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引きこもりが地下アイドルになって3ヶ月で辞めた話(後編)


デビュー当日。
キャパ200人程度のライブハウスでのお披露目。
スカスカなんだろうな…と予想しながら、舞台袖から客席を覗き見ると、
平日の夜にも関わらずほぼ満員だった。

まあまあ軌道に乗っている事務所だったため、新グループのお披露目は界隈ではある程度話題になっており、既にファンもついていた。

つい最近まで引きこもっていた人間が、大勢の人の前に立つのは緊張した。メンバー同士励まし合い、ステージに上がっていく。

お客さんはみんな笑顔だった。自分のメンバーカラーのペンライトを振ってくれている人もいた。

綺麗だと思った。ステージに立つのは楽しかった。

デビュー日以降、毎日のようにライブがあった。

披露するのはオリジナル曲で、レコーディングがあったりと多忙だった。

お客さんがチェキを1枚撮ってくれるごとに300〜500円が給料として入る。

初めは、お客さんが自分のためにお金を払って並んでくれていること自体が嬉しかった。ステージから見えるお客さんの笑顔のために頑張ろうと思えた。

しかし、多忙なスケジュールに対して割に合わない給料に、だんだんみんな心身ともにやられてくる。

「○○さん、私以外とチェキ撮らないでよ〜。」

メンバーは、自分に大金を使ってくれる客に執着するようになる。

「今日さぁ、私のオタクの○○、ワチちゃんとチェキ撮ってたよね」

自分のファンが他のメンバーとチェキを撮ることに対して文句を言う子までいる。

メンバー同士悪口を言うようになる。
仲良しの部活のようだった場所が、いつしか戦場になっていた。

アイドルが客に執着している場面を見ると、本当に売れたいならそんなことしなければいいのに…と思ってしまうが、

彼女たちはそうでもしなければ、アイドルでいられない。生活していけない。生きるために必死だ。

逆にいえば、そこまでしてでも、アイドルでいたいのだ。

アイドルがオタクに優しいのはもちろんお金のため。売れるためにはなんだってするしメンバーの悪口だって言う。

だけどお金が欲しい理由は、オタクの笑顔を見ていたいから。売れたいのは、グループやメンバーのことが大好きだから…

そんな複雑で愛らしい情熱に、私はついて行けなかった。アイドルは、私が想像していたよりもずっと熱くかっこよく美しい女の子たちでした。生半可な気持ちでは彼女たちに失礼だとも思った。

☆脱退☆

すぐに辞められる訳はなく、揉めに揉め、私と交替で入ってくれる新メンバーのオーディションが始まり、その間陰口を言われまくりながらしばらく過ごした。本気でやっている子たちを裏切るのだから、言われて当然。

もう辞めるので派手に踊っていたら、元気がいいと評判になり少しファンが増えました。ごめんなさい。

そうして時間が経ち、私のアイドル人生はあっさり終わった。

アイドルが前に所属していた他のグループのことを「前世」というが、
オタクがアイドルを離れることを「他界」と言う(初めて聞いた時、不謹慎で笑ってしまった)。

アイドルもオタクも人生だ。身をもって実感しました。

おわり!😆
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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