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エッセイ 体重計

 体重が、徐々に増えている危機感があったにもかかわらず、臭いものに蓋をする気分で、長らく計測をせぬままにやり過ごしていた。

 ところが、浴室でプラスティックの椅子に腰掛けて、ぶざまな下腹をさすっているうちに、突如、現実を直視することを思いついた。

 それで、風呂上がりに、スッポンポンのまま、ひっさしぶりに体脂肪計に乗った。

 すると、デジタル表示で、64.8 kg 。

「ヤバイで、65キロという、自分という人類における未知の領域に突入するがな!」

 それで、もう一度測り直そうとしたら、なぜかデジタル表示が出ない。

 電池が切れたのかもしれん? と、単三電池2本を入れ替えたが、うんともすんとも言わない。

「あかん、こら、液晶がご臨終や」

 私は、体脂肪計が臨終の間際に、それまでに残ってた力をすべて出し尽くして、この世での最後の仕事をしたのだと考えた。

 ということは、きっと、張り切って普通より多めに数字を出したに違いない。

 たぶん、私の今の体重は、ホントは、63kg くらいのはずだと、推測して決定した。

 けれども、やはり気になる。

 そこで、やっぱり新しいのが必要だと考えた。

 別に体脂肪まで測れんでもええから、一番シンプルなやつ……を、Amazon で探していたら、ついつい、デジタルではなく、アナログ針の奴に目が行った。なにしろ、劇的に安かった。

 なんとなく、デジタルの方が正確そうな気もするのだが、ボクサーの計量やないねんから、まあ、電池もいらんし、アナログでもええかと考え、完全に、値段に敗北した。

 だって、送料込みで、812円。

 昔は市場の肉屋も、アナログの秤で計量していたではないか……裏表、両方から針が見えるやつ。

 翌日、アマゾン川の上流から、どんぶらこと、段ボールが流れ着いて、開封してすぐに測って、すぐに後悔した。

 目ぇが悪いから、秤の上に立つと、細かい目盛りが、見えへんのです。

「こんなことなら、少々値が高くても、デジタル式にしとけばよかった……。

 秤の上で、しゃがんだり、メガネかけたり、とにかく苦労して、最後は携帯で写真撮って、ようやく65kg 付近やということを確認した。

 服を着たまんまだったので、純粋な裸体なら、ほんの少しだけ、65kgを下回ってるはずである……って、それなら壊れた体脂肪計とおんなじやん!

 そこから、私なりに、それなりのダイエットをし始めた。

 特に、夕食のご飯の量を減らしながら、そのほかでも、なにかとカロリーを気にして……。

 それから、およそ2ヵ月経って、ようやく、61kg までこぎつけた。約 4kg ゲインである。 

 ファースト ダウン までは、まだ1kg あるのだが……。

 とりあえず、60kg を、割りたいのだ。

「なんでや?」ゆうたら……関学の同期で、アメリカンフットボールの解説をしている濱田篤則の、半分以下をキープしたいのである。

 なんや自分でも、ようわからん基準だが、これが男の意地っちゅうもんなのだ。

 そやけど、昨日夜中に腹が減って、なかなか寝付けなかった。いったい何をしてることやら。

「こんなんやったら、グレて、濱田みたいに、120kg 超えたる!」

 嘘、嘘、……そんなことになったら、狭いウチのトイレに入られへん。

 何より、お尻にも、手ぇがとどけへん!

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