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エッセイ ストレス発散

 夢の中で、とあるホールイベントの会場。

 主催者側のスタッフが、私のそばにかけより、

「久保せんせ、すいませんが、急に出演者が一組、メンバーの急病で穴があきまして、30分…いや、20分でもいいんで、なんか、講演して、笑わせて、場をつないでもらえませんか?」

「ええよ、テキトーに笑わせたらええんやろ?」

 ステージは、リハの真っ最中。

 客席最前列に、舞台監督らしきオッサンが、メガホン持って、ふんぞりかえってます。 その監督が……

「次!」 と、指示すると、さっきのスタッフが、監督に、急遽穴埋めで私を代役にしたことを、小声で伝えました。

 すると、監督。

「なにっ! 素人かえ?」

 と、私にわざと聞こえるように、大きな声で言ったのです。

 そのあと、私はリハなどせず、本番で、ステージ……演台の前に立ちました。

 舞台監督は、なぜか、さっきと同じ、最前列にふんぞりかえり、上品そうなお客様は、2階席まで満員。

 私の講演。
 冒頭、オープニング、枕、つかみ。

「私は、決して怪しいものではありません」
 (笑)

「今日は、ちょっとしたトラブルがあって、急遽、寸前に主催者側から頼まれてここに立ってます。」
(ザワザワ)

 ところが、お話を始める前に、ちょっとカタをつけとかなアカンことがあります。」

 ここまでしゃべると、にわかに会場の雰囲気が、緊張感を増してきました。

 私は、いままでの穏やかな口調から豹変した、ドスをきかせた、バリトンに近いテナーで。

「こら! ぶたかん(舞台監督の業界用語)、誰が素人やねん? もっぺん、ここにあがってきて、言うてみい」

 私の声は、ようマイクにのるんです。

 そして、こう付け加えました。

「そんなん言うのん、いったいどの口や?」

 それから、こう付け加えました。

「世の中のスルドさ、教えたろか、オー!?」

 水を打った静けさのあと、会場は、大拍手の渦。

 何よりおもしろかったのは、当日の共演者たちが、よう言うてくれた、と、大はしゃぎで、そこいらじゅうを、えじゃないかと阿波踊りをしながら、かけまわっていたことです。

 最近の現実では、スッカリ良い子になってしまった私は、こんなことは、まずしないので、
久しぶりに、吠えてスッキリしました。

 夢でストレス発散する。

 最高に贅沢で、リーズナブルです。

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