浜松旅行記

ピアノの音が響かない待合室に、
どこか安心する自分がいた。

浜松の駅にはピアノがある。誰でも弾けるあのピアノを、ちいさな子がめちゃくちゃに叩いていた。
ガンガンと音を鳴らすピアノに、あれほど恐怖と嫌悪を感じたことはない。

新幹線がすごい勢いで通過する音
子供が泣き叫ぶ音
路上ライブの音

耳がつんざけるかと思った

漫画喫茶で休憩していると非常ベルが鳴った。

私も同行人も急いで受付まで降りた。
下の階からの非常ベルで、階段が封鎖された。
休憩もクソもなくなったので、私たちはそのままエレベーターでしたまで降りた。

三日目ともなると流石に疲労が出始める。

私は人前で泣くし、同行人もイライラしていた。

「さわやか」で、カンパイドリンクを頼むと
「何か乾杯させてください!」
と店員さんにいわれたので
「それじゃあ楽しかった旅行の思い出に乾杯してください」
とお願いした。
私たちの旅が、どれも間違っていなかったと裏付けてほしいなんてささやかな願いを込めて
「それスッゴく素敵ですね!是非!」
と言ってくれたあの元気のいいお姉さんを私は忘れない。

「なんか今回の旅行、満足度高いわ」

同行人がポツリと漏らした。
毎回私が企画して私がリサーチして私が予約や手配をしている、私主催の旅行
一切文句を言わないでいてくれるのはありがたかったけど、楽しいかどうか心配だったので、その言葉は嬉しかった。

今回は体力的に無理のないように組んだつもりだ。二日目の夜の浜松餃子食べ歩きはしご企画は一人5000円と予算を大きく上回った。
私の増えた体重も予想を大きく上回っていることだろう。

そんな楽しかった旅行も、疲れてくると日々の些細な音や言葉に敏感になる私の良くないところが顔を出す。

ろくにタバコも吸えない、歩きすぎて足がいたい、同行人のイライラ、寝ても取れないからだのだるさ、不快になってくる日光、音、刺激…

イヤホンで耳を塞いでしまいたかった。

人前で泣いたのもたいした理由じゃなかった。
「俺のせい?」
聞かれても、否定するので精一杯だった。
でも、100のうち5くらいは君のせい。


帰りの電車でやっと一息ついた。
やっと耳を塞いでいい時間が来た。
仕事でも、何かやりきったあとはこんな感じだった。

総評としてはとても楽しかったけれど
非常ベルが鳴った辺りで私の限界を感じたので
認めたまで。

私の企画した浜松旅行記。
となりで同行人の寝顔を見ながら、これにて完。

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