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はじまりのこじき

8月29日 14時ごろ

もう落とすまいと空っぽの財布をバックの奥底に沈めた

中身が入っていた時より厳重

そんなもんですよね。


甲斐あって無事渋谷に到着

無限大ドームなのでエレベーターで上に行くとすでにかつやまがいた


「大丈夫なん?」


大丈夫なはずがない。

全財産1円だぞ。

30歳で

この街で1番金持ってないんだぞ。

帰りの電車賃ないんだぞ。


「ぁぁ、まぁ大丈夫」

出てきた言葉は意味のない強がり、ちっちゃい言葉、早くお金貸してって言えバカ



荷物を置いて奥の楽屋にいる先輩方に挨拶に行く


あらかた先輩方に挨拶が終わるとダイヤモンドの小野さんに

「渋谷に来んじゃねぇ!」

「なんで俺だけに言うんだよ!」

とかいつもの感じで話し出した気がする。
その隣には野澤さんもいて、財布を落としたことを2人に話した。

ほらっ、不幸話だぞっ



すると2人とも

「マジかよ」「辛いな」


あれ?

なんか違う


正直バカにしてくれると思った。笑ってくれると思った。

(後々作家のなんぶさんに言われたことだが、和田が金がないというのは本当に笑えないらしい)


2人とも後ろポケットから財布を出した


え、え?え?え?

いや待ってくれそんなつもりじゃなかったのに

なんか知らんがめちゃくちゃ焦っていた俺は、野澤さんの財布の中に何かのサービス券だか割り引き券が見えたので

「そ、それ、そのサービス券下さい!」

って口走ってた。マジで意味わからん。

「いらねーだろ。こんなの」

うん。いらない。そりゃそーだ。まず使う環境に行く権利がないんだもん。

小野さんと野澤さんは1000円ずつ出して

「少しだけど、ごめんな」
「俺も10万落としたことあるから辛いのわかるよ」


……



野澤さん10万も落としたことあんの?

いや違う違う

流石に受け取れないと言うと

「こういうのはお互い様だろ」
「辛いよなぁ、俺も辛かったなぁ」

野澤さんだけ昔にトリップしてる気がする


……。


「ありがとうございます。お返しします」

「「いいよ。あげる」」


なんとなくわかってたけど。わかってたけど。


その後俺がなにを言ってたかよく覚えてない。
ひたすらお礼を言ってた気がするし、謝ってた気もする。


でも


小野さんが最後に言ったことはよ〜く覚えてる




「いい商売始めたね〜」


続く



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