新幹線も弾く毛布と、愛おしい明け方 「へそだけが、愛おしいのね」
登場人物
みな子2…みな子の妹。
みな子 …みな子2の姉。
マリキチ…みな子2の屋敷に住む手伝い。
男 …攫われて、みな子2の屋敷に来た男。
この話は山奥にある館とその周りが舞台。館はよく、名探偵が連続殺人に巻き込まれる物語に出てきそうな雰囲気のもの。山のふもとから館まで、自動車で一時間程走り、そこから徒歩で三時間歩く。十月。紅葉はこれから色づくところ。他には杉、ブナが、人の手に煩うことなく、黙々と成長している。ヒグラシの季節が過ぎたばかりで、葉っぱが風にざわつく音だけがひっきりなしに鳴っている。でもそれは人の出す音じゃないから大きいけれど静か。
舞台中央にベッド。就寝用のものに比べて、若干脚が高い。これは就寝用のものではない。手すりも何もない。太い木を繋ぎ合わせたような、ぎこちないベッド。天面の隅にこびりついている。赤黒い染み。そのベッドの傍らに灯り台。明らかにベッドとは不釣り合いなもの。灯り台には、かすかに装飾のある笠のついた灯り。灯りが、じっと牽制するように見つめている先に椅子。ベッドとは少し離れたところに一脚だけ。かろうじて背もたれのあるような、頼りないもの。椅子を見つめている視線がもう一つ。みな子。ベッドに寄り添って立っている。「メリさんの羊」を歌っている。
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