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モノ語り 3

『クローゼットの片隅で』

拝啓

ご主人様

お元気ですか?

あなたに会えなくなって

どれほどの季節が過ぎたでしょう。。


あなたが

ワタシよりも随分と手前に置いている

バーベキューセットの点検を始めたという事は

またそろそろ

夏がやって来るのですね。。


あなたは覚えていますか?

ワタシが初めてこの家に来た日の事を。。


期待に満ち溢れたあなたの笑顔

ワタシが削り出す絹氷を頬張り

「やっぱ夏はこれだね!」

って言ってくれましたね。。

ワタシはその言葉が嬉しくて

無心で削り続けましたよ


でも。。


あなたにお会いしたのはあの一度きり。。


ワタシは毎年毎年
バーベキューセットの背中を見送る度に

「ワタシもいつでもいけますよ〜」

「バーベキュー後なんかに最高ですよ〜」

「ほら、夏はやっぱり、、、ね〜」

と、、
虚しく閉まっていく扉に向かって
一人で喋ってたんですよ(笑)

今はもう
夏だからといって
胸躍る事はなくなりました

逆に冬、、というか
年末の大掃除の季節がくると
今度は胸騒ぎがして、、


今年こそワタシの番なんじゃないかって。。


去年は
太鼓の達人さんがいなくなりました。。

その前は
キックボードさんがいなくなりました。。

そしてその前は
日食観測セットさんがいなくなりました。。


このクローゼットの片隅で

ヨガマットさんと共に

今も震える日々を過ごしています。。


もしワタシの事をまだ覚えてくれているのなら

どうかもう一度

もう一度ワタシにチャンスを下さい!


しばらく削ってないので

ワタシの歯がどれだけもつかは分かりません

でも

あなたの前で果てる事ができるのなら

ワタシにとってこれほど幸せな事はありません


だってあなたは


ワタシに削る喜びを教えてくれた人だから


ワタシに耐える強さを教えてくれた人だから


ワタシの、、、、、


初めての人だから。。



そんな事を想いながら

今日もワタシは

このクローゼットの片隅で

耳を澄ましてあなたの声を探しています

アイスるあなたの声を。。


敬具















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