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地方演劇を真面目に考える会 その3 【大都圏との距離と劇団数編】

概要

2021年に和歌山市のクラブゲートと、オンラインで開催した「地方演劇を真面目に考える会」の記録です。以下のHPにて、開催した動画のアーカイブ、アンケートデータや、インタビュー動画をご覧になれます。ぜひご覧ください。

日本の公演数と、大都市圏との距離の検証

前回のノートを書いていて気になったので、各大都市圏との距離と、周辺の中小都市の劇団数の関連性が気になってきました。そこで、各劇団の拠点までは判りづらいので、各都道府県での劇場での演劇の公演数を出して、その数を調べてみました。下の図がそのデータです。

細かい場所までは見づらいので、PDF版も用意しました。
PDFバージョンはコチラ

大都市圏との距離との影響

なんとなく距離との関連性は感じていたが、やはりいい感じに円状に広がっている部分が感じられた。東京・大阪はあまりに多すぎて一つ一つを調べられなかったが、おおよそ、このような感じになっていると思う。やはり東京の規模が大きく、交通網自体がかなり大きく広がっており、その影響で、東京演劇文化圏が広く分布している様子。愛知の名古屋演劇文化圏もきれいに円状に広がっており、近畿は、京都・神戸・大阪が、それぞれ大きな文化圏があり、それが重なり合っていて複合的な円の広がり方をしている印象。福岡県は、博多と北九州に分かれている感じがする。
それ以外の赤点がある場所は、程よい感じに距離を保っている感じがして、演劇云々よりも、日本の都市の成り立ち方を感じる。
おおよそ、都心から30分程度の距離に集中している感じがするが、逆にそれを超えると急に減少して、逆に一時間程度の場所の円状に劇場がまた増え始めるといった様子。
いわゆるドーナツ化現象というか、逆ドーナツ化現象というか、おそらく、中心部は劇場が多く、住宅が少なく、通勤圏内となる30分~1時間程度の距離は住宅地が多く、劇場が少なくなり、そこから逆に一時間程度にほどよく距離が離れて、独自性を持った劇場が生まれていくのかもしれない。

演劇文化圏の分布と交通網

 演劇に限った話ではないが、人口が集中する都市というのは、歴史的背景があったりするが、多くは交通網の影響がつよく、赤点がある場所はおおよそいわゆる五畿七道(東海道・東山道・北陸道・山陰道・山陽道・南海道・西海道)にそっている感じで発展しており、大きな都市に近い場所よりも程よく離れた場所に別の都市圏が形成されている。この中で、長野はどの大都市圏からも離れているのに、赤点が散らばって多いのは、どの都市圏からも交通網的に交差する場所で、ほどよくどこからの影響もあり、ほどよく離れているので独自性も保ちやすいというものもあるかもしれない。東北・北海道に関しては、実際の距離感覚は分からないが、ほどよく離れており、独自性が生まれやすいのではないか?という印象を持った。このいい感じの距離が、東北・北海道が、劇団数がほかの地域に比べて多い理由の一つかもしれない。

距離と劇団数についての個人的見解

 演劇は、実際に公演場所に行かなければ見ることができない。公演をするにしても、どこかで稽古をして、劇場に行かなければならない。インターネットの時代において、色々な試みはあるが、基本的には、距離が非常に重要だと思う。
 その地域の演劇を観て、影響を受けて新しい演劇が形成されていく。今回の図を見て、演劇と距離は非常に強い影響性があるとは思ったが、逆に、今、距離はドンドンを短くなっていっている。
新幹線や、飛行機、そのうちリニアが通ると、金銭の問題物もがるが、距離はどんどんと縮まっていく。それに、ユーチューブの発展によって、演劇が無料で見ることもできるようになってきた。地域性や、地域の演劇の歴史よりも、そちらの影響の方が強くなっていくのは間違いない。そうなると、これから非都市圏の演劇はかわっていくのかもしれない。いや、そもそももう変わっている。
今まで、劇場も劇団も遠いある場所にある演劇を志す若者は、都会に出るか、演劇を諦めるかという二択を強いられてきた。しかし、この、距離の変化はそういった人には新たな選択肢を生むことになる。実際にインターネット上で、台本を読み合ったり、声劇というオーディオドラマのようなものを、カラオケのように楽しむ文化も出来てきている。演劇にとっては距離というものは一種の呪縛だったのかもしれないが、新たな芽は生まれているとそう思いたい。
 
 個人的には、住む場所と、公演をする場所は非常に重要で、色々な要素はあるが一番は「誰が来るか?」だと思う。
 やはり、その劇場に来やすい距離の人が観客数の大多数を占める。そうなるとやはり「誰に見せたいのか?」が非常に重要になってくる。大都市圏の劇団は、普遍的な良さを求めることが多いと思うが、非都市圏の演劇はやはり「誰に何を見せたいのか?」が非常に重要なってくると思う。それが演劇の距離であり、自分たちの演劇の距離ではないだろうか?
 また、調べているうちに、なぜこのような均等な距離で分布をしているのかが気になって調べていた。そもそも都市の成り立ちの話に関連しているのだと思うが、どうやら、最初の方に述べた五畿七道がかなり関連しており、現在の交通網もその影響が強い。なので、関東は北関東よりも、京都方面向きの東京・神奈川間に非常に集中しているが、逆に近畿は大阪・京都・神戸に分かれており、やはり過去の首都が京都であり、交通網はすべて京都を中心に発達した影響があるのだろうか。
また、調べていて、個人的に驚いたのが、和歌山は近畿や関西だと思ったが、5畿では、南海道に含まれるらしい。いわゆる四国と同じくくりになり、なぜ大阪や奈良と分断されている感じがするのだろうと思ったが、そもそも同じくくりじゃなかったのか。と妙に納得してしまった。
 後、関係あるかどうかは置いておいて、作成中に、北海道・東北と、西日本で、赤点の大きさは同じなのに、都道府県の大きさが違い過ぎて、赤点が妙に大きく感じるという感覚に襲われた。距離感が変な感覚。もしかしたら、住んでいる地域によって、「距離の感覚」がそもそも違うというのも考えなければならないのかもしれない。個人的な経験からすると、大阪の人は和歌山に来るのに一時間電車に乗ると、「旅をしている」という感覚になるらしいが、逆に和歌山の人間が大阪に行く同じ一時間は、あまりそういった感覚にならず、まあ、ちょっと長いなというぐらいである。特に関係なさそうではあるが、意外とこの大都市圏と非大都市圏の演劇観の違いに影響があるのではないかと思う。

つづきます。
その3はコチラ

劇作家 松永恭昭謀(まつながひさあきぼう)

1982年生 和歌山市在住 劇団和可 代表
劇作家・演出家
劇団公式HP https://his19732002.wixsite.com/gekidankita

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