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おにぎりプロジェクト第22弾:熊本南阿蘇「れいざん」山村酒造編

久しぶりの日本開催である、本当は9月に開催しようと考えていたのだが台風が直撃したこともあり、残念ながらその月は見送ることになり、イタリアでアランチーニおにぎりを作ったのが懐かしい。今回の熊本は阿蘇だ、山村酒造という宝暦12(1762)年に生まれ260年の歴史を誇る歴史ある日本酒蔵だ。熊本では「れいざん」ブランドで親しまれている。「朝はゼロ度とかイチ度とか、寒いですよ」そう元WAGYUMAFIAスタッフのリョウスケが言う。辿り着いてみるとありえないぐらいの天気に恵まれて暑くて汗をかくぐらいだった。相変わらず彼のシチリア仕込みの誇張節は健在だなぁっとお笑いしたのだった。それが翌日にはしっかりと温度が冷え込んですよ、蔵元であり専務の山村弥太郎さんはそう教えてくれた。貯蔵庫もひんやりしている、年中この気温をキープするらしい。

「冬のピークはマイナス10度とか行くんです。福井から嫁いできた嫁が福井よりも南阿蘇の方が寒いといつも言っています。」

標高500−600m、これ以上高すぎても稲作には向かないと言われる。世界有数のカルデラとしても知られる、阿蘇カルデラ、標高から守られる気温、そしてそして南外輪山伝って湧き出てくる軟らかい伏流水、そして熊本で生まれた吟醸酒発展の立役者でもある「熊本酵母」の存在が、この熊本を代表する日本酒を支えている。そのほとんどが地元消費だという、なのでほぼ県外には出回らない。恒例の洗米からの浸水式のあと、蔵の前にセッティングしてくれたBBQディナーでの会話だ、静かに天草大王を燻すチャコールの明かりに照らされながら、初めてのれいざんを口に含む。日本酒の一口目はいつも不思議な気持ちになる、何かどこか緊張する自分がいるのだ。これは他のどの酒でも感じない、なにか厳かな気持ちというのだろうか。飲んだ瞬間に山村ファミリーと蔵人の人となりを味わっているような、そんな優しい日本酒だった。

翌朝は6時より炊き出しスタートである。真っ暗な蔵からゆっくりと朝日が差し込んでくる情景、そして浮かび上がるお湯の蒸気。早いものでまた一年経ったんだなぁっと思う。32キロの米を8キロバッチで4セッションで炊いていく。この2年ほど米に向き合った時間はないだろう。新米の状態を確認してから水分量を決める。今回は浸水30分、90%の元重量の水で炊き上げる。毎回二連バーナーは現地でレンタルする、この二連バーナーの状態で火の入り方が変わる。今回は片方の火が強く、もうひとつがその80%の火だ。その火加減をイメージしながら25分米と向き合う。ファーストバッチの仕上がりは上々だ。セカンドバッチでの修正の方向性を伝えて、さぁみんなで手を真っ赤にしながら握り合う時間だ。

みんなで握り合う瞬間というのは、心が凪いでいくようでとても気分がいい時間だ。不思議と被らない僕と成澤さんのおにぎり、僕は天草大王と辛子蓮根をテーマに、そして成澤さんは現地のチーズを使ってカチョエペペおにぎり。病院向けの150セットを包み終えたあとはみんなで出来たてのおにぎりを頬張る。そういえば、この3ヶ月ほど走り続けてきたような気がする。この一口目の瞬間にその想いがこぼれだしたような気がした。今回残念ながら成澤さんがどうしても来られないということもあり、そんな想いも相俟ったのかも知れない。なんかいい時間だなぁっと、軒先にあった鮮やかなイエローのれいざんベンチに座りながら、昨日のような暑さを予感させる眩しい光が僕のおにぎりを照らしてくれている。

山村弥太郎さんを初め、ご家族、蔵人。そして地元の料理人の方々、生産者の方々、そして受け入れてくれた朝日野総合病院さんに感謝を捧げたい。やっぱり阿蘇は最高だ。次回はいよいよ成澤さんの故郷こと愛知県の予定だ。まだまだ僕らのおにぎり窯のリレーは続いていくのだった。



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