「きわどい一枚」~青ブラ文学部お題 #きわどいはなし

 山岳を走る小さな国道沿いの見晴らしの良い空き地で、タンクトップにミニスカートの若い女性がカメラマンを前にポーズをとっていた。
「そうそう、もうちょっと脚上げて。ああそうじゃない、もっときわどくきわどく!」カメラマンがカメラのシャッターを押しまくりながら叫ぶ。
「先生、道路に近い近い!危ないからもっと離れてくださいよ」助手が叫ぶが、カメラマンの耳には入らない。何とかきわどいアングルを捉えようと動きまくっている。

「やっぱりニンジャはかっこいいな」白いヘルメットの若者が隣を走っているオートバイを見て無線で言った。
「おまえのハヤブサのほうが速いんだろ」赤いヘルメットの若者が答えた。
「じゃあ次の峠まで競争するか!」
「いいぜ、サツもいなさそうだしな。負けた方が昼飯を奢ることにしようぜ」
 二人の大型バイクが制限速度を遙かに超えて道路を爆走し始めた。

「もう少し右!ちょっとのけぞって。そうそう」カメラマンが動き回る。飛び跳ねる。じりじりと道路に近づいている。
「先生、危ないですって。もっと道路から離れて!」
 カメラマンにはやはり聞こえない。「きわどくきわどく!」を繰り返しながら、道路の際まで来ていた。
 遠くから爆音が聞こえてきた。助手が見ると二台のオートバイがものすごい速度で接近してきている。
「先生!バイクが来てます!道路から離れて!」助手が慌てふためいて叫ぶ。しかし夢中のカメラマンには聞こえない。「きわどくきわどーく!」
 
「負けねえぜ」
「抜き返してやる」
 ハヤブサとニンジャが抜きつ抜かれつを繰り返して爆走する。走行する車をジグザグで抜き去り、道路の際を疾走する。
「突っ走れ!」
「抜き去れ!」

「きわどーくきわどーーーく!」いつのまにかカメラマンは道路の中央にまで脚を踏み入れていた。爆音も助手の叫びもまったく聞こえていない。
「先生!あぶない!」助手が叫ぶ。
 風切り音と爆音の中、猛烈な速さで二台のバイクが助手の目の前を瞬時に通過していった。
「先生!」
 助手はうろたえた。カメラマンの姿が見当たらなかったからだ。オートバイに跳ね飛ばされたのかと思った。しかしよく見ると、カメラマンは道路の中央でカメラを抱えたまま転がっていた。
「先生、大丈夫ですか!」助手が走って駆け寄った。カメラマンは無事だった。バイク二台の間にいて助かったのだった。何が起きたのかわからないという顔で、道路に横向きに転がっていた。
「良かった!本当に危なかったですよ。きわどかった」
「そうそうやっととれた!きわどいショットがとれた!」カメラマンがカメラを見て狂喜している。
 助手が見ると、スカートがオートバイの爆風に吹かれて下着がみえるか見えないかギリギリのきわどいポーズの女性が映っていた。倒れた瞬間、無意識でシャッターボタンを押したらしい。
 こうして命がけのきわどい一枚が完成したのだった。



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