雨宿り

いつもより授業が早めに終わり、家路を急いでいた時。
空から雨粒が数滴、ぽたぽたと頭に落ちた。瞬間目の前がフラッシュし、遠くからゴロゴロと雷の音が聞こてくる。夕立だ。いつもは持ち歩いている折り畳み傘も、今日だけは何故か持ち合わせていなかった。

「なんなのよ…天気のバカ。」

思わずそう呟いた。身長が高いせいでヒールを履けない私にとって一番のオシャレ靴。雨の中を走ったせいで泥はねがついてしまった。

仕方がない、バスで帰ろう。雨宿りも兼ねて急いでバス停に避難する。

「すみません、僕もいいですか?」

スーツを着た男性が息を切らしながら尋ねてきた。髪の毛も服もびしょ濡れで不憫に思い、「どうぞ」と、あくまでも外付けの笑顔で応えた。

「ええと、学生さん、ですか?」

「はい、大学生です。」

「そうなんですね…」と、男性は微笑みながらハンカチで水滴を拭いた。何を想像したか。大学生と言っても私はまだ19歳だ。ここからラブストーリーに発展させるにはコンプライアンス的にアウトだということを告げるべきだろうか。

そこからはお互いに何も話さず、気まずい沈黙が流れた。雨足は先程よりも強くなっていた。雷もだんだん近づいてきている。

「以前この辺りで、殺人事件があったのはご存知ですか?」

突然そう尋ねられた。いきなりのことでだいぶ間抜けな顔をしてしまった。話題作りに困ったのだろうか。

「はあ…なんとなく聞いたことが。女子高生が殺された事件ですよね?」

仕方なく話に乗る。あれは確か3年前のことだったか。

「ええ。なんでもひどい殺され方をしたみたいで。男といえど、一人で出歩くのは気をつけないといけませんね。自分より体格のいい男に襲われたら、ひとたまりもないですから。」

この男性は何故わざわざこんな話題を持ち出したのだろう。これも、ある意味運命なのだろうか。

少し、いじめてみたくなった。

「貴方に、一ついい事を教えます。」

「なんですか?」

「人を殺すのが、いつでも大柄な男とは限りませんよ。」



5分程してバスが来た。バスは誰も乗せることなく停留所を通り過ぎ、辺りはただ静かに雨の音が響いていた。