……イタタタタ。

暗転。

 
直隆。
エリコBが現れ、少しの間、煙草(もしくは電子タバコ)を吸いながらその様子を眺めている。
直隆、疲れたのか息を抜く。

エリコB コーヒー飲む?
直隆 来てたのか。
エリコB あんたが呼んだんでしょ、いる?
直隆 うん。

エリコB、上手からコーヒーカップを二つ持って来る。

直隆 どこにあった。コーヒー。
エリコB どこっていつもの所。
直隆 そう。煙草吸うんだ。
エリコB たまに。この生活に嫌気がさしたときにね。あなたは知らなかったでしょうけど。
直隆 そうか。今、どうしてるんだ。
エリコB それが聞きたかったの?
直隆 いや。
エリコB 適当にやってる。ご心配ありがとう。で、なに。急に呼び出して。
直隆 エリコが出てった。
エリコB 今、ここにいるじゃない。
直隆 そうじゃなくて、もう一人の。
エリコB あのおとなしい方?
直隆 探したんだけど見つかんなくて。
エリコB そう。
直隆 心当たりないかと思って、君に。
エリコB 私?
直隆 そう。
エリコB さあ。
直隆 そう。
エリコB 代わりに私が戻ってきてあげようか。
直隆 ……。
エリコB 冗談よ冗談。
直隆 問題は。
エリコB 問題。
直隆 問題は二人になったとかそういうことじゃなくて。
エリコB なんなの。
直隆 半分になってしまったんじゃないかっていう。
エリコB 半分。
直隆 エリコが半分になってしまったような、そんな。
エリコB 半分。
直隆 キミの表と裏の顔が別れた感じがして。
エリコB 表と裏。
直隆 どっちが表とか裏とかじゃないし。実際、ボクの知らないエリコがいたって。そういうことだろ。
エリコB それ、彼女にいったの?
直隆 (頷く)
エリコB バカ。本当に。
直隆 ……。
エリコB 私はあなたのエリコの半分になったんじゃないし、あの女も。
直隆 でもエリコなんだろ。
エリコB 別なの。あなたの好きなエリコも私もあの人も。分かる?
直隆 分からない。
エリコB 彼女、戻ってくるんじゃないの。
直隆 なんで分かる。君たちは他人なんだろ。
エリコB 他人だからよ。
直隆 君はエリコなんだろ。
エリコB さよなら。一人だけのあなた。

エリコB、去る。

直隆 いたたたたた。

直隆、うずくまってしまう。
しばらくして、エリコAが入ってくる。

エリコA どうしたの?
直隆 ああイタタタタ。
エリコA 大丈夫?
直隆 エリコ。
エリコA はい。

直隆、歯を引きちぎった。口から、血がこぼれている。
エリコA、小さく悲鳴を上げて固まってしまう。

エリコA だ、大丈夫ですか。
直隆 痛い。とても。
エリコA とりあえず止血しないと。
直隆 大丈夫。そんなに血は出てないから。
エリコA そう。
直隆 大丈夫。後で病院行くから。

直隆がエリコAを抱きしめようとする。エリコA、すっと体を引く。

エリコA 私、きっとあなたの知っているエリコさんとは違うのかもしれません。
直隆 ……。
エリコA それでもいいんですか。
直隆 どうしても分からないことがあって。
エリコA 何をですか。
直隆 君の事。
エリコA 私のこと。

封筒を取り出す。

直隆 これはなんだったんだろう。
エリコA 私にはわかりません。
直隆 もしかしたらまだいるんだろうか、エリコが。
エリコA 分かりません。
直隆 君のことが知りたい。
エリコA 私は今ここにいますよ。
直隆 君はエリコなのか?
エリコA 私は今ここにいますよ。

直隆、封筒を破り捨てる。

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使用許可について

基本無料・使用許可不要。改訂改編自由。作者名は明記をお願いします。
上演に際しては、観に行きたいので連絡を貰えると嬉しいです。
劇団公式HP https://his19732002.wixsite.com/gekidankita

劇作家 松永恭昭謀(まつながひさあきはかりごと)


1982年生 和歌山市在住 劇団和可 代表
劇作家・演出家
深津篤史(岸田戯曲賞・読売演劇賞受賞)に師事。想流私塾にて、北村想氏に師事し、21期として卒業。
2010年に書きおろした、和歌山の偉人、嶋清一をモチーフとして描いた「白球止まらず、飛んで行く」は、好評を得て、その後2回に渡り再演を繰り返す。また、大阪で公演した「JOB」「ジオラマサイズの断末魔」は大阪演劇人の間でも好評を博した。
2014年劇作家協会主催短編フェスタにて「¥15869」が上演作品に選ばれ、絶賛される。
近年では、県外の東京や地方の劇団とも交流を広げ、和歌山県内にとどまらない活動を行っており、またワークショップも行い、若手の劇団のプロデュースを行うなど、後進の育成にも力を入れている

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