調理前_加工後

ヨーグルトさんとあたし

朝起きて、窓を開けると清涼感のある風が入ってくるこの季節があたし好き。寝起きでほんわりと温かくなっていた素足がさぁっと冷えるのを感じながら、あたしは意を決して冷蔵庫のトビラを開ける。

ヨーグルトさん、ヨーグルトさん。

あたし、あなたのこと、二日に一度しか食べられないの。お腹にとっても良いことを知っているからかしら。あなたを食べると必ずお腹をこわしてしまうデリケートさんなの。

跡ひとつない真っ白な雪原のあなた。銀色のスプーンですくって口の中に放り込んだからバチが当たったのかしら。あなたのヒンヤリとした心地よい感触が喉をすべり落ちて、胃に溶けて、謎の横文字名前の菌たちが腸にしみ込んでいく。あなたが運んできたあらゆる菌たちが、あたしの頑なに動こうとしない鉄壁の腸をフニャフニャにするからイケないのよ。

決して、ヨーグルトさんが嫌いなワケじゃないの。
ただ、ちょっと、ワケありの相容れない関係なだけ。

でも、でもね。あまりにも痛いものだから。お医者さまに診てもらったら、カラカラと笑われながら「過敏性腸症候群だね」と言われてしまったわ。某国民的アニメの山根くんが患っている病気だと言えば分かりやすいかしら。

濡れ衣を着せて、ごめんなさい。

ヨーグルトさん、ヨーグルトさん。

どうにか、あなたを口にしたくて。
日に干したポカポカお布団に入って夢を見るまでのあいだ、あたし必死に考えたの。

冷蔵庫の中でヒンヤリ冷やされたあなたには、どうしてもお腹を壊してしまうイメージがつきまとうから。あなたを真っ赤な溶岩のボルシチのように、グツグツ煮込めばいいんじゃないかしら。

あたしのおうちに魔女が調合で使うような坩堝(るつぼ)は無いから、片手で持てる小鍋で良いかしら。
あぁ、でも。万々が一にでも、飛び跳ねて無防備なあたしの柔らかな目をつぶしてしまったらさぁ、大変。もっと、お手軽で簡単な方法ないかしら。

電子レンジという文明の利器を使う手も考えたけど、プリンを爆発させたことがあるからちょっと怖いの。

ヨーグルトさん、ヨーグルトさん。

あたし、ホットヨーグルトココアっていう画期的なレシピを見つけたの。
プリン爆弾再来の予感もあるけれど、アレはきっと賞味期限切れのタマゴがイケなかっただけなのよ。

ヨーグルトさんをレンジでチンして
ココアをさらさらふりかけて、まぜまぜして
お湯を注ぐだけで「はい、完成!」なんてお手軽ね。

ヨーグルトさんプラス熱湯ってことは、のむヨーグルトじゃダメなのかしら?
ヨーグルトさんは安価なプライベートブランドのもので代用可能かしら?

好奇心がちょろりと顔を覗かせたけどダメダメ。
あたし、プリンの二の舞になんてならないんだから。

日の光にさらすと貝殻の裏側みたいに虹色に輝く乳白色がキレイなお気に入りのマグカップ。陶芸が得意なおばあちゃまに作って貰ったペアカップなの。残念ながらペアの相手は居ないから、ひとつだけ棚からそっと取り出して、これで準備万端。

今度こそ。
そう、今度こそ、ヨーグルトさんと仲良くなれるかしら?

今朝つけたちょっと奮発して買った化粧水、仄かにヨーグルトさんの香りがしたから、きっとうまくいきそうな予感がするの。

ヨーグルトさん、ヨーグルトさん。

今度こそ、あたし。
あなたのこと、もっと、もっと、好きになれると思うの。


転職活動一発目の面接で心が折れた精神惰弱なわたくしに、こころばかりのサポートいただけると大変嬉しいです。