スミちゃんの不味い飯 第1話

こんにちは。
私、このちっさな町駄々花町周辺を中心に見守り神として上空に住んでおります、『カタリB(カタリベー)』と申します。私の声、意外とソフティーなもので、見守り神達の間では通称『見守り神界のレオ』と呼ばれております、はい。ですので、そのようにみなさんも私の話をレオさん的な声だと脳裏に沁み込ませながら聴いてやっていただけるとこれ幸いにございます。

現在、午前11時25分頃でしょうか。駄々花町3丁目のとある食堂では、ランチを求めにお客さんがちらほら入店しておりますねえ。確か…あそこ、年中無休のお店『DENTABAR(デンタバー)』は朝10時半には開店してましたっけね。

~『DENTABAR』店内~


まぁ相変わらず凄い店内ですねえ。以前歯医者さん&床屋さんで軒を連ねていたこの場所を、改装費節約で強引にお店なんか開いちゃったもんだから、見事に内装は歯医者さんと床屋がえげつなく混在したままのレイアウトなんです。そんなわけでお一人様専用の席が両サイドの壁際に向かって右床屋席4、左歯医者さん席3な感じで颯爽と並び、なぜかフロアの真ん中には…、どこぞの組の落した廃棄物でしょうか?的黒光りギンギンヨロシクなリビングソファセットが構えておりまして、さらに店のどん突きにはこれまたどこぞの西部劇…、しかも相当撃ち合いしたに違いない穴だらけ血潮らしきレッドまみれ、どうにも鳥肌モノのバーカウンターが鎮座するという、毎日どの角度から見たって不思議な食堂であります。

そこで働くこちら、いかつい顔したどっしり男性はドンさん。そうです、この店のマスター=首領だからドンさんです。そしてあちらでランチの仕込中のド派手な洋服にエプロンした女性はドンさんの奥さんでタラさん。なにやらアルゼンチンからお嫁にやってきたらしいんですが、もうどこから見ても日本人にしか見えないともっぱら評判の祭り大好き豪快ママさんです。

そしてもう一人。このお話の主人公、スミちゃん。褪せたジーンズにタラさんとは対照的地味な配色のTシャツが定番な、多分女性です。どうにも見た目がどっちつかずなんですが女性です、多分女性。あぁ何度も言ってしまいました、女性でしょう、きっと!いえいえ、女性なんです!ってことで。

スミちゃんはちょっと口下手でぶっきらぼう。でも一所懸命に仕事をこなすタイプではあります。美しいそれはそれはみとれるような笑顔も作れませんし、背筋をピンと伸ばしてありがとうございましたともなかなか言えません。でも案外ハートフルな料理を作ったりすることをドンさんタラさんはじめお店の常連さんの誰もが知っています。ほらほら、そんなスミちゃんの味を求めに今日もいつものお客さんがやってきましたよ…。

「おはようございます、こんにちは」

2ブロック先に住んでいるクリーニング屋さんの息子ドックくんです。お医者さんを目指してる一浪くんのため、みんなにドックくんと呼ばれております。

「え~いいらっしゃぁい、今日ちょっと来るの遅くない?で、ドックくん今日どっち?」
「ごめん、寝坊しちゃった。あ、勿論…えっと今日は床屋席で」
「なんでだ?え、そうかそうなのか、まあいいね、どこでもいいね」

ドックくんとタラさんのいつもの会話です。
キィキィと油切れな音を立て、自分の好きな高さに微調整した後、くすんだ白い席に飛び乗るのがいつものドックくん。そして席横にとりつけた動かして起してパタンとすれば使える簡易テーブルを膝上に。なんとも愛おしそうにゆっくり準備します。

「スミちゃん、いつもの僕専用『スペサルブランチ』ください」
「…あい」

ドックくんとスミちゃんの会話もいつも通り。内側のドア窓を拭き掃除していたスミちゃんはバーカウンターの内側、厨房へと引っ込みます。

「ドックくん、あんたさまさー、毎日ここへブランチしに来てよく飽きないだよね~?」
「だって僕だけのスペサル食べられんの、ここだけだもん。スミちゃんの特製ホットケーキ、日に日に進化して美味くなってってるしさー」

ドックくんだけのスペサルなホットケーキというのはですね、ドックくん、なにやら他のお店では気軽に食べられない理由が実はあるようなんですよね…。

「小麦粉食べらんなくなってドック、おまえ何年になるよ?」
「ここでパスタ食べたら急に倒れて運ばれて、それで検査してわかった頃からだと…3年?」
「急になったんだったよな?いやんなるほど痒い痒いって言いだしてな」
「そうそう。それからいきなし呼吸困難ね。あの時は死ぬかとマジで思ったもん」
「なんでこんな怖い店来るだぁ?私なら来ないよ?絶対、ねえ?ダーリン?」
「それにどう返答していいかわかんねえんだけど?タラ」
「パスタのせいじゃないじゃん、僕の体のせいじゃん。店悪くないし」

…そんないきさつがあったわけですね。私もここの見守り神赴任になって約2年半なんで、よくわかっていませんでした。な~るほぉ~ど~。

「そんなドックの様子知ってスミちゃんが『じゃあ食べられるもの作れば済むじゃん、そっちへ向かえばいいじゃん』て言いだしたのが、あれ…1年半くらい前か?」
「そうだね、僕ちょっとふさぎこんで一年くらいここへは来なかったからね」
「スミちゃん、あれからアワ、ヒエ、ソバ、米、とうもろこし、大豆、キヌア、ホワイトソルガム…といろんな粉モノ試してどれが美味いかとか試作し始めて…」

「なんかそれが凄く嬉しくって、僕もようやく外へ出かけるようになってきて、それでスーパーとかさ、探しまわったりしてさー」

こんな話をしていることなどスミちゃんは全く気にとめることもなく黙々と調理している様子です。

…あ、ほのかにあんまぁ~い香り、店の中あちこち拡がってきましたね。 

「はいよ、できた」
「はいはい、持ってく持ってく、ドックくん!今出来たからすぐ食べたらしいよ!」
「タラ!まだ食ってない食ってない…まだ時々おかしいよな、日本語」

タラさんがお皿を持って颯爽とドックくんの所へと向かいます。ドックくんも嬉しそうな顔して床屋席でキュッキュ音を鳴らしながら待っています。そして遂にマイテーブルへとやってきたホットケーキをまずはじぃーっと見つめます。チュロッとケーキにかかったハチミツがまたこれ…見事に黄金の輝きです!ホイップクリームの巻き加減プラスミントの葉もなにげに今日はお洒落さんじゃないですか!え、珍しくイチゴ付きですか!え、いつもはついてませんよね?一体全体どうしたんでしょうか、裏の畑かどこかで2、3株栽培したヤツなんでしょうか、裏の畑なんてあったでしょうか!?

「んーまい。今日も外側ちょいカリッカリーの中がふんわりだよ、スミちゃん!」
「膨らみ足んない。小麦粉に負けてる。重曹多いと苦くなる。ホットケーキ界隈通り過ぎるから」

厨房から出てきたスミちゃん、独特の言い回しで淡々とボソボソと答えております。

「スミちゃんありがとう、そんなね、厚みとか膨らみなんて本当はどうでもいいんだ、『ホットケーキ』なんだよ、『ホットケーキ』僕にも食べていい『ホットケーキ』なんだよ!」

ドックくんは嬉しそうにちょこまかちょこまかホットケーキをナイフで切り分けながら嬉しそうにそう豪語しちゃってました。しちゃってたんですよ、はい、ここまでは。

だったんですけどねえ…。



…そんなスミちゃんの不味い飯。
続きはまた後日。 



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久しぶりの長編をネットで公開させていただきます。結構長いと思います。現時点の野心として、何話からとは言えませんが、何度も自分でも読み返して訂正も入れ、自身納得できたら、そこでマガジンにまとめ有料(100円~300円程度)にすることを検討したいと思っています。どうぞ私を育ててやってください、よろしくお願いいたします。


<追記>
誤字、表現ミスなど気付いた時点で訂正を入れてまいります。入れた場合、こちらに「一部訂正させていただきました」と明記する以外は特にお知らせいたしませんことをどうぞお赦しください。

20150525/アップしてさっそく二度三度とミスを見つけて直しました、ごめんなさい。

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