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単位制の誤解と幻想(2)

前回に引き続き、単位制の問題について考えます。単位制について、もう一度確認しておきましょう。「単位制」をやさしくいえば、特定の科目について決められた時間勉強して、その成果があったと認められた場合、勉強した時間に応じて、その証明を「2単位」「4単位」といった数字のかたまりとして表現するものです。

単位制の理想と現実

 大学の設置や運営について規定した「大学設置基準」という法令があります。その第二十一条には、「一単位の授業科目を四十五時間の学修を必要とする内容をもって構成する」とあります。
 大学で一般的な2単位の講義科目を例にとってみましょう。上の条文によれば、「45時間×2単位=90時間」で、90時間の学修内容が必要になります。多くの大学では、1科目につき90分の授業が週1回、1学期に15回実施されています。ちなみに、「15回」という回数に関する誤解についてふれておきます。ある時期まで文科省のなかでも誤解があり、また大学教職員のあいだでも誤解があることですが、大学設置基準の第二十三条には、次のように定められているだけです。

第二十三条 各授業科目の授業は、十週又は十五週にわたる期間を単位として行うものとする。ただし、教育上必要があり、かつ、十分な教育効果をあげることができると認められる場合は、この限りでない。(太字は筆者)

 仲井邦佳氏が詳しく論じていますが、この条文にしたがえば、「15回」ではなく「15週」のなかで授業を完結すればよい、ということになります。極端にいえば、「1単位=45時間の学修内容」という原則にしたがっていれば、必ずしも15回の授業を実施する必要はないわけです。
 さて、90分授業という慣習についてもふれておきます。現在、90分授業は120分(2時間)とみなされて、「2時間×15回=30時間」と計算されています。この慣習は、ヨーロッパから来たと考えられています。本来、120分の授業ですが、キャンパス内の移動を考えて15分遅くはじまり、途中で15分の休憩をとることから、実質は45分の授業を二つ続けて90分になる、ということのようです。
 しかし、30時間では、基準となる90時間には遠くおよびません。では、その差分の60時間はというと、事前学修(あるいは予習)と事後学修(あるいは復習)を含めた授業外でも学修時間をさします。つまり、授業時間の倍にあたる授業外の学修時間が必要だ、というのが「建前」です
 では、現実はどうでしょうか。たとえば、1学期に2単位の科目を10科目履修しているとしましょう。授業時間を含む1週間の学修時間は60時間になります(実際には、授業時間は90分ですから、実質的な時間はさらに少なくなりますが)。ということは、日曜日をのぞいた1日あたりの学修時間は10時間ということになります

学修時間

 「1日10時間」という時間をちょっと想像してみてください。朝7時に起床して、夜の12時に就寝したと仮定して、通学時間と食事時間をのぞいた残り時間を、ほぼ学修時間(授業+授業外)にあてるというのは、どう考えても現実的ではありません。また、昨今、下宿学生の仕送り額が減少し、アルバイト時間が増加している傾向をみると、大学生の生活時間はますます余裕のないものになっています。
 大学教員のなかには、「1単位=45時間の学修内容」というのを呪文のように繰り返し、学生にもっと勉強せよという人がいますが、この「現実」をどう考えているのでしょうか。

単位制の誤解と幻想(3)に続く

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