千早茜 しろがねの葉

生きるということは一体どういうことかと考え、はて、相対して死ぬことを見つめている自分の姿がある

それは 手に負えなくて自力ではどうしようもならない人生というものと立ち向かうことでもあって ヒトは いざ そんな得体の見えないものと立ち向かうとなったら闘わねばならないと知らされる

時には自分の信じることには反発をしながら それは諦めという弱い心になって跳ね返ってくることもあり、勝ち負けとは違った大きな舞台で生きながら生きていく数々の壁に抗うことになる

人生を一度でも考えたことがある人であれば 勝てないものに抗うことや時には諦めることが あまりにも当たり前の筋書きの一種で 勝ち負けではなく自分の人生という道を勝手に決めてゆく一面を持っていることも知る

もしも この物語の最初の頁から読者が引き止められるとすれば この恐怖と畏れと悲しみと幸せと歓びが滲んでいる一節に 脳みその痛点をつかれるような感触を感じるからだろう

作者の 頭の中で滾るテーマへの 雄叫びのようにも思えてくる

いかにも今風の人気作品とは 正反対の 分かりにくく難解で馴染みのない筆致がもたらす 底知れぬ震えのようなものを感じながら 特に直木賞ということも気にかけないように心得てながらも 「まやかしの」賞から久々に一歩抜け出す気迫の作品に出会ったと歓びが湧いてきたのだった

読み切る自信がないほどに読者を跳ね飛ばしてやろうというようなパワーが漲った文芸といえようか

なかなかの文学作品であり今の世にも捨てきれない作品があるのだと嬉しくワクワクさせられた

読後の感想など 他人の月並みな言葉をつなぎ合わせばいくらでもかける

大切なのは 歯を食いしばって 軋ませて 死にそうになって血が滲むような怒りや無念や憤りを そして無念と失望を活くる力に変えて行く人物の 強さを どれだけ共感できるかどうかだ

読んだ人にしかわからない

それは歴史の一つの時間をステージにしているのだけれど テーマは果てしなく作者の中で脈打っているのを 感じながら愛すること 生きることを 自分に問い詰めてみたいと思うのだった


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(読後余話)

作者は女性だと書籍のどこかに書いているし 各種の情報で年齢や紹介までもが書評と一緒に目に飛び込んでくる

物語のいわゆるネタバレはどれだけされても作品自体が持つパワーは簡単にはバレて来ない

そういう意味でネタバレは怖くないが 作者のお顔などの写真や経歴などは 全く初めての私にとっては いささか邪魔な情報だった

学生時代には書物の情報というのは簡単に出回ったりせずに 作者の顔(時には性別)なども謎のままだった

何かの書物の裏表紙などに紹介されるわずかな本の情報でその作家を知り興味を持って やがてはのめり込んでゆく人になって行くケースもあったのだが 今の時代は 出版社の戦略もあろうがすっかり時代が変わってしまった

そのことを責めても仕方がない

ただ この作者には 昔のような出会いをして その作品に踏み込みたかったというような夢のようなことを考えて 作品を読み進んだ

自分を整理すると男性の作家の方を圧倒的に贔屓にする傾向があるが この人は私の中で贔屓の中に男の味を漂わせて 静かに居られる