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小林という男

社会人1年目の夏

私は焦っていた


というのも、私が所属していた経理部には
同世代と言える存在が
2歳上の先輩しかいなかった

違うフロアに20代〜30代前半の人がいるが
なかなか接点がなく
別部署に1人はなんでも聞ける存在がいた方が良いと考えていた私は
社員会という名の大規模飲み会には必ず参加すると決めていた

8月
入社後2度目の社員会

その時私の隣に座ったのが
9歳上、当時32歳の小林(仮)という男だ


話をしていると、
どうやら小林と私は最寄り駅が隣らしい

仮にその路線を山手線だとする

小林は
この会社に何人か山手線ユーザーがいるから
山手線飲み会とかしてるよ
わかちゃんもおいで

と言う

職場の人と仲良くなりたい私にとって
そのお誘いはかなりありがたいものだった

小林は弊社の若手グループの中では歳が上の方で
この人と仲良くしたらほかの先輩とも仲良くなれるのではないかと思った


最寄りが隣なので
オススメの居酒屋を教えてくれるとのことで
まずは2人で飲むことになった


オススメという居酒屋を2軒ハシゴした

ここまでは良かったのだ

最後に、小林がよく行くという立ち飲み屋に行くことになった

するとどうだろ

小林は店に入るとイキり始めた

これはもう見ていられないほどに

小林「じゃあ俺、常連さんに挨拶してくっから‪☆」


と私を放置して
いつも会うという常連さんの所に行った

なんだろう
文字では伝わらないだろうが
おそらく小林
そこまでこの居酒屋の常連ではないなと感じる

なぜならほかの常連さんの反応がイマイチだったからだ

傍から見て可哀想だった


小林「今日は可愛い子連れてきてンすよォ〜!」


私はてめえの飾りじゃねえんだけど


店が混み始めると
私と小林の距離はかなり近くなった
腰に手を回され
かなり鳥肌が立ってしまった
普通に引いていた



小林「俺、明日河川敷でスケボーやるんだよね」



スケボーが悪いのではない
ただなぜかくそダサい


その立ち飲み屋は小林の家の最寄りだったので
帰りは駅まで小林が送ってくれることになった

事件はその時に起きた


急に私の手を掴んできたのだ

振りほどこうにも力が強くてどうにもならない

泣きたかった
気持ち悪かった
逃げたかった
叫びたかった
これはただの痴漢である、と


そして小林は言った







今日手繋ごうと思ってハンドクリーム塗ってきたんだよね







は?



意味わかんねえよ、夏だぞ



駅に着くと両手を広げる小林



貴様、そのまま天に召されてしまえ


私はSuicaをタッチした



翌日、スケボーの動画が送られてきたのは言うまでもないだろう


俺、好きになったらもうストレートに行くから


と文章が添えてあった

お前のストレート、思いっきりボールだったよ


小林の奇行は仕事にも支障が出た

私に出す経費の精算をわざと間違える
小林のフロアに行く時に私を見つけると階段で待ち伏せをするなどだ


俺が出張行ってて寂しい?と連絡が来たこともあった


お前が出張に行ってたの、このLINEで知ったわ



まあ小林も32歳の大人である
無視をキメ続けたら察したようだった


それ以降、小林とはほとんど話していない

彼氏と御殿場のアウトレットに行ったら
小林が女と歩いているところに遭遇し
当時の彼氏と走って追いかけたのは良い思い出である

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