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大人の童話・評論 夢の演説

 安倍総理をヒトラーになぞる記事を目にしたのをきっかけに、様々な疑問や違和感、自らの知識不足を感じたので、
 勉強のために手当たり次第に資料をむさぼり、ナチス親衛隊のドキュメンタリーなども読んだあと、最後は動画資料でヒトラーの演説を聞きながら、うとうとと寝むりこんでしまった。

 すると当然、変な夢を見た。

 私は、理由はわからないのだが、ソビエト、アメリカ、イギリスの役人? 軍人? 警察? に囲まれ、尋問されていた。

 それがいつのまにか、うまく話がまとまり、疑いも晴れ、彼らに求められるまま、内ポケットに拳銃を仕込ませたSPに導かれて、私が演台に立ち、マイクにむかって威勢良く、観客に演説をし始めた。

 2階席までギッシリと詰まった、まさに溢れんばかりの観衆だが、なぜかその場所は、見覚えがある、山口市民会館のホールなのだ。

 私がおこなった演説は概ね、下記のようなものだった。夢のあと追いなので、記憶の曖昧な部分、若干内容を人情的に脚色しているのだが……。

(緊張して、聞きいる観衆……誰かが小さく咳込む音が聞こえる)

「 みなさん、人類の運命、つまり世界史は……何者かによって事前に敷かれたレールの上を、ひたすら進んでいるように思えて仕方がないのであります。

(拍手)

 マトモだと思われる人間性を有した者が、いくら頑張っても、この世界のシナリオが変わることは、一切、ないのであります。

(大拍手と賛同の声)

 近隣よりかは、はるかにマシだと思える、私が住むこの国でさえ、邪悪が満ち満ちており、矛盾が矛盾を生み、道理が道端のドブに捨てられているではありませんか。

(そうだ!)

 東電 原発 検察 政治家 冤罪 裁判所 官僚 一流企業 宗教団体 各種業界 慈善団体 農協 婦人会 PTA 消費税まで……とにかく、ありとあらゆるところに、邪悪な分子がまぎれこんでいます。 もちろん例外も、あるにはあるでしょうが……。

(観衆のため息)

 とは言いながら、鏡といっしょに足元を見つめれば、私の中にも、叩き潰せないほどたくさんの悪性ウイルスや腐敗した雑菌があり、サッパリわやなのであります。

(ささやかな、笑い)

 自分で言うのも何ですが、それでも私なんか、かなり善人の部類です。

 その私でさえ、抗生物質と人工甘味料とヤマザキのパンと、ペーハー調整剤と、赤色五号、さらに金と欲で、胃袋から足の指の隙間まで、執拗に汚染しきっているのであります。

 そう考えると、我々人類は、むしろ滅びない方が不思議だと、思わざるをえないのであります。

(ざわめく)

 人類はまさしく、地球上のあらゆる生物の長であり、権力と食物連鎖の頂点に、長年君臨してきました。

 しかして、こと、ここに至りて、

 どこかの段階で、非常の措置をもって、全知全能の神に、大政を奉還する。

 それこそが、我々人類が生命的レベルで生き延びる、最後の手段ではないでしょうか?

(満場一致の大拍手 皆が立ち上がり、ナチスのように、右手を伸ばして、斜め上に突き出した)

 私は興奮さめやらぬ会場を背に、舞台の袖……業界用語で言うところの上手(かみて)に引っ込み、ひとりで楽屋に戻った。

 すると、メイク用の鏡の前のテーブルに、お〜いお茶のペットボトルと、折り詰めの弁当が置いてある。

 そしてその横に、小さな紙切れが……それはまさに私の字である。

『食パン ヨーグルト ハム バナナ 玉子 』

「あれっ、かえりに新鮮市場で買い物せなあかんのに、わしの財布、いったいどこに置いたんやろ?」

 と、あせっているうちに、目がさめた。

 この夢、私の深層心理がたっぷりと含まれてるに違いない。

 嗚呼……今朝はいっそう、どんより曇った憂鬱な、重力が強い朝だった。

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