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東京国際映画祭日記 DAY5

10/30(日)、東京国際映画祭参加5日目。晴れ。
昨日は「佐久間宣行のオールナイトニッポン0presentsドリームエンターテイメントライブ」に参戦したので、映画祭には足を運ぶことができなかった。(ちなみにこのライブは、RHYMESTERとサンボマスターがメチャクチャ最高だった)

11時からヒューマントラストシネマ有楽町で今日の1本目、ユース部門『ヌズーフ/魂、水、人々の移動』を鑑賞。
ユース部門とは、10代の方々に特に観てもらいたい作品を集めた部門らしい。
今回選ばれた3作は、どれも世界の国際映画祭で注目を集めた作品ばかり。
『ヌズーフ/魂、水、人々の移動』はヴェネチア国際映画祭オリゾンティ・エクストラ部門で観客賞を受賞した作品だ。

<あらすじ>
シリアのダマスカスに住む14歳の少女ゼイナとその家族は、戦争の真っ只中、周りが避難した後もマダスカスの家に住み続けている。しかしある日、ミサイル襲撃によって天井に大きな穴が開いてしまい、家族は家にとどまるか、難民になるかの決断を迫られる。

『ヌズーフ/魂、水、人々の移動』場面写真

世界中で戦争が起きている今、戦いの現場には、必ず生活者が存在しているという当然の事実を、はっきりと突きつけられた。
戦争によって故郷が破壊される悔しさ、そして故郷を離れなければならない苦しさは、日本に住む私には想像に絶し難いが、考えることを放棄してはいけない。
自分の生活は、当たり前のものではない。守っていかなければならないのだと思った。
この映画の主人公である少女の表情がとても素敵だった。戦時下でも、目に映る世界を新鮮に楽しもうとする表情。
もちろん楽しいだけではないが、苦しいだけでもないのだろう。生きることが、辛いだけのものであってほしくないと切実に願う。
この映画を観て、戦争は家父長制が生み出したのではないか、拍車をかけたのではないかと考えさせられた。家族はどこまでも家族でなければいけないのか?父親に従わなくてはいけないのか?
根強く残る伝統への違和感を、少女の目から映し出していた。これは多くの人に届くべき作品だ。

映画が終わって13時ちょっと手前、今日は吉牛を食べた。知らないうちにタッチパネル式になっていて、つゆだくも選べるのは嬉しい!

続いて2本目は、14時からTOHOシネマズシャンテでアジアの未来部門の『私たちの場所』。
インドのポパールを拠点に活動する創作集団「エクタラ・コレクティブ」による第2作目で、エクタラ・コレクティブは個人の監督を冠さずに、多様な出自のメンバーによって映画を制作する集団らしい。
監督に個人名をクレジットせずに映画を制作することは、映画界としてはかなり新しい試みなので、どんな映画を作ったのか、かなり楽しみにしていた。

<あらすじ>
インドに住むトランスジェンダーの二人組は、ある日住処を立ち退かされ、新たな家を探すことになる。しかし、性的マイノリティに対する世間からの風当たりは強く、家探しは難航する…。

『私たちの場所』場面写真

強い意志と発信力を持った、素晴らしいクィア映画だ。
主演二人は、物語の中で色々な形の差別に直面するが、その度、冷静にチャイを飲む。その堂々たる姿が非常にカッコいい。
性的マイノリティの人たちは、マジョリティの人たちが無条件に持つ権利(好きな人と居ること、好きな服を着ること、好きな場所に住むこと、自分の性別のトイレに入ること)すら認められていないのだから、権利を主張することは当然の原理なのだ。
それにもかかわらず、マジョリティは、自分達と異なるからと言って、権利を認めない。
さらにマジョリティは、マイノリティが自由の権利を主張するのならば、私たちにもそれを権利を拒否する権利があるのだと主張し、差別的な発言を連呼し続ける。ひどく不均衡な社会に生きているのだと実感させられる。
なぜマジョリティが権利を「認める」立場にあるのだろうか?
性的マイノリティであることを、マイノリティが「言わなかった」のではなく、マジョリティが「言わせなかった」のだ。
物語の中で、家探しをする二人の運転手を務める男性が、「男社会の償いだ」と言って運転の料金を受け取らない、というシーンがある。
このシーンが物凄く胸に残った。ここにも、家父長制の悪しき伝統が根付いている。
この文章を書いている私自身、ヘテロセクシュアルで、ストレートの男性というマジョリティ属性だから、この台詞には身を摘まされる思いがした。
上映後Q&Aでは、脚本と撮影監督を務めたマーヒーン・ミルザーさんがご登壇された。
今作の主演を務めた二人は、実際にトランスジェンダーの方で、演技未経験だったとのこと。
当事者の役を当事者が務めることには、大きな意味があると思う。

『私たちの場所』Q&A(マーヒーン・ミルザーさん)


そして3本目は、17時から同じくTOHOシネマズシャンテでユース部門の『ザ・ウォーター』を鑑賞。
今年のカンヌ国際映画祭監督週間でワールド・プレミアされたスペイン映画。

<あらすじ>
舞台はスペイン南東部の小さな村。この村に住むアナは、村に戻ってきた男性とひと夏の恋に落ちる。しかしこの村には、嵐が来て川が洪水すると女性が失踪するという言い伝えがあった…。

『ザ・ウォーター』場面写真


正直、つまらなかった!
ひと夏のガールミーツボーイというありきたりなテーマで、話の起伏も無いまま、静かに時間だけが過ぎていった。スペインの美しい風景は素晴らしかったが、それ以外に特筆すべき所は無かった。
盛り上がりを期待していた分、ちょっと残念。
同じスペイン映画ならコンペ部門の『マンティコア』の方が圧倒的に面白かった。

そして今日の最後、4本目は角川シネマ有楽町でNippon cinema now部門の『ケイコ 目を澄ませて』を鑑賞。
『きみの鳥はうたえる』(18)で知られる三宅唱監督の、待望の最新作。今年のベルリン国際映画祭エンカウンター部門に出品された作品で、今年最も楽しみにしていた日本映画のひとつ!
しかもジャパン・プレミアということで、期待値は当然高い。

<あらすじ>
愛想笑いが苦手で、嘘のつけないケイコは、生まれつき両耳が聞こえない。ケイコは耳のハンデを乗り越えてプロボクサーになるが、彼女の心はいつも雑音だらけ。ボクシングを続けることにも迷いが生じる中、ジムが閉館することを知り、彼女の心に変化が生まれるー。

『ケイコ 目を澄ませて』場面写真



あまりの映画体験に、魂が震えた。
ケイコの生きざまに、岸井ゆきのの生きざまに、心が強く揺さぶられた。人として、惚れ惚れするほどにカッコよかった。
ひたむきなケイコの姿を通して、三宅監督の、映画に対して真っ向から挑む姿勢も見えた。
生きざまで惹きつける人は、とにかく自分に負けたくない人たちなのだ。
雑音が聞こえないわけじゃないし、へこたれないわけじゃない。傷つかないわけじゃないし、誰かを傷つけないわけでもない。常に他の人に勝ち続けているわけでもない。
しかし、自分自身には絶対に負けてたまるか、と本気で思っている。誰かに従ってたまるか、という目をしている。
この映画は間違いなく自分の人生を支えてくれる。
とにかく本気の映画だった。非当事者が当事者を演じていることへの批判もあるとは思うが、この映画は誠実だから、向き合ってくれる。
誠実で、信頼できる映画を作ってくれたことに感謝しかない。そんな映画が増えてほしい。
三宅監督の上映後Q&Aからも、映画づくりへの強い覚悟が伝わってきた。

12月に公開予定なので、公開したら改めて文章を書こうと思う。
心から、観て良かったと思える作品だ。

『ケイコ 目を澄ませて』Q&A(三宅唱監督)


今日はこれで終わり。なんだかんだ24時は回ってしまった…
明日は東京フィルメックスの作品も鑑賞予定!
今回最多の1日5本。体力を整えよう。

(場面写真は全て東京国際映画祭公式Twitterより引用しました)

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