「独身だけど、今日から親になります」 子供の感情を抱えて大人になった人への日記-2

皆さんにとって長所ってなんですか?
長所が見つかった時は宝物を見つけたような気持ちになるもんだと私は思います。

今日は、少し”息子“の自慢をさせてください。

彼にはすごい所がたくさんあるのです。

彼は言葉遊びが大好き。
会話の中から単語を拾って、ランダムにダジャレや冗談で返して来ます。

しかも、それがダジャレだと気が付かなくても、文脈を破綻させない単語を選んで発するのです。

彼の表情を見ないで話してたら、おどけて言っている事に気付かず、本気で変な事を言っているのだと思ってしまうかも知れない。

これはジャーナリストであった私から見ても驚くべき文章構成力です。何せ今書いた事を会話の中でリアルタイムで行うのですから。

しかし彼は「みんな理解してくれないおもしろさより、つまらなくても伝わる方がいいんだぁ」とすねます。

彼は完全に冗談のつもりで言っても、両親に叱られたり、友達に嫌われた経験があるのだそうです。

…気を取り直して、もう一つ彼の特技を紹介しましょう。読破した本の内容の記憶力と、それを伝える能力です。

多くの人はお気に入りの漫画や映画があって、お気に入りのキャラクターがいますよね?

彼にかかれば歴史書や聖書もそう言う物。彼の頭の中には日本史と世界史、旧訳聖書、新約聖書、ギリシャ神話と古事記のストーリーの概要が入っていて、自分の出したいタイミングでその知識を引き出す事ができます。

それ以外のサブカルチャーも挙げていたら、紙面がいくらあっても足りません。バットマンやアベンジャーズ、X-MEN、るろうに剣心、キングダム…実写映画化した物だけ挙げても、彼が2時間以上1人で喋れる話題はこれ位あります。

これも親の目から見たら「凄い」と褒めちぎりたくなる能力です。

彼は自分とは異なる経験をしているキャラクターに対して、エンパシー(=自分と違う価値観や理念を持っている人が何を考えるのか想像する力。ちなみに感情面で共感するのは“シンパシー”)を感じ、まるで「自分ごと」として思考できてしまうのです。

さらに、私も何年も教会に通って聖書に触れていますが、そもそも大人でも聖書を全部読破した人が稀(まれ)です。

そして読破したとしても忘れてしまうのが常です。だから覚えた知識を即座に使えて、人に伝えられるのがどれだけ凄いか、皆さんにもわかると思います。

「でもぼくの知ってる事を知らない人、興味無い人にとっては、ぼくが”変な奴“なのは変わらないんだぁ」と彼は声を落とす。

まあ、人間って自分の興味や関心のある分野以外の話は聞きたがりませんものね。

熱くなって話せば「ふーん」と興味の無い反応をされるか、「自分の話より私の話を聞いて」と責められるか。

彼の話の聞き手に徹してる私も、元来おしゃべりなので、彼の悲しみはわかります。
誰しも「聞いて」と誰かに要求するけれど、彼の「聞いて」を受け止めてあげられる人はなかなかいません。

まだまだ彼の自慢できる所はあります。実は腕っ節と度胸が良いんです。

サッカーや野球、体操や鉄棒、マラソンなどの陸上競技、ダンスなんかは苦手だそうです。
学校の科目に取り入れられたり、評価を得やすい競技ばっかりだ…

でも格闘技は得意です。習っていたのもありますが、元自衛官の私から見ても応用力が凄い。
彼が段位を取ったのは空手だけですが、柔道でも、武器を使う剣道や銃剣道の授業でも、部活をやってる者や有段者と同じ扱いでした。

通っている教会でも、強面なお兄さんが来たら彼の出番です。相手がどんなにすごんでも笑顔で話を続けます。
一回エリを取られたのですが、相手の手首を極めて難を逃れ、そしてハグをして暴漢を「涙を流す友人」に変えてしまったのです。

先ほどエンパシーについて触れましたが、彼にとっては攻撃してくる「太刀筋」が見えているのだそうです。

だから彼にとって格闘技とはスポーツのように体力やスピードを競うのではなく、自分の体を駒にして将棋やチェスを打ってる感覚なのだと教えてくれました。

この時も太刀筋がわかってるから対処する為の思考はせず、相手の感情に触れる為だけに、集中力を使ったのだそうです。

「でも、こんな能力欲しくなかった。足が早くて格好いいサッカーか野球選手が良かった」と彼は言います。

才能に貴賤は無いはずですが、人の好き嫌いを軸に見てみたら、彼の嘆きも的外れでは無いかもしれません。


…今回は彼の自慢をたくさんしたいのに、なんか盛り上がりませんねぇ。
感の鋭い読者の方は、お気付きかもしれません。彼は、長所を“宝”でなく、呪いだと解釈しているのだと。

私も最初聞いた時はビックリしました。
何せ、世の就活生が「自分の長所は何?」とか「短所の言い方を変えて長所に聞こえるように…」って困り果ててエントリーシートに向かってる姿の方が見慣れていたのですから。

普通はこのように、長所を見つけるだけで一苦労。だから長所を見つけたら宝物を見つけた気持ちになる…と私は思っていました。

でも彼にとって、短所は普通の人と同じように克服したいと思ってますが、長所も「出る杭」として他人に叩かれてしまう物。

これでは楽しく生きるのは困難です。受けるべき祝福の言葉が無く、全てが呪いの言葉だと受け止める事になるのですから。


彼の産みの両親も「がんばりなさい」と言うけど、「よくできたね!」は言ってくれなかったのだそうです。

お手伝いをして、ミスしたら怒られる。
掃除も料理も、親の頼み事はできてて当たり前。

彼がお風呂を沸かしても、お父さんは無言で入るだけ。
「水垢が落ちてない」とか、「ぬるい」とか「こんな簡単な事もできないのか!」などと言われる事が多かったのだそうです。

料理をしても「美味しい」じゃなくて「もうちょっと唐辛子の量を」とか、出汁の話とか、批評になります。まるで料理漫画に登場するようなレベルの会話です。

彼の好きな番組が「料理の鉄人」、「食戟のソーマ」や「中華一番」、「美味しんぼ」などを愛読していたので、この長所は伸びました。

しかし人によっては落ち込んでしまったり、「文句があるなら自分で作れ!」と激昂するような内容の会話です。

学校で喧嘩になる事もあったそうですが、彼は武道家として、自分から好んで喧嘩をする事はありません。

むしろ「空手やってるから反撃できないんでしょ?」と言って恐喝されたり、イタズラされた時に反撃する程度。

でも勝っても親や先生から怒られて、負ければ「何の為に空手習ってるんだ!」と嘆息される。

大会で負けたら「金と時間の無駄」。

銀メダルでも「何で負けたの?」では、誰だって傷付くってもんです。

彼は短所は直すように言われ、長所も改善をするように言われて、疲れてきってしまっていたのです。

他の人の思いを受け止める重要性を教わったのに、彼を受け止めてあげる人はいなかった。

かつて勝ち続けたがゆえにF1でターボエンジンの使用を禁止されたホンダの技術者のような(喩えが古い?笑)、そんな気持ちかも知れません。

まあ、それでも戦い続けているのですから、親として誇りに思います。

私もかつて“義理の父”に「お前は高価で尊い。お前を愛している」と言われて、救われました。

だからこれからも彼の「聞いて」を疲れて眠るまで聞いて、ハグをして、一緒に眠ろうと思うのです。

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