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夜の西国街道(R171)

 最近歳のせいか、よく昔のことを思い出す。

 20歳過ぎの学生の頃、京都と尼崎のあいだを、よく車で行き来していた。

 西国街道……まあ…で国道171号線のことだが、これが昼間なら高槻市役所のあたりでめっちゃ混むのである。それが嫌で、だいたい私は夜中に移動するようにしていた。

 その時のことが、やたらとよみがえるのである。

 ある夜、信号待ちをしていたら、右の後ろから何やら巨大な物体が近づいてくる気配を感じた。
 なんとそれは新幹線の車両だったのだ。
 国道で横に新幹線が並んだら、そら、どれだけ、びびったか? 夜中に陸送していたようだ。

 また違う日、ふと横を見ると今度は戦車……もちろんトレーラーに乗せていたが。
 戦車って間近に見ると、とにかくイカツイのである。暴走族にこんなのを見せたら、発砲せんでもびびって素直に解散すると思うのだが……。

 これもたいがいビビったが、夜中なので、なにやら夢か幻を見ている錯覚に陥ったほどだっだ。

 またそらにこんなこともあった。

 伊丹まで戻り、通称、産業道路 を尼崎に向かって南下してる時である。
 暗い闇の先からけたたましいサイレンとともに、赤色灯をつけた車が数台やってきた。どうやら前の車を追いかけているようだ。

 私は対抗車線だったので、緊急車両に道をゆずる義務はないのだが、あまりに怖いので思わず減速して停車した。

 すると赤色灯の車……これは白黒のパトカーではなく覆面パトだったが……私の行動を好機ととらえ、私の進行方向である目の前の対抗車線にはみ出して狙っている車を追い抜き、強引にその前に割り込んで急ブレーキをかけ、車を無理やり止めたのである。
 止められた車の後ろにも、ぴったりと別のパトがついている。

 運転手がドアをあけて車外に出たのと、追い抜いた覆面パトから刑事が降りてきたのとほぼ同時だった。

 刑事は、犯人? 容疑者? らしき男にタックルすると、そのまま相撲の押し出しのように、私からみて右側の道路脇……そこがちょうど金網のフェンスだったのだが、そこまでもろ差しの状態で男を持っていき、金網に背中から押し付けた。
 それはまさに、一瞬の出来事だった。

 男はさほど抵抗しなかったが、金網に押し付けながらタックルしたデカが、男のボディに素早く、2、3発パンチをいれた。
 そうなのだ、顔面ではなく、あとが残らないボディに……。

 そこに数秒遅れてきた別のデカが、パンチをくらって前かがみになった男の顔を、グッと上に押し上げたあと、これまた素早く背広の上から両手でポンポンとボディチェックを行った。
 私はかなり期待したのだが、その時の上半身からチャカ(拳銃)は出なかった。

 それはまさに、刑事ドラマを見ているようだったが、その一連の動作のスピード感が、テレビや映画とはまったく異なっていた。まるで早送りのように。

 そのあと別の警官が私のところにきて、運転席側のガラスをコンコンして開けさせ、私が減速と停車をしたことへの感謝を述べ、もう行ってもよいと言ったので、私は仕方なくその場を離れた。ホントは最後までもっと見たかったのに……。

 すでに日付が変わっていたせいか、翌日の新聞、朝刊も夕刊もくまなく調べたが、何も掲載されていなかった。

 絶対に、夢ではなかったはずなのだが……。

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