ネプリロゴ_note

『子プリ』によせて

明けましておめでとうございます。
若枝あらうです。

亥年がスタート、つまりプレ子年がスタートしたことを記念して、子年歌人による短歌アンソロジー『子プリ』Vol.0?を発行しました。

10月末に募集をかけ、あれよあれよという間に総勢10名(自分含む)に。「子の刻にちなんだ深夜の歌1首」+「12首連作(自由題)」という厳しめのレギュレーションだったのですが、全130首、全員が力作で良いものができたと思っています。少なくとも私は詠草が送られてくるたびに唸っていましたので、ここに全員分の連作から1首引用したうえで、簡単に連作の評をしたいと思います。

では、さっそく。

花が咲くときまでは雪のままでいい凍てつく月の影もさながら
己利善慮鬼「セレナーデ」より

慮鬼さんからは、痛いほどの孤独を雪に重ねた連作が届きました。本当に静かで、そのまま冷たさが伝わってくるような歌が並んで、でも、決して後ろ向きではない。引いてきた歌はその代表格。いつか花が咲いたとき、凍てつく月の影がどうなるのか。主体は自分を雪として、その影に何を見ているのか。想像するだけで胸が苦しくなりますが、それでも主体は花が咲く未来をどこかで信じている強さ。評を書いていて泣きそうです。

アクセルをつよく踏んだらつよいぶんはやくなるから車はえらい
平出奔「グッド・バイ」より

平出くんからは、日常を読んだ連作です。そう、日常。うーん、日常と言っていいのだろうか。どの首も、うん、日常の風景なんですけど、切り取り方が個性的過ぎて、平出ワールド全開です。提出前から「いい感じです!」って豪語していた気持ちがわかる。その世界観はぜひ連作で堪能してほしいので敢えて刺激が強すぎない歌を引いてきましたが、車のことをえらいと思う発想を軸に、言外に何を比べているのかなどを想像すると、日常のちいさな歪みみたいなものが浮き彫りにされるのではないでしょうか。

きみなしで生きてたころに戻るだけまた会えるから今は眠って
ちーばり「げんきでいますか」より

ちーばりちゃんからは、まさかのバ〇プオブチキ〇詠。自分も好きなバンドなので元ネタはほとんど分かりましたが、だからこそ彼女の感性で切り取られた(もしくは装飾された)言葉を読むのは、これまで見えなかった角度から世界を眺めるようで新鮮でした。引いてきた歌も、元ネタの歌詞を逆算して別れを納得しようとするいじらしさに胸が締め付けられましたね…。下の句は、他の誰かにではなく、自分の中に呼び掛けているのだと捉えました。

カーナビをわざとつけないドライブで今夜はずっと迷子でいよう
ことり「道」より

ことりさんからは、「道」というキーワードで人生の様々なシーンを切り取った連作です。中でもやはり大人の恋愛詠が光っています。ことりさんらしい、必要以上に情報を詰め込まないスマートな歌が並んでいますが、引いてきた歌はその最たるものだと感じました。キーとなる下の句を導くための「それしかない」というシチュエーションの上の句。美しいです。

葉脈をそのまま残し水分をそらに還してゆく街路樹は
中武萌「青の粒子」より

中武さんからは、秋から冬に変わっていく季節の移ろいを詠んだ連作が届きました。連作の中で大袈裟な色の描写は殆ど出てこないのですが、タイトルの「青の粒子」が強烈に効いていて、その季節特有の儚い空の青が透けるような連作でした。引いてきた首も「葉脈をそのまま残し」という写実、「水分をそらに還してゆく」という印象の対比がとても美しく、その背景にある「青の粒子」まで含めて、風景が目に浮かぶようです。

これからは次回予告のない日々を過ごしていこうなにがあっても
谷口泰星「 」Untitled より

谷口さんからはちょっとトリッキーなタイトルの連作。連作を通して静かな苦しみが表現されているのですけど、それでも、少しでも前を見るんだという強さが随所に現れていて、最後には前向きな気持ちになれる、そんな連作のように思います。この歌も、本当は連作の中で読んでもらいたいと思いつつ、なんとなく今回の連作を象徴する首のような気がしたので引いてきました。次回予告のない日々、素敵ですよね。

二日酔いには似合わないおはようが今朝も脊髄反射のように
花房香枝「朝昼毎晩服用中」より

香枝ちゃんから届いたのは、ちくちくするような日常の痛みを詠み込んだ連作。少し長い学生生活が終わろうとしている時期って、大人と子供の狭間というだけでは生ぬるい、「確立しきれていないアイデンティティとの闘い」みたいな部分があると思うんですけど、自分もそういう時期を過ごした人間であることが思い出される連作でした。お酒とか、薬とか、いろんなものに頼り、時には裏切られながら、それでも「おはよう」という朝。リアル。

図書館にいるとき等しく人間もおばけも本に守られている
草薙由莉「がっこうに棲むきみに」より

草薙ちゃんからは、学校の怪談風の連作。彼女の感性は、きちんと地に足がついているのに振れ幅が大きくてすごいなぁと普段から思っているのですが、その振れ幅を堪能できるファンタジー満載の連作になっています。その中で引いてきたのは敢えて、一番あたたかい言葉が並んでいるこの歌。このアニミズム的なやさしさが、一見危うげな連作の求心力になってるんだと思います。やっぱり地に足のついた、すごいバランス感。

沸点が低いんじゃなく僕を満たす水分が限りなく少ない
枡英児「ワンツーパンチついでにピース」より

枡さんからは、連作中の言葉を借りるなら「ぎりぎり灰色」の世界を詠んだ連作が届きました。暗いのですが、なんだかドロドロしていない。湿度は低め。そこに、ああそうか、となるのが引いてきた一首です。こう言われてしまうと納得せざるを得ない。空焚きって本当は沸騰よりもよっぽど苦しそうなのに、ピースをかましてしまう強さも好き。本当に殴られたような気分になる連作です。


いかがでしょうか。あとは私の連作「すくらんぶる」だけなのですが、自分で引いてきて語るのはなんだか野暮な気がするので、誰かに気に入ってもらえるのを願って筆をおきます。まだ読まれていない方は、ぜひ手に取ってみてください!

ではでは。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?