忘れたくないから書くのだ。
【「きいろだねぇ」と花を摘む君を見てアカカタバミの名前を覚える】
「雑草という草はない」
昭和天皇がかつて仰った言葉だそうだ。入江相政の「宮中侍従物語」の中に出てくる。この言葉は「植物図鑑」(有川浩)でも使われているのでご存知の方も多いと思う。
最近の私のライフワークのひとつが草抜きだ。娘とともに庭にいると、自然が子守をしてくれるので非常に助かる。特にイライラしているときは、娘と少し距離を置くことができるので、ありがたいことこの上ない。
そんな私だが草を抜いていると、ふいにこの言葉を思い出す。以下、「宮中侍従物語」より抜粋。
□■□
昭和天皇が留守中に、お住まいの庭の草を刈った侍従の入江相政に天皇は尋ねられた。
「どうして草を刈ったのかね?」
入江は、ほめられると思って、
「雑草が生い茂って参りましたので、一部お刈りしました。」
と答えた。すると天皇は、
「雑草という草はない。どんな植物でもみな名前があって、それぞれ自分の好きな場所で生を営んでいる。人間の一方的な考え方で、これを雑草として決め付けてしまうのはいけない。注意するように。」
と諭された。
□■□
そうなんだよねぇ。好きな場所にはえているだけなんだよねぇ。
と思いながらブチブチと抜いていく。真っ直ぐな根の草などは、すぽんと小気味よく抜けるものだから、カサブサがきれいにとれたときのような奇妙な爽快感がある。
そんなときに、娘が小さな指で黄色い花を摘んでいるのが見えた。摘んでは片手に押し入れ、また摘んでは押し入れ。そして私の目線に気がついて、にっこりと笑いながら、テコテコと歩いてくる。
畑には畝があるが、そんなものは全く気にせず、植えてあるゴーヤの苗やナスの苗を踏み踏み歩いてくるものだから、足をとられてこけるんじゃないかと心配したり、苗が潰れるんじゃないかと思ったり、こちらの気持ちも忙しない。
しかし娘はこけることなく歩ききり、笑顔のまま、片手を私に突き出してきた。
「ん!」
「え?」
「ん!!」
隣のトトロのさつきとかんたのような会話を交わしつつ、娘はパッと手を開いた。
黄色い花が娘の手の中いっぱいに咲いていた。
「きいろだねぇ!」
覚えたての言葉を使って、また近くにあった黄色い小さな花を摘む。そしてまた見せてくれる。
思わずスマホで花の名前を調べた。「黄色い花 5月 小さい」といれると、いくつか候補が出てきた。多分これだ。「アカカタバミ」もしくは「ウスアカカタバミ」。
こういうときにスマホはありがたい。簡単に調べたいことが出てくる。
「黄色だねぇ」
と私も返す。そんなことをしていると、イライラしていたのもおさまってきて、笑顔を見せる余裕が生まれてくる。
娘にイライラさせられることは多い。が、娘が癒してくれることも同じくらい多い。娘に教えることは多いが、やはり娘に教わることも多い。
とりあえず今日は「アカカタバミ、ウスアカカタバミ」の名前を覚えた。見分け方はよく分からないが。もっていて何かに使える知識ではないけれど、いつか「あんたが小さい手で摘んでくれてねー。嬉しかったから名前を覚えたのよー」と言ってみたいので、この名前は私の辞書に登録しておく。
子育ての忙しさにかまけて忘れてしまったことの多さに悲しくなる日もあるが、今日は覚えていられそうなことがひとつ増えたことを喜ぼう。
今日もよく生きた。娘も可愛かった。
感謝。
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