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新米バイカー北海道を横断する

 忘れられない旅となると、やはりシスティーナと共に一人で一週間かけて初夏に北海道を横断した旅行だ。
 システィーナというのは、オートバイの名前でわたしが四〇代手前で何を思ったかバイクに目覚めて教習所に通い、中型免許をとってその日に買ったホンダCB400SFのことである。
 そのときのバイク熱は凄まじく、休日となると朝五時に起きて七時には箱根や八王子の峠を走ってお昼には家に帰ってくるというパターンを繰り返し、ときには出勤前にひとっ走りしてたこともあった。
 それまで一度も有給休暇を取ったことがなかったわたしが、一週間の長期休暇をとって北海道旅行に行ったのは免許をとって二ヶ月後である。
 羽田までシスティーナで行き、飛行機に乗せて新千歳空港で降り、洞爺湖から小樽、支笏湖、夕張、富良野、帯広、摩周湖等々をまわって終点が釧路で釧路空港から帰った。
 途中大雨に見舞われることもあったし、立ちゴケしかけたこともあったし、色々あったが一週間走り終えて家に無事到着したときの充実感は今も忘れられない。
 北海道で出会った人たちは皆親切だった。
 当時はナビなどない時代だからツーリングマップ頼みで走るわけだが、山のワインディングで道に迷ったことも多かった。そんなときは大抵通りすがりのバイカーが助けてくれる。
 あるとき上天気の山岳ワインディングで地図を見ていたら、長い黒髪の女性バイカーがさりげなくバイクを停めて道を教えてくれた。明らかに上級者でフルフェイスのヘルメットにツナギ。ふわっと艶やかな黒髪を風に流してカワサキの大型バイクで颯爽と去って行き、左手で軽く挨拶してくれた。一秒で惚れた。
 また大きな駐車場のある飯屋に立ち寄ったとき、ごついトラック野郎がたくさんいて、ちょっと怖かったのだが、わたしのバイクを見て気さくに話しかけてくれた。最後に「気をつけていけよ!」とプロレスラーみたいなおっさんが声をかけてくれた。トラック野郎って強面だけどいい人なんだなとそのとき思った。
 点々と小さな民宿に泊まって横断したのだけど、宿のひとも素朴で親切だった。さかんに東京のことを聞きたがる若者がいて、色々と話した記憶がある。北海道の田舎に住む若者にとって、東京は今も憧れの都会なんだろうか。北海道のほうがよほど快適なのにと思ったりした。

 そんな一週間の旅。写真がこれだけしか見つからないのが残念。デジカメがない(あったかもしれないが持ってない)時代。しかしこの頃はパワーがあったなあと思う。今の自分の弱り方をみると信じられん。若さ(といっても四〇近かったが)は貴重だ。





 ただ蛇足だけど実のところ、このときもうすでにわたしは精神的にも肉体的にも参ってしまっていて満身創痍だった。少しでもストレスを吐き出すための最後のがんばりだったのかもしれない。
精神的なものからくる様々な疾患に悩まされて、結果としてこの旅行の二年後に会社を辞めることになる。


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