横須賀線…  [第24話]

三月になると街の装いは瞬く間に移り変わり、下宿への帰り道でちらりと横目に見るケーキ屋さんのバイトの女の子のバンダナがオレンジ色から空色になった。

鶴さんに会ったのはいつだっただろうか。試験の結果を話して元気付けられたのが最後だったかもしれない。

電話はもちろんだが、手紙もせっせと書いて、眠る前にはいつも彼女を想っている。近くにいても、会ってくれない冷たそうな人だけれど、こんど会えるときには私なりにお洒落をしてみたいなと、夢のようなことを考えながら布団に潜り込む。

あの年は雨の少ない冬だった。日記が途切れてしまっているので、詳しいことがわからないけど、どうやら三月の二十日ころに卒業式があった。

論文の発表会、京都での家探し、引っ越し。慌ただしく時間が過ぎてゆくなかで、どうやって鶴さんと連絡を取り合っていたのかさえ記憶に無い。細々とした出来事をおおむね忘れてしまっている。しかし、忘れる理由があって、私は薄々気がついている。つまり、原因は次の事件に拠るのだ。

二十日ころに卒業式を終えた。晴れていたと思う。日本武道館から母校までのらりくらりと歩いた記憶があるから。

だが、明くる日には冷たい雨が降ったように思う。だって、そんな日に僕たち二人は鎌倉へ出掛けたのです。

そう…ここでの出来事が、私の三月の記憶を、まるで大きなショックがあったかのように消してしまったらしい。いえ、きっとそうだ、と私は思うことにしている。

もう、都会にネグラを持たない私は、何処で夜を明かしたのかわからないけど、卒業式の翌朝には東京駅の横須賀線ホームに、鶴さんとふたりで並んで列車を待っていた。

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タイトル変更前:これまでの全ての「好き」がこだまする