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韓国エンタメ業界が次に狙うグローバルプラットフォーマーの夢

韓国のエンターテイメント企業が次に狙うのはグローバルプラットフォーマーだ。

BTS、梨泰院クラスやイカゲーム、パラサイトなど、韓国の優れたコンテンツをグローバルでヒットさせる能力は圧倒的だ。一方でYouTubeやNetflixといったグローバルプラットフォーマーたちがそれらのコンテンツを流通させ、エンドユーザーから収入を得て、大部分を持っていく。しかもユーザーの詳細なデータは得られない。

このままプラットフォーマーに依存する構造では、利益でもデータ活用の観点でも限度があるーーと考えたかどうかはわからないが、韓国は今、積極的にプラットフォームビジネスに乗り出している。

グローバルプラットフォームの戦いでは、優れたオリジナルコンテンツの制作力と、資金力(≒コンテンツの調達・マーケティング・プロモーション能力)が重要な要素となる。韓国はコンテンツ制作のエコシステムをここ10年以上かけて構築し、グローバルクオリティに磨き上げた。その努力は、2020年代に入り、潤沢なキャッシュと、ユニコーン・デカコーンクラスの企業価値を韓国のエンタメ業界にもたらした。その資金力、企業価値を活かして、ついにエンタメのプラットフォーマーを狙うターンが来たのである。

韓国のエンターテインメント企業は、コンテンツ制作機能の拡充に加え、海外のプラットフォーマーの獲得やNFTなどの新規事業への参入のための投資を活発化させている。

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表1
表2


本稿では、グローバルプラットフォーマーを夢見るいくつかを紹介する。


ZEPETO(運営:NAVER Z 株主:NAVER、HYBE、YG、JYP)
2.5億人のユーザーを抱えるZEPETOは、NAVERの子会社であるNAVER Zにより運営され、企業価値は1,000-2,000億円程度と想定されている。HYBE、YG、JYPといったエンタメ企業から資金を調達したほか、直近ではソフトバンク(SVF2?)を含めた複数の投資家を中心に200億円程度の調達を目指している。

weverse (運営:WEVERSE COMPANY 株主:HYBE、NEVER)

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HYBEが「Fomdom Platform-ファンダムプラットフォーム」と呼称するweverseは、現在MAU640万人を抱える。ファン同士のSNS/チャット機能に加え、アーティストによる投稿、有料会員限定向けのコンテンツ配信やグッズ販売のEC機能などを持つ。

HYBEに所属するBTSやTOMORROW X TOGETHERといったグループのほか、今年1月に発表されたYGとHYBE(当時はBigHit)との提携により、7月にはBLACKPINKやTREASUREといたYG Entertainmentのアーティストが参加した。また、UNIVERSAL MUSIC GROUPとの提携により、UMGのアーティストも参加し始めている。

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運営元のWEVERSE COMPANY(旧beNX)は、51%をHYBE、49%をNAVERが保有するJVである。NAVERは2021年1月に約3,500億ウォン(約332億円)でWEVERSE COMPANYの49%を取得したため、その時点の企業価値は約6-700億円程度と評価されていたと考えられ、ユニコーン目前である。

上記に伴い、NAVERが持つ動画配信プラットフォーム・V LIVEはweverseに統合される予定。2022年の前半には、まずVLIVEのスポットライブ機能(アーティストによる生配信機能)が統合されるほか、検索などの機能にNAVERのテクノロジーを加えていく。VLIVEの他機能が、どんなタイムラインでどの程度weverseに搭載されるかは不明である。特にV LIVEには、Fanshipというファンクラブ機能(月額制)があり、例えばSMは2020年に8月にNAVERから90億円程度の出資を受け、その中でSMのファンクラブはFanshipへ統合するとしていたが、果たしてどうなるのだろうか?

weverseはMAUとARPUのドライバーのうち、ARPUは機能拡充やNFTの搭載で伸長の余地があるが、MAUは今後どれだけ伸びるのか不安材料があるとの見方もある。運用元がHYBEのため、Kpopの他競合事務所がどの程度賛同し参画するかは未知数。となると、MAUの伸びは、HYBE自社アーティスト自体の成長やアーティスト数の増加に依存することになる。
HYBEは、BTSを筆頭にしたアーティスト群やV LIVEの統合による集客力、NAVERの参画による高い技術力などによって、weverseを本質的な「プラットフォーム」にできるかが重要となる。
一方で、少なくとも短-中期的には、今後も多くのオーディションやデビュー計画等を抱え、買収した事務所のアーティストなども含めたHYBE自社所属のアーティストラインナップのグロースを、weverseというプラットフォームにコンバージョン高く囲い、高度にデータ分析をし、CRMを回していけば、weverseの価値は十分とも言えるのかもしれない。なんといっても、これまでこの規模のファンクラブプラットフォームを自社で抱えた音楽・芸能分野の企業は世界にないのである。


Bubble / Lysn (運営:Dear U 上場済 株主:SM、JYP)

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現在120万人の有料ユーザーを抱える、アーティストとファンのメッセージングサービスである。ファンは1アーティストにつき月額400円程度を払うと、そのアーティストから個人チャット(のような雰囲気のメッセージ)が届く。SM entertainment所属アーティスト向けに提供するLysnと、それ以外の事務所に開放しているBubbleがある。Bubbleは、JYPやFNCといった事務所別に分かれている。運営元のDear Uは2021年11月に韓国の証券市場・KOSDAQに上場し、2021年11月末現在で時価総額は約1.5兆ウォン(約1,400億円)にのぼる。

2021年1〜6月期の売上は184億ウォン(17.4億円)、営業利益は66億ウォン(6.2億円)。韓国外比率は80%程度に上ると言われる。

本質的にはDear Uの成長にはアーティストの追加しかない。特段の技術的優位は感じられず、アプリ自体は事務所毎に別れているため、それ自体に集客力があるわけでもない。HYBEあたりがコピーしてきても、さほど驚かない。

TVING(運営:TVING Corporation 株主:CJ ENM、JTBC、NAVER)

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韓国内でMAU334万を誇るメジャー・SVODサービサーであり、豊富な韓国ドラマ・バラエティのラインナップを有する。2021年にNAVERから400億ウォン(38億円)の資本を受け入れ、2022年には日本や台湾でLINEと共同で展開を進めるほか、2023年に有料会員800万人を目標とする。今後3年間で4,000億ウォン(約400億円)のコンテンツ投資計画を掲げいるが、これがCJ ENM全体で掲げられた2025年までに5兆ウォン(約4,900億円)というコンテンツ制作への投資に含まれているのかどうかは不明。

ちなみに韓国内でのSVODプレイヤーはトップがNetflix・MAU895万であり、次点でweaveとTVINGがMAU300万超で争っている。

韓国ドラマやバラエティの品揃えでは、TVINGは相当な優位を持つが、逆に韓国コンテンツのみに限られているとも言える。ラ・ラ・ランドを制作した米・エンデヴァーの買収は、海外コンテンツも取り込みたいという思いかもしれないが、制作会社1つではやや心細く、どちらかというとCJ ENM子会社のStudio Dragon等に続く制作能力の拡充が目的に思える。
そう考えると、23年度の有料会員800万人というやや控えめな目標は、Netflixとの全面戦争ではなく韓国コンテンツ特化プラットフォームとしての戦略を示しているのかもしれない。来年のLINEと組んだ日本への進出が、ひとつの答え合わせになるだろう。

NAVER WEBTOON vs KAKAO WEBTOON

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WEBTOONは韓国発で、縦スクロールで読みやすい、スマホ最適化された形式のウェブコミックだ。韓国の2大プレイヤーであるNAVERとKakaoがグローバルで競い合っている、最も市場評価の高い業界の1つである。彼らは同時に総合エンタメ企業でもあり、ゲームや映画、アニメといった様々なコンテンツへ転用可能な優れた原作探しを兼ねる。まさに「ストーリーを巡る戦争」といえよう。

日経新聞曰く、「同業のネイバーと(カカオが)ともに、韓国企業がデファクト・スタンダードを握る動きが強まっている。」※1

NAVER WEBTOONはグローバルMAU7,000万人で、IPOを検討中とされる(1部では2億人のユーザーを抱えると報道されているが、こちらは登録者ベースの数値と思われる)。2020年の証券会社の評価では企業価値7-8,000億円程度と考えられていたが、直近の韓国コンテンツの高い評価を織り込むと、より高い企業価値が期待されているようである

2021年1月には9,000万人のユーザーを抱えるカナダの世界最大小説創作SNS Wattpadを600億円で買収。2月にはグローバルウェブトゥーンサービスで米国第2位のTappytoonの株式25%を約30億円で取得。韓国内で3位のウェブ小説プラットフォーム「MUNPIA」の64%を、およそ120億円程度で取得(NAVERと提携しているCJ ENMも20%を取得)。MUNPIAに関してはKakaoも狙っていたようだが、失敗している。

Kakaoは運営する電子コミックの日本法人はピッコマを運営しているが、こちらは月商100億円を突破したと見られ、2021年5月に資金調達した際には企業価値8,500億円と評価されている。

本国のKakao EntertainmentはKakao WEBTOONを展開。カカオは音楽サービス「melon」等も展開する総合エンタメ企業だが、現在その総体だと20兆ウォン(2兆円)を超える企業価値と評される。

2021年5月に北米中心に数百万人のユーザーを抱える米国拠点の連載小説アプリ「Raddish」を約470億円で、同じく米国で若い女性に人気を誇るウェブコミックサイトTapas Mediaを約555億円で買収した。

日本ではKakao陣営のピッコマが、NAVER陣営のLINEマンガを抜いて電子マンガアプリで売上1位と考えられているが、グローバル展開ではNAVERが一歩先を行く。彼らはプラットフォームの拡張のために同業サービスの買収を続けるが、一方でクオリティの高いコンテンツを生み出し続けるエコシステムの構築にも力を入れている。NAVER、Kakao両者が小説創作アプリの買収を行うのは、ウェブトーンの原作となるストーリーが欲しいからだ。より良いストーリー、原作があれば、おのずとウェブトーンのヒット確率も高まり、その後のドラマや映画、ゲームといった360度展開も容易になる。

そして、2021年11月には、HYBEもオリジナルウェブトーンへの参入を明らかにした。所属するBTSを初めとしたアーティストストーリーを、ウェブトゥーンとして展開するのである。

HYBEはかねてより、アーティストが自らのコンテンツや身体を動かさずに収益を得られる、Artist-indirect-involvement(と彼らは呼ぶ)というセグメントを強化している。彼らは、BTSのメンバーの稼働力の限界が売上の限界であるという芸能事務所の構造上の問題を解決したいというモチベーションが強いように思われる。だからこそHYBEは、上記のZEPETOにもBTSのアバターキャラクターBT21を投入したり、韓国語の教材、ゲームなど、コンテンツの2次・3次利用に力を入れてきたのである。
一方でHYBEのウェブトゥーンが成功すれば、かねてより親密なNAVERへのより積極的なコンテンツ供給やパートナーシップなども考えられ、お互いの株価にも影響しよう。


参考記事

漫画のピッコマ、600億円調達 企業価値は8千億円超に *1
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC205YY0Q1A520C2000000/

Streaming platform Tving's MAU hit record high of 3.34 mln in May
https://en.yna.co.kr/view/AEN20210616007700315

「イカゲーム」「愛の不時着」「ヴィンチェンツォ」Netflixの人気の影で課題も…韓国のOTT市場は大激戦 - Kstyle
https://news.yahoo.co.jp/articles/a282eee31c75057a0eb10f43da56f0cf554c884f

DearU’s value nears YG Entertainment after strong Kosdaq debut
https://www.kedglobal.com/newsView/ked202111110010

Korea’s Naver Expands Investment in CJ ENM Streamer Tving
https://variety.com/2021/global/asia/korea-tving-naver-invest-streaming-1235010447/

Naver buying 15.4 percent of Tving for 40 billion won
https://koreajoongangdaily.joins.com/2021/06/30/business/industry/tving-naver-cjenm/20210630175800368.html

[韓流]CJ ENM コンテンツ制作に4900億円投資へ=世界企業に成長
https://www.wowkorea.jp/news/korea/2021/0531/10301543.html

“韓国ドラマやバラエティを配信”TVING、日本や台湾への進出を発表!独立1周年を迎えグローバル化を図る
https://news.kstyle.com/article.ksn?articleNo=2179159

K-content shares rise as OTTs bask in success of dramatized webtoons
https://www.kedglobal.com/newsView/ked202101200004

Naver、買収した小説創作SNS「Wattpad」をウェブトゥーン事業と統合——世界展開を本格化
https://thebridge.jp/2021/06/naver-webtoon-wattpad-integration-pickupnews

Naver Webtoon targets US listing by year-end
https://www.kedglobal.com/newsView/ked202102170008

ネイバー、カナダのウェブ小説大手を買収 620億円
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM201GX0Q1A120C2000000/

韓国Kakao Entertainmentが連載小説アプリ「Radish」を約478.7億円で買収へ
https://jp.techcrunch.com/2021/05/12/2021-05-10-serial-fiction-app-radish-acquired-by-kakao-entertainment-for-440m/

カカオ、米でネイバーと激突…激しさを加えるコンテンツ競争
http://japan.mk.co.kr/view.php?category=30600007&year=2021&idx=12507

NAVERウェブトゥーン、グローバルサービス「Tappytoon」運営会社に25%投資
https://www.webtooninsight.jp/Forum/Content/219

Naver, CJ ENM join forces to acquire Korea's No.3 web novel platform
https://www.kedglobal.com/newsView/ked202105280003

HYBE To Release New Original Webtoons Based On BTS, TXT, And ENHYPEN
https://www.soompi.com/article/1496889wpp/hybe-to-release-new-original-webtoons-based-on-bts-txt-and-enhypen

SoftBank Bets on Asian Metaverse Platform Selling Digital Gucci, Dior
https://www.wsj.com/articles/softbank-bets-on-asian-metaverse-platform-selling-digital-gucci-dior-11638270000

Naver's metaverse platform seeks over $40 mn in funding
https://www.kedglobal.com/newsView/ked202110130012

Korea’s CJ ENM Makes $1 Billion Bet on Endeavor Content to Become a Global Entertainment Player
https://variety.com/2021/tv/news/cj-enm-endeavor-content-acquire-1-billion-1235115777/

Kakao Entertainment acquires STAYC's company High Up Entertainment
https://www.allkpop.com/article/2021/06/kakao-entertainment-acquire

Kakao expanding entertainment business in Korea and beyond
https://www.koreatimes.co.kr/www/tech/2021/06/133_310356.html

Kakao adds 13 new affiliates in Q2, the most among major conglomerates: FTC
http://www.koreaherald.com/view.php?ud=20210803000781

Yoo Hee Yeol reinvests 7 billion KRW (5.9 million USD) from selling his company to Kakao but Yoo Jae Suk turned down the offer
https://www.allkpop.com/article/2021/11/yoo-hee-yeol-reinvests-7-billion-krw-59-million-usd-from-selling-his-company-to-kakao-but-yoo-jae-suk-turned-down-the-offer

SMエンターテインメントがNAVERとタッグ!約89億円の投資を誘致…新コンテンツの制作&市場拡大に期待
https://news.kstyle.com/article.ksn?articleNo=2148830



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