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僕と猫と居候 ②

半年前。
僕は2年付き合っていた彼女のことをまだ忘れられずにいた。
彼女の笑顔、泣き顔、怒っている顔。
色んな所にも行った。半年ほどは、同棲していた。
けれど。

別れは突然だった。
いつものように家に帰ると、電気がついていない。
鍵を開けて中に入る。明かりをつけた。ダイニングテーブルに、一通の封筒。そして。
家にあった彼女のものが、全てなくなっていた。

封筒を開け、手紙を読む。

《もう疲れてちゃった。別れよう。今までありがとう。さよなら。》

手紙を持つ手が震えた。すぐに彼女に電話した。何回コールしても繋がらない。
彼女の親友にも電話した。こちらは幸いにも繋がった。

「典子、楓がどこに行ったか知らないか?急にいなくなって。」

「ああ、今日だったんだ、家でるの。ごめん、どこにいるかは絶対言うなって言われてるの。もう、連絡するのやめた方がいいよ。楓、ずっと悩んだ結果だから。ここ一ヶ月くらいかな。正人の気持ちがどんどんわからなくなってくって。」

そんな素振りは一切なかったと思う。今朝も普段通りに過ごしていた。
いつもと同じ朝。よくよく考えれば、少し寂しそうだったかもしれない。
いつもより、小さめだった行ってらっしゃいの声。もっと早く気がつくべきだった。

後悔しても遅かった。もう楓との時間は返って来ない。

こうして、僕らには2年という時間に終止符が打たれ、違う道を歩むことになった。


その突然の別れから二ヶ月後。


僕が大学の次の講義の準備をしていると、隣の席にどかっと樹が座った。

「珍しいな。お前がこの講義に顔見せるなんて。」

「講義に用は無い。お前を誘いに来たんだよ。」

そういうと、樹はニヤッと笑った。

「今週の金曜の夜、7時。時間あるよな?」

「今週末はシフト入ってないけど。飲み会か。」

「そ。今回はちょっと大人数でやってみないかって話になってさ。正人、楓と別れてから飲み会来てないだろ?そろそろ来いよ。みんな心配してんだからさ。」

ん・・・。少し戸惑った。だけれど、憂鬱な気持ちを晴したかった。

「わかった、行くよ。」

樹は、よし!と満足気に笑うと、場所はLINEするからと言いながら、ちゃっかりと出席カードだけ渡して行った。

そういえば、楓と別れてから一滴も酒を飲んでない。バーテンダーのバイトをしているくせに。あんなに、二人の習慣になっていたのに。

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