「節税」とは何か?大半の節税は「課税の繰延」であるということ

めったに世間をにぎわせないことで有名な経理業界ですが、最近新聞やニュース等でよく報道されていることがあります。
それがいわゆる「節税保険」。
生命保険各社が「節税になる」を謳い文句に経営者に対して加入を勧めていたため、国税庁の怒りが爆発したという経緯があります。

「節税保険」の仕組み

いわゆる保険料の経理上の処理の仕方には主に3つあります。
①支払った全額経費になるもの
②支払った半額が経費になり、残りの半額は資産に計上されるもの
③支払った全額が資産に計上されるもの
このうち①と②については経費計上されるため、利益を抑えることができ結果として節税することができますねということです。
年間1000万円の保険料であれば中小企業の税率は約35%なので350万円節税できるという話です。

「節税保険」の本質は課税の繰延であるということ

節税になるなら入ろう!という経営者も多いと思います。
しかし、それはあくまで短期的な話であり、長期的に考えた場合全く節税にならないことがわかります。
要は解約したときに入ってくる「解約返戻金」のことが前提から抜けているためです。
保険は途中で解約する場合、この「解約返戻金」を受け取ることができます。
ではこの「解約返戻金」を受け取った際の処理はというと全額収益に計上することになります。つまり利益を押し上げることになるため仮に100%の返戻率であった場合支払った額がそのまま収益計上されるというわけですからそこで今までの節税は全てパーです。これを「課税の繰延」といいます。
ゆえに「節税」を目的に保険に加入したとしてもその目的は全く果たされないことになります。
そこらへんは保険会社も理解しているのか、営業トークとして退職金と相殺すれば損益に影響出ないですよということも言ってくるようですね。
こちらに関しても当然「節税」の効果はありません。その解説についてはほぼ同様のことを書いているこちらのブログを参照された方が図付きで解説されているのでわかりやすいと思います。
騙されないで!法人契約の生命保険に節税の効果は一切ない

固定費化するリスク

上記のリンクでもそうなっていますが、こういった保険のシミュレーションをする場合、大体のケースで「毎年同程度の利益が出る」ということが前提に置かれています。
しかし、毎年同程度の利益が出るなんて誰もわかりません。でもなぜかこういうときは考えるのがめんどくさいのか毎年同じ利益が出るという誰も保証できない謎の前提をすんなり受け入れてしまいます。
景気に左右されないような業界やビジネスモデルであればある程度この前提も受け入れられるでしょうが、大半の企業はそうではないと思います。
そんな中保険料は毎年保険料が決まっていますので利益がどうであれ支払う額は変わりません。「保険料ではなく他の経費に使っておけばよかった」ということになったら目も当てられません。

他の節税手段の多くも本質は同じ

この話は保険に限った話ではありません。節税としてよく聞くのは「型落ちのベンツを買う」です。
これも結局はベンツの購入費用は4年落ち以上であればその後の1年で費用として計上できるため節税になるよ!ベンツはあまり値崩れしないから利益がやばいときに売却して売却益を出そうね!というものですが、理屈は払った額が経費となり、いざというときに売却益を出すという点で保険と同じです。
これ以外にも色々あるとは思いますが、いわゆる節税と言われているものは「経費の前倒し計上」であることが多いです。要は自社の商品を買わせたいがために「これを買えば経費計上できて節税になる」というトークをするわけですね。
もちろんそれが本当に必要なら購入すべきですが、それは本来購入すべきものであって節税とは全く意味が違います。(税金を減らすために買うのではなく、買った結果税金が減っただけ)

まとめ

節税保険については国税庁がかなりお怒りのようなので厳しい未来が待っている気がしますが、実際のところどうなるかはわかりません。
2008年にも保険料の処理の仕方について取り扱いが改正されましたが、その際は改正後に契約された保険のみに適用されるのみでした。今回は既存の契約にも影響があるのかまでは国税庁次第ですが、これだけ世間を賑わせた以上もしかしたら既存の保険契約の処理にも影響が出るかもしれません。
今回節税商品と言われているものの仕組みが出回ったことで改めて節税をするためにはどうすればいいかということを経営者や税理士、企業の経理が考えるようになればいいなと思っています。

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