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アトピー性皮膚炎の症状をどこまで抑えるべきなのか?

アトピー性皮膚炎の治療は進化している

というのは毎日診察して思っていることでもあります。
ここ5年間、注射、飲み薬、塗り薬と新薬がどんどん出てきました。
それにより、アトピー性皮膚炎のコントロールは全体的によくなってきた印象があります。

一つ目の変化は強力な治療薬が出てくるようになったこと。
デュピクセントを嚆矢として注射薬はミチーガ、内服薬としてオルミエント・リンヴォック・サイバインコと使用可能になり、さらには今年も新薬が追加されている状況です。
これらの薬剤の特徴としては効果が非常に高く、全身に広がっている真っ赤な湿疹も数週間で一気に症状を抑えることができるのが特徴です。

もう一つの変化は副作用が低減されたこと。
昭和の時代はステロイドの外用薬しかありませんでした。21世紀に入りプロトピックが上市され使用可能になりましたが、ここ数年でコレクチム・モイゼルトが市販可能になり、その後も続々と新薬が出現することが予定されています。
これらの薬剤の特徴は効果よりも副作用にあります。
ステロイドの長期連用に伴う副作用でもある皮膚の萎縮や毛細血管の拡張、皮膚の脆弱化などは新薬では見られません。また易感染性の副作用もモイゼルトではほとんど見られないようになっています。

アトピー性皮膚炎治療外用薬の副作用まとめ

内服薬でも副作用は低減されてきました。免疫抑制剤であるステロイドに比べ、その後出現した薬剤では骨粗しょう症・中心性肥満などの副作用はみられません。注射剤に至っては易感染性という副作用すらありません。

薬剤そのもの以外による問題点

このように新規薬剤の特徴として
・治療効果が非常に高くなったこと
・同様の強さの治療薬であれば副作用が低減できること
の2点を挙げることができるでしょう。
では問題点はないのでしょうか?

当然今までと別の機序で薬効をもたらすということは今までとは異なる副作用が生じることが知られています。
特にデュピクセント・ミチーガなどの生物学的製剤(抗体というたんぱく質を使用する)では、生物学的製剤であるがゆえに中和物質が作成され、効果が低減する可能性があることが理論上考えられます。
(現在まで外来で経験したことはありませんが)
また、デュピクセントでは結膜炎や顔面の湿疹の悪化が知られています。ミチーガでも奇妙な赤みが皮膚に出現することがあります。

もう一つ、大きな問題が薬剤としての作用以外にあります。
それが値段です。

その新薬、高くないですか?


アトピー性皮膚炎の全身治療薬の薬価一覧

とは外来で新薬のお話をするときに聞かれる質問です。
デュピクセント、オルミエント、リンヴォック、サイバインコ、ミチーガ(販売順です)いずれも通常の投与法では3割負担として月に4万円から5万円を薬剤費として要求されます。
この金額はそう簡単に捻出できるものではないですよね。わかります。
こちらも説明の時に心苦しくなるくらいですから。
プロトピック、コレクチム、モイゼルトも同様にステロイド外用薬の10倍の値段がします。保湿剤の3倍くらいですね。こちらも程度は低くありますが、治療コストを引き上げる要因になります。

どうしてこんなに高いんですか?

こちら、外来ではどうにもならないです。ごめんなさい。
薬価算定については難しい問題もあるようです。医療行政についてはいろいろ言いたいことがありますが、こちらでは触れません。
与えられた条件で最良の結果になるように現場で頑張っていくしかないのです…

どこまでアトピーを抑えばいいんでしょう

今まではアトピー性皮膚炎はとにかく症状を抑えればいいというのが今までの考え方でした。
昭和の時代は湿疹が出たらその部分を抑え込めばいいというものでしたが、研究が進むにつれてどうもそうでもないことがわかってきました。
湿疹が見えない部分であっても、皮膚のダメージはあり、小さな炎症があることが分かってきたんですね。
そこで最近は症状のない部分も必要十分な治療を行い、湿疹そのものを作らせない治療のほうが結果として症状は抑え込むことができ、本人のためになることがわかってきました。一般にプロアクティブ療法と呼ばれる治療法ですね。

しかし、ここで疑問が出てきます。プロアクティブ療法を行うのに、高価な薬剤を使い続ける必要があるのか?
という問題です。

プロアクティブ療法のコストパフォーマンス問題

私は個人的にコストパフォーマンスという言葉はあまり好きではありません。コストとはお金のことと短絡的に考えることが多いからです。
本当はコストとは時間や手間、そのことに伴う心理的な影響を考える必要があり、そのために簡単に決断できないんだよ。と思うからです。
閑話休題。
現実問題としてアトピー性皮膚炎の治療効果の反対にはお金が来るのはやむを得ないと思っています。
そのために高価な薬剤を最低限にしつつ、最大限の効果をもたらすことは治療方法を検討するうえで必要なことではないかと思っています。当然です。
ただしっかりと考えるべきは、「治療効果とは湿疹そのものではなく湿疹を持っている患者さんのことである」ということです。
あくまでも相談をしていきながら治療を決めるべきでしょう

コストを下げるいくつかの方法

まず注射薬に関しては、治療間隔をあける方法をとっています。デュピクセントは登場から5年が経過し、当院では長い人は4年以上投与を行っております。そのためアトピーの症状はほとんどゼロまで減っている人も多くみられます。
そのように効果がみられる患者さんでは投与間隔の延長をしています。メーカーさんは2週間隔を推奨していますが、当院では半数以上の方が間隔の延長を行っています。最長で2か月空いている人もいますね。

塗り薬については、保湿剤などを利用して薄め、結果的に薬剤の使用量を減らすように努力をしています。
また塗る回数の調節も行うことで結果的に使用量を減らすことができます。

このように使用薬を減らす努力を行っています。

しかし、そもそもゴールをどこまで設定してどこまで一生けんめい治療していかなければいけないのでしょうか?

皮膚科医としてのゴールは湿疹が抑え込めて日常生活を通常通り行えることだと考えていますが、そこは本当にゴールなのでしょうか?最近は悩むこともあります。

治療のゴールと考えるから疲れてしまう

のではないかとも考えるようになりました。
ゼロを目指すのは一つの方法ですが、それはとても難しい道ですし、はるか遠い彼方のように見えるかもしれません。
必要な手間や時間、金額を考えると疲れてしまうかもしれません。

一歩先に進めてみる治療法

というのもの一つかもしれません。今回述べるのはこのような治療法です。
つまり、まず、一段だけ症状をよくしてみる。
その時にどのようになるのか。実際になってみて経験してみる。
というのもアリではないかと思っています。

もちろんコストは少しだけかかります。ただ、ずっと治療を継続するよりは少ないコストでお試しすることができます。

まず、赤みがなくなったお肌。かゆみを感じない生活。
そのようなものを一度体験してみませんか?とも思うのです
例えば就職試験の時、受験の時、結婚式の時、旅行に行く時。
その数週間前から準備を始めて、その時だけでも症状をよくしてみる。
というのは考えたかとしてもありだと思います。
当然その時に調子がよくなればしばらくはその状況が続くでしょう。たとえすこしずつ元の状況に戻っていくとしても。

そのうえで、もう一度湿疹をどこまで抑えればよいと考えるのか。そのためにどのくらいの手間暇をかけられるのか。チェックポイントを考えてみるというのも一つの方法なのではないでしょうか?

せっかく以前よりも力強く、以前よりも副作用の少ない治療法がいくつも出てきたのですから、そのような道具を上手に使いながら、症状を抑えてみるのも一つではないかなと思うのであります。

3行まとめ

最近になって効果の強い、副作用の少ない治療法がいくつも出てきました
しかし金額は高く、継続した治療に躊躇してしまうこともあるでしょう
必要な時にちょっとだけ使い、その時に楽にする方法もありますよ。


以下は有料ページとなっております。
今回は上に掲示したファイルのロゴ無し版となります。
あくまでも当方の見解ですので、そちらをご了解の上でしたら流用頂いて構いません。

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