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アトピー性皮膚炎に対する全身治療薬の選び方(2023年1月版)

アトピー性皮膚炎の治療がここ数年でいっきに進んだことはご存知でしょうか。
ありがたいことではあるのですが、逆に種類が増えてしまい患者さんも(下手をすると皮膚科医も)選びきれていないというお話がちらほらと聞こえます。
当院では全身治療薬の使用開始直後より患者さんと一緒に治療を進めてきました。そのために他のクリニックよりもちょっとだけまとまったお話ができそうなので、今回はそのお話を進めていきましょう。

※当記事の最後尾に有料ページを設けております。こちらは専門家向けに今回用意したスライドと同等の透かしのないものを用意しております。
クリニック内で患者さんに対して改変無しで利用するのは許可しますが、学会その他の同業者の目に触れるところで使用する場合には当クリニックの名前をそのスライドに入れるようにしてください。節度のある使用をお願いします。

はじめに

今回の図表ですが専門家向けのスライドを流用したものとなります。
略語が多く出てきますので、その解説をはじめに行います。
詳細について興味をお持ちの方はリンクから各社の公式ページをご確認ください。

デュピクセント(サノフィ) DUP
 
2018年4月より販売開始
抗IL-4/13受容体モノクロナール抗体

オルミエント(イーライリリー) OLU
 
2020年1月より販売開始
JAK阻害剤

リンヴォック(アッヴィ) RIN
 2021年8月より販売開始
JAK阻害剤

サイバインコ(ファイザー) SAI
 
2021年9月より販売開始
JAK阻害剤

ミチーガ(マルホ) MIT
 
2022年8月より販売開始
抗IL-31受容体モノクロナール抗体

アトピー性皮膚炎の全身治療薬比較

これらの5種類の薬をまとめて比較した表がこちらになります。
比較のポイントはすべてこちらにまとめてありますし、当院では患者さんにこちらのプリントとほど同様のものをお渡ししています。(プリント自体はA4タテなのですこしデザインは変わりますが)

まあ、これだけではなかなか比較することは難しいでしょうから、いくつかの要素に分けて比較を進めることにしましょう。

全身治療薬の比較ポイント

こちらの4項目から比較し、選定を進めていく形になります。
重要度の順に並べてありますが、あくまでもこちらの考える重要度ですので、患者さんの意向を確認しながら選択を行うべきと考えています。

年齢と重症度から選定する

まずは年齢と重症度からの選定基準となります。
注意してほしいのですが、こちらは絶対的な基準となります。
おくすりを使用するための基準が厚生省から定められておりますので、その基準に合致しない場合は絶対に使用不可能なのです。
その基準の1つ目は年齢ですね。こちらは1日でも前だと不可です。
次の基準はEASIスコアというものです。アトピー性皮膚炎の皮膚の症状の強さを数値化したものですね。(詳しく知りたい方はこちら
こちらの一定の基準を満たさなければ絶対に使用不可能です。

さて、スライドを見ていただくとわかるのですが、それぞれの数値が微妙に異なるのがわかるかと思います。
特異な数字を上げると
年齢12歳でRINとSAI、13歳でMIT、15歳がDUPとOLU
EASIは10でMIT、それ以外はすべて16以上となります。

つまり、年齢とアトピー性皮膚炎の重症度によって、使用できない薬が決まってくるということです。ここ大事。

投与方法から選定する

次に考えるべきは投与方法からの選び方です。
注射剤のDUPとMIT
経口薬であるOLUとRINとSAI
での違いですね。

詳しく書くと薬物の体内での吸収や作用、排泄の状況が変わってくるので、そのあたりもしっかりと触れるべきでしょうがまずはシンプルに考えて、時々痛い思いをする必要のある注射剤と飲むのは簡単だけど忘れるリスクのある経口薬。と考えれば良いのではないでしょうか?
だって注射してくれない、飲んでくれないお薬はそれがどんなに良いものであったとしても効果はゼロですからね。

副作用・事前検査から選定する

あとは副作用についても考えなければいけません。
こちらの考え方は経口薬とそれ以外と考えれば良いでしょう。

最初の薬の説明で気が付きましたか?経口薬はいずれもJAK阻害剤と記載されていましたね。こちらはそれぞれ同じ種類のお薬です。
ではJAK阻害剤がどのように効くのかを一言で説明すると免疫を抑える薬です。免疫とアレルギーはオモテウラですので、アレルギーに良く効くお薬は一般的には免疫力低下の副作用も出てしまうと考えても良いでしょう。
したがってJAK阻害剤と全身の細菌・ウイルス・真菌(カビ)感染症のリスクは一緒に考えるべきでしょう。
そのために事前にいくつかの感染症をチェックする必要があり、そのためにわざわざ内科まで行って検査して貰う必要がありと、少し手間暇がかかる問題もあります。

対して注射薬には感染症の問題こそありませんがそれぞれ特徴的な副作用があります。DUPについては顔の湿疹の治癒遅延や結膜炎が出ることが多いですし、MITはときに不思議な赤みが出てくることがあります。いずれもなぜか起きるのか理論的にはまだ良くわかっていません。

コストから選定する

コストについての問題も大きいです。
最初のスライドにあるとおり、自己負担額で月に数万円かかることもあります。こちらのコストについては金銭的な負担と、それを払った場合に得られる湿疹のない生活という利益とを天秤にかけて決定することが大切です。
あくまでも自分で判断をして治療を開始することを決定しなければいけませんので当院ではこのようなプリントをお渡しし、お家でまず金額の試算と自分の持っている健康保険システムからの補助についてを調べてもらっています。
その上で判断を行う必要があるでしょう。もちろん早めに準備を行い、開始を待つのも一つかと思います。

あとは出口のことも考えておく必要があります。
どのようにして終わりに向かっていくのかというお話です。
こちらも難しい問題ですが現時点の考えかたとしてはでは中止終了は難しいので、ずっと手を緩めつつ続けていく方向で進んでいます。
少なくとも開始前の段階では治療開始後にどのような方で減らしていけるかは判断できず、各自の状況を見ながら調整を進めいくと考えたほうが良さそうです。
メーカーさんからも公的な話としての止め方の話は聞こえてきません。こちらは現在も専門家の間での議論のテーマとなっています。

まとめ

このようにアトピー性皮膚炎の全身治療薬は選択肢が増えた分だけ考えることも増え、混沌としているのが現状です。
患者さんの側としても資料がそれぞれのメーカーから分断して行われそれを横断的に比較することができないのが現状です。
(もっとも、現在製薬メーカーが他社薬剤と比較することは禁止されているのでやむを得ない面もあるのですが)
今回の記事をもとにして皆さんのアトピー性皮膚炎の治療の方向性が決まってくるとよいと考えております。

以下は有料記事となります。

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