筋を読む

この業界では、よく、勝ち筋、負け筋のような言い方をすることがあります。訴訟に持ち込んだ時に、勝てそうなら勝ち筋、負けそうなら負け筋、です。
必ずしも勝ち筋のみが裁判にかけられるわけではありません。負けを覚悟でも、闘わなきゃいけない時というのもあります。なので、当職は、よくドラマで見かけるような、勝訴率ウン%、のような統計はそもそも取ってませんし、取っても意味がないと思ってますし、あんなこと標榜するのはドラマの中だけであって、現実社会ではむしろそんなパーセントは出すべきではない、と考えております(え?うそー?!とお思いの同業者の方は、職務基本規程を熟読しましょう。)。
それでも、弁護士たるもの、筋を読み間違えるというのは、ご自身にとっても、依頼者にとっても、相手方にとっても、相手方の代理人にとっても、そして裁判所の裁判官にとっても、書記官にとっても、不幸でしかないことなので、適切に「筋を読む」努力は、怠ってはなりません。
どう見ても負け筋なのに、何十頁にもわたる大作の準備書面を提出されれば、関係者一同、やはりそれへの真摯な対応を迫られます。
負け戦はするなということではないです。
が、筋を読み違え、適時に解決しうる案件をイタズラに引き伸ばしても、何もいいことない。ほんっとーに何もいいことないです。
一つの事件を受任してから終了するまで、1年半や2年ほどかかることはザラですので、最初の右も左も分からない頃の修行時期を5年と見て、その後、2-3件の事件が最初から最後まで責任もって担当した頃に、ようやく、落とし所というものを意識することができるようになる、すなわち登録から10年くらいはかかるよなー、というのがなんとなくの感触です。
なので、相手方に、10年未満の弁護士が就任したときは、こちらは、身構えます。
不用意に、若手弁護士さん、なんて口走ろうものなら、もう、ムキになってすっごい勢いでこちらを睨んできますので(負けず嫌いで血気盛んなのはまことに結構ですが)、どんな書面が届いたところで、はいはい、あーそーですか、と流せるくらいのおばちゃん魂も必要になって参ります。
つらつらと書きましたが、今しがた、スケジュール管理で使ってるカレンダーをしみじみと眺め、各案件が、筋ごとに、色なき色に染まって見えるわけです。
繰り返します、負け筋だって勝ち筋だって、大切な案件に変わりありませんので、力の入れ具合に差はございません。
しかし、筋ごとに、剛より柔、柔より剛、などと使い分けられるくらいの器用さは必要だと思うわけです。

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