あの世はあるで
【 元マルボウのデカのお見舞いに行った時の、被疑者…もとい…患者の供述調書】
「あのな、あの世っちゅう、死後の世界ゆうのはな、アレ、ほんまにあるで。
ワシ死にかけた時に見た夢がなあ、ものすごええとこでな、気持ちがええし、花は咲いとるし……そこにな、比較的最近に死んだワシの伯父と伯母がおってな、ワシに、
『オマエのために最高の部屋を用意しとるんや、はよ来いはよ来い』ゆうて手招きをしよるねん。
それがな、公団みたいなマンションみたいな、とにかく設備がものすごええんよ。綺麗しな、見ためのデザインもな、ごっつい高級でな、まちがいなくアレは新築やな。
そやけどワシふと疑ったんや。
やっぱりワシ、ずっと長いあいだデカ(刑事)をやってたからな、どんな時でも疑い深いわけや。
これはなんか話がうますぎるぞ……ちょっと待てよ……伯父も伯母もとっくに死んだんとちゃうかったか? ……ということは、これでワシがひょこひょこと美味い話についていったら、もしかしたら……と、こう考えてやな、それで『やっぱりやめとくわ』と、そう言うたら、まあ、目が覚めたわけや。
アレ、三途の川はなかったけど、絶対にあの世やし、あんなとこならハッキリ言うて、死ぬのなんか全然怖ないで。
せやけどな、今になって思うのは、やっぱり健康なんが一番幸せやな、それと人生はめぐり逢いやわ、出逢いこそが運命やわ、それでそこからつながる人脈こそが宝やわ、人生の財産はそれに尽きるで、とにかく人間、いくつになっても、もっともっと青春せなあかんわ‼️
ところで、ホンマにワシの見舞いのためだけに、わざわざ山口から兵庫医大まで来たん? そうなん、ホンマかいな?
アンタはやっぱり変わってるなぁ……せやけどな、ワシ、悪いけど、まあ……あと5年は生きたいと思うてるねん、えっ? なんやて? ワシのうしろに今までさんざん手にかけて、奈落の底に落としてきたヤクザの霊がぎょうさんおって、そいつらがワシの足を引っ張ってるってか?
そんなことあるかいな、あいつらとは持ちつ持たれつやがな、それがこの商売やがな、感謝こそされても恨まれる筋合いなんかあるかいな。
それにしても、わざわざワシの見舞いのためだけに遠路遥々来てもうて、またアンタにでっかい借りができてもたがな……えっ? 長いこと病院に居座るように根がある鉢植えの花でも持って来たら良かったってか? あかんあかん、ここは感染防止で生花の持ち込みは一切禁止やねん。
それで、あんたへの借りはどないして返そ? えっ? どうせワシの方が先にあの世に行くから、向こうでいろいろと根回しをしとけってか、よっしゃわかった。
ほんなら、アンタが来た時に住める極上の部屋をひとつ用意しといたるわ。
それから、三途の川があるかないかわからんけど、とりあえずアンタが来る時に、ヤクザとかともめんように、ワシの伯父さんや伯母さんの時みたいにワシが直々に出迎えに行ったるわ、それでええやろ?
大丈夫や、パトカーで行ったりせえへんがな、目立たんように、普通のシビックかカローラみたいな捜査車両でいくがな、あっ、ワシBMの顧問もしてるから、BMWで迎えに行くかもしれんわ。
そやけどな、ワシ、まだとうぶん死なへんで。不思議と全然弱気にならんのや。そういうことやから、まああんたも気いつけて、安全運転で山口に帰ってや〜今日はどうも、おおきに」。
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