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Kpopは日本と何が違うかについて、思ったこと

2020/9/12:KPOPについて新しいエントリを書きました。ぜひご笑覧ください→Kpopコンテンツはなぜクリエイティブで世界を圧倒できるのか

・Kpopはなぜ強いのか、様々な論調があるが、ほとんどが的を得ていないように思われる。極めて雑だが、日頃思っていることをまとめてみたい。
・海外市場を狙わざるおえないとか、日本語をよく学んでいるとか、あるいはトレーニングシステムが違うなど。それぞれ正しい一面もあるが、韓国と同じように国内の音楽市場が小さい国などいくらでもあるし、各言語を勉強したり、ネイティブの人材を投入するのは戦術に過ぎない。
・なお、前提として、KPOPと一括りに言ってすべてが成功しているとは思っていないし、グローバルに安定した利益を得ているのはほんの一握りだろう。それでも、そういったケースを生み出す確率には目を見張るものがある。

■アーティストあたりに費やす経営リソースの大きさ
・一つの事務所あたりのデビューできるグループは非常に絞る。逆に言えば、十分な予算があり、確信を持って売り出せる範囲の(数の)グループしかプロデュースしないし、デビューさせない。
・例えばグループユニットで考えると、SM、YGといった巨大事務所でも10以内には収まり、2-3組しか所属しないような事務所も多い。BTSが所属するBig Hitも、わずか2組である。
・その結果、1組あたりに割ける経営リソースは日本とくらべて圧倒的に多く、成功確率が高い。
・P&Gやネスレなどの海外消費財メーカーが単一のブランドで1000億円以上の売上を持つ「メガブランド」へ投資を集中するのと似ている。簡単に言うと、マネジメントするブランド数の増加は、それぞれの平均マーケティング予算の減少を意味している。50%のマーケティング予算で売上が50%になるのであれば、企業の総和としては問題ない。しかし、感覚的にもそうでないことは明らかだろう。予算が小ぶりになればなるほど、焼け石に水のような状態になり、結局誰も成功しないという悲劇を起こす。Anita ElberseのBlockbusters(邦題:ブロックバスター戦略)でも、圧倒的な予算規模が成功確率を一挙に引き上げる数々の事例を紹介している。


■マーケティング全体をコントロールできるマネジメント体制
・多くの事務所は、アーティストのマネジメント、楽曲/MV制作、メイキングやドキュメンタリーといったコンテンツの制作、ライブの制作などを一貫してコントロールできる体制を持っている。
・これによって、すべてのアーティスト活動が一貫したコンセプトに従って、戦略を持って行われる。
・アーティストはブランドと捉えるべきであり、ブランドは常に一貫したコンセプトと戦略で運用されるべきである。Byron SharpのHow Brands Grow(邦題:ブランディングの科学)にもあるように、ブランドのロイヤリティはマーケットシェアと相関しており、ロイヤリティを醸成するうえで重要なのはマーケティングにおけるコンセプトやデザインの一貫性である。
・テレビはテレビ局に、音楽はレコード会社に、ライブはイベンターに……と、それぞれのコンテンツでコンセプトは分断されていないだろうか? アルバムやツアー、グッズなど、どこかで手が抜かれていないだろうか?


■ファン基点のコンテンツデリバリー・コミュニケーション設計
・ファン/潜在的なファンがどのような行動をしており、それに対してどのようにコンテンツを届けるのがベストか、常に考えられている。また、その前提として、ソーシャルにおいて膨大なコンテンツを送り出す。
・3つのポイントがあるように思う。①「クオリティ」:グローバルに映像で戦うことを前提とした圧倒的なコンテンツのクオリティ。②「タイミング」:絶え間なく、飽きさせることなく、緩急をつけて様々なコンテンツを配信する。③「量」:コンテンツが多ければ多いほど、新たなファンにとっての接点も多くなる。MV以外から流入するファンもいるだろうし、MVだけが存在していても、そこから深いファンにつながらない。
・前提として、プラットフォームとしては、Youtubeを圧倒的な頂点として、各SNSやサブスクリプションプラットフォームを最重要視する。なお、あらゆるマーケティングにおいて「Youtube First」と読んでも差し支えないほど、Youtubeには強烈にリソースが投入されている。潜在的なファンにも、既存のファンにも両者に届けられるし、ソーシャルでの影響力は、そのまま彼らのブランド価値となり、それだけで十分な広告価値が生まれるからである。
・クオリティ:KPOPはUSと唯一張り合えるミュージックビデオのクオリティを持つと言えるだろう。そしてミュージックビデオのクオリティとは、楽曲やサウンド、振付や、衣装や、美術、撮影技術などの総合芸術である。これらがグローバルでの需要を前提として創られる。あらゆるクリエイティブはYoutubeを基点に考えられているといっても過言ではなく、それはユーザーの行動がYoutube/SNS基点だからであるし、グローバルなプラットフォームだからである。
・タイミング:どのようなコンテンツを、いつ届けるかも極めて重要である。楽曲公開のポイントはCDリリースではなく、YoutubeにおけるMVの公開である。公開前のカウントダウンは今や恒例だし、楽曲が公開された後の音楽番組の映像を立て続けに配信するのも有効とみられている。どれだけ一定の期間、ソーシャルにおける話題を最大化させるかを極めて重要視しているように思う。
・量:と同時に、YoutubeにおけるMVのメイキングやドキュメンタリー、個々のメンバーにフォーカスしたコンテンツの配信も行い、エンゲージメントを高めていく。グローバルな波及を考え、PRACTICE VIDEO(振付が見やすいビデオ)の配信も必ず行う。
・彼らのYoutubeチャンネルやInstagramをみれば、どれだけ膨大なコンテンツを、クオリティを維持しながら、絶え間なく提供しているかがよくわかるだろう。
・KPOPにおいて、コンテンツの物量は非常に成功と関連していると思う。KPOPにおいて特徴的なのは、とにかくYoutubeを始めとしたSNS/web上に驚異的な量の映像/写真等のコンテンツがあり、コンテンツホルダーとファンが共創していることである。コンテンツが多ければ、ファン/潜在的なファンとの接点が増え、流入したファンとの接触時間を最大化できる。シンプルな図式だが、コンテンツの物量は非常に重要なファクターであろう。

■初速の大切さと、そのためのファン母体の形成
・ネット戦略においては、とにかく初速が重要である。一回話題にできればそのまま追加のコンテンツやPR、マーケティングを投入して効果を最大化できるが、きっかけがなければ何も生まれない。
・そのため、KpopではKPOP全体/また事務所単位でのファンの育成に非常に力をいれているように感じる。KPOPというジャンル全体や事務所全体の活性化を目指すことで、全体のファンのパイを増やし、新たなアーティストのデビューや楽曲のリリースに対して関心の高い層が常に一定層存在する状況を作り出している。


■ハイブランド志向
・多くのアーティストが、あたかも自分たちがLVMHの一員であるかのように振る舞っている。すなわち、BLACKPINKやTWICEは、そのブランド性という観点でみれば、DiorやCHANEL、JILL STUARTのような存在をベンチマークとしているように感じる。
・あくまで僕の所感だが、その要因の一つは韓国人の憧れだと思う。手に届かない欧米のハイブランドを自分たちで作り出したいという想いである。
・その一方で、強烈なブランドイメージによるファッションアイコン化(とりわけアジアにおいて)、高級感の醸成によるグッズの平均単価の向上などを考えると、ベンチマークの対象としては正しいように思われる。


■株式市場からの資金調達やグローバル提携(Alibaba、LVMH)
・大手の事務所はすべて上場しているほか、SMはAlibabaから、YGはLVMHやTencentから出資を受けている。こういった資金調達やグローバルスケールでのパートナーシップにより、企業経営として洗練された打ち手が実行されている。

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