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ミュージカル『カム・フロム・アウェイ』を見てきました。

10年ぶりに日生劇場に行き、ミュージカル『カム・フロム・アウェイ』を見てきました。
トニー賞を獲った時からいつか日本で見てみたいなと思っていた作品でした。今の時代に見ることができて本当に良かったです。
原曲の音源を何度も何度も聴いて予習していきました。日本語に訳されたらどうなるんだろうと思ってワクワクしながら観劇の日を待っていた。




舞台はカナダのニューファンドランド島。ガンダー国際空港の隣の街、ガンダー。かつては北米最大の国際空港とされていたガンダー国際空港があるが、この空港はかつて給油の中継地として栄えた空港であり、大陸間を簡単に飛ぶことのできるジャンボジェットの登場以降は「いつ閉鎖されるの?」なんて言われている空港だった。
島の人たちは互いが知り合いで、何の変哲もない毎日を送っている。スクールバスの運行会社はストを起こし、親御さんは子どもを学校に送っていく。何の変哲もない毎日だったが、2001年9月11日がやってくる。
飛行機を使ったテロ事件。連邦航空局は飛行機の運行を停止する。そして、大西洋上を運航していた39機の航空機、あらゆるバックグラウンドを持つ乗客と乗務員7000人を受け入れることとなった。

公式ホームページを見ていただくとおわかりいただけると思うのだが、現在の日本ミュージカル界のトップ俳優が集合して、島の住人から飛行機の乗客まであらゆる人物を演じ分けている。
偶然その日島にやってきた彼ら一人一人に物語が生まれてくるというお話。なのでキャストさんも「メインの役とその他多数」という形であらゆる人を演じていた。


泣くだろうなと思っていたけれどもまさか日生劇場に入ってすぐに泣くとは思わなかった。日生劇場の高級感あるけれども古くてあったかい歴史がそうさせたのかもしれないし、この「誰でもそこに生きているよ」と訴えかけるようなセットがそうさせたのかもしれない。とてもとても良いお席をご用意いただいた。
開演前とカーテンコールの後は舞台の写真を撮ることができる。


私が人が演じる演劇を生で見たいと思う最大の理由は「そこに人が生きていること」を実感したいからだと思う。
そこに人が生きているから演じられるし、物語は直接見る者の心に刺さるのだと思う。今回は本当にお席の幸運もあって、俳優さんの息遣いと、舞台で生きている一人ひとりが生きていることを実感することができた。
出てくる登場人物たちがみんな人間臭くて、酔っ払うし大はしゃぎするしパニックになるし、そして怒るし悲しむ。そうした感情の一つ一つの機微をこの作品の中で見せていただけたのが本当に良かった。

一番印象に残ったキャラクターをあげるとすると、柚希さんが演じてた島の学校に勤めているビューラさんかな。先生らしく世界中から集まった異なる文化の人を優しく受け入れる。
そして、「息子が消防士」という共通点を持つハンナさんとの友情が本当に良かった。ハンナさんの息子はニューヨークの消防士。9月11日は非番だったが、作中ずっと連絡が取れない。森久美子さんが演じるお母さんとしての悲痛な表情が心痛くて何度も泣いてしまった。
こんなことがなければ出会わなかっただろうけれどハンナさんとビューラさんが友達になれて、それは本当に良かったよ。

また濱田めぐみさんが演じたアメリカン航空初の女性パイロットさんも良かった。航空業界で誇りを持って働いていた人たちのこともあのテロは傷つけたんだなと。何か大きなものがあの日確実に変容してしまったんだな。

加藤和樹さんを今回初めて舞台上で拝見したが本当に良いお役だった。ビビリの飛行機の乗客がメインのお役なんだけれども、どんどん島の人たちと友達になって最後は「ここを離れたくない」と言うまでになる。感情の変化の表現が本当に上手い方だなと思った。

私の大好きな咲妃みゆさんも最高だった。人生の節目節目に彼女の舞台を見たいと思って見に行っているのだが今作の咲妃さんも本当に生き生きとしていた。彼女のメインの役は島のローカルテレビの新人リポーターさんで、ほぼ寝ずに島からの中継に出続ける。先述のハンナさんにもインタビューをし、息子さんからの連絡を待ち続ける彼女を見て、自分も震え出してしまう。
「傷つきながらこの島に来た乗客にマイクを向けることはあんまり好きなことではなかった」と思ったからこそ、ずっとローカル局でレポーターを続けることを決める。
その他、アメリカン航空のCAの役も良かったな。航空業界の方が一番「これはとんでもない非常事態だ」とわかるからこそ心が揺れたんだな。
あと咲妃さんは飛行機に預けられたいろんな動物たちの鳴き声も担当されていた!犬も猫もボノボもリアルで最初は舞台上で咲妃さんが演じているとわからなかった。

島の人たちが懸命に世界中の人を受け入れて、そして受け入れられた全世界からの観客は戸惑いながらも最後は「自分の島の民だ」と言ってそれぞれの家に帰っていく。それまでとは違う日常かもしれないけれど。
物語は2011年9月11日の「同窓会」を最後に終わる。島に立ち寄ったことをきっかけに集まった奨学金。あの日に出会って国際結婚したカップル。ビューラさんとハンナさんの友情。歓迎する島の人たち。とても悲しい日付である。だからこそ祈りながら、自分たちの出会いに感謝するところで幕は降りる。

すごく人が「生きて生活して出会って別れてまた出会う」その一連を感じ取ることのできた物語だった。

そしてミュージカル界のスーパースター揃いの作品なので、めちゃめちゃノリの良いメロディと心地よいリズムが作品を通してずっと流れ続ける。この演劇作品の魂のような核のようなものが全部歌になっている気がした。バンドの皆さんも時たま出てきて一緒に演奏するし、カーテンコールで素敵な曲を聞かせてくれた。

どうしてこんなことが起こるんだ?ということがたくさん起こる時代に「何かしなくちゃ、何かしたい」と思って飛行機の乗客と乗務員を受け入れた大西洋の島の人がいるということは希望だと思う。世界中から島に感謝の贈り物が届き続けたことも。

また見たいし日本語版の音源出してくれないかな。翻訳も素晴らしかった。
ツアーも含めて5月まで公演なさるとのことなので是非。

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