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併読・積読のススメ~読書の時間を無駄にしないために

 本を読み終えて時間を無駄にした… と思うときほど慚愧の念に堪えないものはありません。
 ショートショートや短編なら数分から三〇分程度で済みますが、そこそこの長さの本を読み終えるには最低でも数時間、あるいは一日以上かかるので(わたしの場合)、その結果何の感慨も余韻のある読後感も得られなかった場合、無駄にした時間を他の本に使えば良かったと思うのは当然です。
 結論から言えば、そういう本は、途中で読むのをやめて放り出し他の積読を読めば良かったのですね。変に最後まで読まなければならないという義務感にかられる必要はありません。
 ただやっかいなことに、つまらない本ほど読みやすい(笑)。なのでスラスラ読めてしまう分読了してしまいやすい。逆にじっくり読まないと入り込めない本の方が(あまりに難解なものも考え物ですが)失敗しにくいです。だからついつい読みやすい本に手を出してしまい、時間を無駄にしがちなのです。
 さて、そんなわたしがオススメしたいのが併読と積読です。
 併読は文字通り複数の本を同時に読むことで、メリットがいくつかあります。
・読んでいてつまらないと思ったら切り捨てられる(読了しないといけないという不要な義務感から解放される
・複数の本の味を堪能できる
・違う種類の本を同時に読むことで世界が広がる

 このとき、必要なのが積読です。つまらないと切り捨てた本の代わりに補充する新しい本は積読から持ってきます。大量の積読は、いわば自分専用の図書館みたいなもので、無駄どころか、大いに役に立つのです。もちろん経済的な問題がありますから、還暦過ぎたわたしとお小遣いが限られている若者の経済事情は違いますので一概には言えないのはわかっています。

 また併読する本を選ぶときの注意点がいくつかあります。
・分類の異なる本(小説、評論、哲学、詩歌、エッセイなど)
・時代の異なる本(概ね一九世紀から二〇世紀初頭の古典、以降の近代文学、現代文学)
・海外文学と日本文学
・ジャンルの異なる小説(純文学、ホラー、ミステリ、時代物など)
・長編と短編、ショートショート

 これらをうまく組み合わせると、頭が混同せずに四、五冊は併読することができます。
 また一番肝心なことですが、併読する場合でも、本命の本は決めておくと良いです。
 例えば、わたしの場合、今はこういう感じになっています。

 (本命)「百年の孤独」ガルシアマルケス 
 「箱男」安部公房(再読)
 「自分一人の部屋」ヴァージニアウルフ
 「誰にでもわかるハイデガー」筒井康隆
 ポオ、梶井基次郎、芥川龍之介の短編
 

 ついこの間までは、ウルフや安部公房のところに猫のダルシーや「成瀬」シリーズ、小林泰三などがいましたし、たまにアリスマンローの短編が降ってきたり、ニーチェ入門とか反哲学入門とか哲学が苦手なわたし用の入門書も飛び交います。決めているのは、「百年の孤独」を今月中に完読することと、安部公房は次に「カンガルーノート」を読むこと、芥川研究をしているので定期的に的を絞って短篇を数編再読することの3つくらいです。
 ただ、ウルフに関しては、昨日何気なく手に取って読み出したら余りの美しい描写にうっとりしてしまい、「箱男」が進みませんでした(再読なのでほぼ思い出しましたが)。この有名な随想本は積読にあったものです。やはり積読はこういうことがあるから重要なのです。
 上に挙げた本で斜め読みできるものはひとつもありません。「百年の孤独」などは(読了後に感想を書きますが)、一族の盛衰を書いているだけとタカをくくって池澤夏樹の読み解きキットであらすじをつかんでざっと読み流すと、すさまじく繊細で重要な描写を見逃すことになります。例えば、ホセアルカディオが変死したとき、流れ出た血がマコンド最強の母親ウルスラのところまでたどり着くシーンなどは、鳥肌立って感動で涙すら出ましたね。こんなシーンは読んだことがありません。
 ウルフも同じで、まだ読み始めたばかりなので図書館の近くで佇むときの心象風景が延々描かれるのですが、その美しさに惹かれてあっというまに併読ラインアップに加わってしまいました。

 一方で、冒頭に述べたように読了したものの残念だった本もあります。「ネフィリム」小林泰三(わたしは同氏のファンなので傑作もたくさん知っています)などがそうですし、「成瀬」シリーズもわたしには合いませんでした。どちらもスラスラ読めてしまうので読了するのは簡単なのですが、そういう本が危ないのは既に述べたとおりです。もちろん読む世代によって感想は変わりますから、これはわたしの個人的な意見であって、両方の本を貶めるつもりはさらさらありません。特に「成瀬」シリーズについては、わたしはきっと年寄りすぎるのでしょうね(笑)。ご容赦ください。

 さて、今回は併読のススメと積読の重要性について思いを書いてみました。同時に読みやすい本ほどつまらない本に出会う確率が高くなることについても述べました。また自分に合わない本を無理して読了する必要はない点も述べました。
 人間はこの世の中の膨大な本のすべてを読むことはできません。その中で良書にめぐりあうのは極めて難しいことです。異論もあるでしょうが、ぜひ併読をお試しください。そしてお金の許す限りまったく恥じることなく積読しましょう。

 それではまた!

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