寄せ鍋やあれは嫌いでキミ好きで ─2012年12月上旬篇
むかしを掘り起こす十二月 から
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寄せ鍋やあれは嫌いでキミ好きで ─12月上旬篇
17のおとという名前にしている。
それは「十七の音」のつもりで書いているのですが、
たった十七で伝えるのはとても難しい。
難しいところに余韻があっていいのだと思う。
三十二文字揃えて、十分に伝わっては、
ふんわり感がなくなってしまう。
12月1日(土)2日(日)
▼雪だより貴方は凍えていませんか
寒い夜ほど温かく抱かれて
▼寄せ鍋を食いたし併しひとりなり
お鍋がおいしい季節になったと言って喜んでいると
毎日毎日お鍋を食べることになるのだが。
素朴な味であればあるほど
飽きがこないと感じる。
飽食の時代を迎えているが
偽物グルメも多い。
やっぱし、おでんの大根の隣にある竹輪が旨い。
▼ちくわ食う貧しいころを噛み締める
▼寄せ鍋やあれは嫌いでキミ好きで
昔、きたないのれんをくぐって入った居酒屋で
月並みにおでんを注文して、静かに食べた夜があった。
ツマと
「あのときのおでん、旨かったな」
「そうやな、白梅町の酔心やったなあ」
「串八が満席で…」
と、そんな話をする。
静かな夜だった。
▼師走きて母のつけたひの菜食う
ちまたでは、正月の準備も忙しかろう。
ショッピングセンターでは、クリスマスの飾りが鮮やかだ。
▼炭を焼く山は温たし風もなし
▼しめ縄に汗の沁み込む父の技
▼しめ縄を編み上げる父の背中
▼ひとり言遠い貴方への愚痴かしら
私はいつものように
何の変わりもない年の瀬を迎えている。
今年もインフルエンザの予防接種を受けなかった。
人ごみに出かけるのは相変わらず嫌いである。
罹患しないことを祈ろう。
12月3日(月)4日(火)5日(水)
▼木枯らしが隠れておるぞ曲がり角
▼寝よまいか貴方慕って星が飛ぶ
▼夜更かしをするのも貴方の冬の癖
寒い夜やったなあ。
あんな日に逝ってしもうた人のことを思うと、
手袋の句は詠めんなあ。
抱きながら
「この人どんどん冷たくなるわ」
と言った母。
▼手袋をそなえてそっと灯をともす
▼節電という文字灯すネオンかな
▼冬木立隠れた月夜の闇を食う
▼雨あがり師走の風の支度かな
コートを着な寒いなあと思いながら
まだ着ていない日が続いていた。
グググと冷え込んで、車のガラスも凍てつく。
月は真冬の空に高く昇る。
12月6日(木)7日(金)8日(土)
▼茜空好きだと書いた窓ガラス
▼あの人は夕焼けみなとがよく似合う
▼半月や諦めきれない物語
▼月あかり消えて貴方を連れ去りに
▼おやすみは、貴方のオヤスミ聞いてから
冷え込むと
星が瞬く。
こどものころ
それが不思議だった。
星を見て宇宙を想像した。
宇宙飛行士になりたいと思ったことはなかったが
掴みようのない神秘を
どうしても理屈で考えようとした。
星座にロマンを感じることもない可愛くない奴だったが
ギリシャの神話を生んだように
人々の夢を馳せる心には感動する。
みんな
星をみながら
政治の夢を語れば
きっとこの世は良くなるような気がする。
▼麦の芽を踏むこと知らぬ新俳人
恙なく年終りたし月凍つる(砂女)
▼その欠片私のグラスに分けておくれ
つつがなく、なんて言葉は死語なのかもしれない。
余裕を失った人と
余裕を勝ちとっても役に立たない人たち。
もうすぐ選挙か。16日。
7日は大雪だった。
▼大雪やきょうからコートとメモをする
▼師走きていつ帰るのかと便りくる
▼年の瀬や餅をついたと便りくる
▼冷える夜貧しい頃を思い出し
12月、静かな夜にきらびやかなネオンの見える駅の片隅で
大好きな貴方を待って
そのあと、
温かいお鍋をつつきながら
二人で旅の話でもしたいなあ。
▼待ちぼうけあなたに会えたら今夜こそ
2012年12月 9日 (日曜日) 【十七音のおと】