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ショートショート4.『HERO』

僕ら兄弟は、山に山菜を取りに行っては、それを街で売って生活していた。双子の兄はきのこが好物で、僕が作る山菜やきのこを使った料理をおいしそうに食べてくれた。

兄は勇敢で働き者で、たくましい男だった。そんな兄に比べ、僕は気弱で臆病だった。僕をいじめた奴らを兄は懲らしめに行ってくれたり、お化けが苦手な僕が眠るまで傍にいてくれた。兄は出かけるときいつも、父の形見の赤い帽子を被っていた。その後ろ姿は僕のヒーローだった。

ある日のことだ。兄が恋心を寄せていた女性が町で有名な悪の集団に誘拐された。兄は彼女を助けるために、僕の説得を振り払い家を飛び出した。兄は数日間戻らなかった。僕は最悪の事態を想定していたが、それは要らぬ心配だった。兄は無事彼女を救い出し、戻ってきた。
町の人々は兄の行動を称賛し、一躍有名人となった。兄の雄姿は語り継がれ、兄が亡くなった現在も、ゲームのキャラクターとなって多くの人々に親しまれている。兄は「マリオ」と呼ばれ、クッパという悪党からピーチ姫を救い出すストーリーの中で、今も生き続けている。僕の自慢の兄だ。



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