ファミリービジネス・いろは

その昔,ダスティンホフマン,ショーンコネリーらが出演した,映画「ファミリービジネス」は,泥棒一家の話であったが,今回の記事は,泥棒一家「ファミリービジネス」のレビューではない。

ファミリービジネス,同族企業。特定の親族らが所有し経営する企業をいいます。この「ファミリービジネス」「同族企業」という響きに,マイナス要素を感じるのは,骨肉の争い,慣れ合い経営,ワンマン経営,などの印象が付きまとうのともう一つ,冒頭で述べた,映画「ファミリービジネス」も影響しているんじゃないか,と思っている。

しかし,実際はファミリービジネス,同族企業のメリットの側面も多々指摘されている昨今だ,とのこと。なぜなら業績がいいから,などと物の本に書かれている。そして世の中にある企業の実に9割以上がファミリービジネスだと言われており,そんなビッグマーケットを放っておきたくない方々が,ファミリービジネスアドバイザー,ファミリービジネスコンサルタント,などを名乗っている,というのが現況。

当職は弁護士なので,コンサルを生業とはしないが,個人の方のご相談に乗っているうち同族企業にまつわる悩みも浮上したり,あるいは中小企業のご依頼者から直接今後の事業承継についての相談をいただいたり,ということが相次いだため,少し知識をまとめておこうと思う。

第1回の今回は,ファミリービジネスのメリット・デメリットについて。

よく言われるのが,短期的な利益の追求ではなく,永続が重視されるため,「すぐには結果が伴わない投資」への躊躇が少ない,ということ。投下資本の回収に何十年もかかるような,最新鋭の工場を作るとして,3年を2期務めて終わる社長(非同族企業)と,30年勤めあげて次世代にバトンタッチする社長(同族企業)とでは,投資への意欲に差が表れるというのだ。また,次世代にタスキを回すための投資と考えると,向こう60年を見据えることができる。

また,株主と経営者の距離が近い(あるいは重なっている)ため,会社への「愛着」も強いとの評価を受けやすい。これは主に金融機関からの信用につながる。

30年に1度の社長交代(株主交代)は,逆に,だからこそ世代が交代した際にドラスティックなイノベーションが生まれる可能性もあるとみられている。非同族会社では,社長の考えに近い人物が次期社長になる,という小刻みな経営権のバトンタッチが繰り返されるが,同族会社の場合,事業の承継時に一世代の落差があるため,様々なイノベーションの契機になる,というのだ。

逆にデメリット。

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よく言われるのが,スリーサークル。要するに,「所有(株主)」,「経営陣」のほかに「ファミリー(創業家)」という関係者群が存在することにより,非同族企業なら「株主と経営陣」という二者間の利益調整で事足りたところ,「株主とファミリー」,「経営陣とファミリー」という利益調整も加わり,この利益調整の労力が非同族企業の場合の三倍になるぞ!というもの。

株式会社とは,株主が取締役を選任して取締役が株主の利益になるよう会社を経営していく,という構図を前提とすると,「ファミリー」というものが何を指すのか,いまいちしっくり来ないだろう。株主を兼ねているファミリーもいれば,株主ではないファミリーもいる。同族企業だからこそ考えねばならないポイントがあるとすれば,潜在的株主候補者,要するに相続により次期株主になると目される人たちの存在,あるいは株を持たず経営にも携わっていないが発言力だけやたらと強い,肝っ玉母さんのような存在をイメージすればいいだろうか。

相続により株主が世代を経るごとに増えていく点も,リスクといえばリスクだろう。

家族,親族であるがゆえに,心の奥底の気持ちを分かってほしい,なのに分かってくれない,そこから出てくる感情的な対立,というものもリスクである。

「うちの子をあんたとこの会社で雇ってよ」と,親族を入社させようとするのもリスクにカウントできる。

親族間の対立は不可避である!などと唄う本もあるが,できれば争いは最小限にしたいなぁと思う人も多いはずです。では,どのように争いを最小限にして,永続的な企業を存続,発展させていけるか。次回以降,いろいろ探っていきたいと思います。


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