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第十八回「ヒーローと」

いつの日からか、ライブハウスに足を運ぶことに緊張しなくなった。何本もライブを観ている内に、ライブとは自分を見せたいように観てもらうための「作り物」だと感じてしまったからだと思う。いつからこうなったんだっけ。

そんな時、俺はヒーローに出会った。

「ハローグッバイファックユー」「札幌ナンバーの最後」「ロックンロール」に頭を撃ち抜かれた。あなたの書く詞に胸を焼かれ、YouTubeにあったライブ映像に心を滾らせた。アルバムが既に8枚あった。3rdアルバム「永遠に、たまに」のジャケットで、暗い闇の中から何処か遠くを見つめている表情に惹かれた。

俺が8枚のアルバムを聴き漁っている頃、僕のレテパシーズは9枚目のアルバムをリリースした。ヒーローは今も歩き続けていた。

11.24
僕のレテパシーズのレコ発ライブの前日。俺は緊張し過ぎて、東京行きの夜行バスの中でほとんど眠れなかった。本当は日中に行きたいイベントもあったけど、この日ばかりは万全の体調で臨みたくて、朝早く東京に着いたくせに大したことは何もしなかった。
(着いてすぐ西日暮里の銭湯に行って10分くらいで上がった。その後気晴らしに上野の東京都美術館に行った。絵の解説も大して読まないので30分くらいで粗方見終わってしまった。あとは会場近くの喫煙可の喫茶店でしばらく粘った、煙草が切れてしまうくらい)

オープンの2時間も前に会場に着いて、入場したら最前を陣取って、まだかまだかと時計を何度も確認してスタートを待つ、そんなライブはもうここ何年もなかったと思う。

ゲストの友部正人さんの弾き語り、とても良かった。なんというか、人生って本当に全部奇跡的だね。
文通していた彼女(第三者の意味ね)の影響でフォークソングというものに興味を持ち、僕のレテパシーズに心を動かされて古宮さんが「歌う理由を作った」と言っていた友部正人さんのCDを手に取った。(「友部正人ベストセレクション」と「にんじん」を買った)
「ブルースは元気じゃないと歌えない」ってフレーズがずっと耳に残っています。生のフォークはこんなにも暖かく、そして強いんだ。ゆっくり時間をかけてもっと好きになろう。
あとで調べたら、東北を歌ったアルバムがあるらしい。必ず聴く。

そしてヒーローをこの目で見た。俺が思ってる15倍表情が柔らかかった。優しい目をしていた。ライブ中よく笑っていた。きっと俺があなたをカッコいいと思えたのは、悲しみも憎しみも喜びも愛も、全部を受け止めてそのまま表現するからなんだろう。

俺が思うカッコよさとは、何も飾らないこと。カッコ良いも悪いもそのまま見せつけること。取り繕ったり逃げたり隠したりしないこと。派手な照明は一切使わず、飾りっ気のない光に照らされたあなたは、きっとあなたのままだったから美しいと思った。

俺はあなたのようになりたいって思うけど、あなたになりたいとは思っていない。
前の日記にも書いたように、言いたいことを言い切ったような歌が出来て、俺が歌う理由を見失った中で道を照らしてくれたのが僕のレテパシーズ。

「悲しみも憎しみも喜びも愛も、他の誰にも渡さずに歌を歌うのが天使なんだから、歌手っていうのは天使ってことなんだと思うんだ、って名前にしよう」(僕のレテパシーズ / 夜に名前を)

この唄の歌詞に救われた。
俺は俺だけの悲しみを歌おう。

ライブ中はなんだか終始ドキドキしていた。期待と緊張が交互にやってきて、あっという間に終わった。ずっと探していたものをようやく見つけた気がした。足を運んで良かったよ。
その後ハヤテにお勧めされたmarbleの隣にあるケバブを買って食べた。350円でバリ美味かったから、これを読んでいる物好きな諸君は、新宿に行ったらあのケバブを食べてみることを勧める。

君はヒーローと思ってないだろう
僕はヒーローをずっと待っていたんだよ
同じ景色を眺めていよう
見たくないものも誤魔化さないでさ

僕もあと少し、もう少しで
あなたと同じ道を歩けるかな
僕もあと少し、もう少しで
ヒーローみたく立っていられるかな

2023.11.28

P.S.
「作り物」だから悪い、って事ではないよ予め。曲という作り物の中にその瞬間瞬間の感情が乗っかってくるのが俺は素敵だなと思ってるし、それを生で観ることができるのがライブの醍醐味だなとも思う。演技だとしてもね。(自分を曝け出してる、っていう自分を100%で作れるのならそれはもう自分じゃんね、究極の作り物だと思う)

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