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東京国際映画祭日記 DAY7

11/1(火)、天気は曇り。もう11月か…。
今年中に観たい映画がまだたくさんあるので、時間の許す限り観ていこう。
今日はコンペ部門3作とワールド・フォーカス部門1作を鑑賞予定。

まず10時半から有楽町よみうりホールでワールド・フォーカス部門の『パシフィクション』を鑑賞。
今年のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、批評家による星取表では高い評価を受けていた1作。
賞に絡むことはなかったが、主演のブノワ・マジメル(2001年にカンヌ男優賞)の新境地ということで、今回の東京国際映画祭の海外映画では1番楽しみにしていた作品!

<あらすじ>
舞台はフランス領ポリネシアのタヒチ島。この地を治める政府高官のド・ロレールを中心に、周囲の怪しげな人間たちとの交流が描かれる。

『パシフィクション』場面写真

なんだか、煙に巻かれたような気分になった。
怪しげで意味深だが、何も掴ませないようなストーリーと、不親切で説明を省略しまくった展開。そして165分という長尺。
しかしそれでも全く飽きずに観ていられるような、圧倒的な画面の美しさ。
タヒチ島の雄大な自然が惚れ惚れするほど美しい。
ブノワ・マジメルのミステリアスな佇まいも素晴らしく、俳優たちの魅力が溢れた怪作だった。
トランスジェンダー女性たちの活躍も印象的だった。怪しげなナイトクラブで交わされる、怪しげな男たちのやり取りの中で、重要な役割を果たしていた。
めちゃくちゃ面白い!とすぐに言えるような映画ではないが、この映画を観たという経験が、いつか別の映画を観た時に活きるのかもしれないと思った。映画祭でないと巡り会えないような映画だった。

続いて14時過ぎからコンペ部門の『アシュカル』を鑑賞。
チュニジア出身のユセフ・チュビ監督の長編デビュー作で、刑事もの、SF、スリラーといったジャンル映画を横断し、政治的主題を浮かび上がらせる異色作という触れ込みで、期待は高い。

<あらすじ>
舞台はチュニスの郊外。2010年のジャスミン革命により独裁政権が崩壊したことで工事が中断された建設現場で、黒焦げの死体が連続して発見され、ふたりの刑事が捜査を進めていくが…。

『アシュカル』場面写真

シンメトリックなオープニングショットは完璧。心を掴まれた。そして建物のロケーション、カメラの構図も完璧。映画としてのミステリアスな出だしは完璧だった。
しかし、ジャンル横断にチャレンジしたせいか、どのジャンルでも中途半端に終わってしまった印象が否めない。
ミステリーにしては謎が少なく、刑事ものにしては犯人に魅力が足りず、SFにしては飛躍が弱すぎた。
その結果、伝えたい政治メッセージも弱く感じてしまった。
とてもチャレンジングだった分、どうしても、あと一歩心を掴むような要素が欲しかった。
構図の感性は本当に素晴らしく、カメラワークも見事だったので、次回以降どんな作品を作るのかがとても楽しみ!

上映が終わり16時。時間が空いたので、ドトールで休憩。ケーキの誘惑に負けてしまった…。
ここ1週間くらい、大学の課題を溜めてしまっているので、スキマ時間になんとか終わらせる。

そして18時から丸の内TOEIでコンペ部門の『孔雀の嘆き』を鑑賞。
スリランカのサンジーワ・プシュパクマーラ監督の第4作目で、昨年はアジアの未来部門で『ASU:日の出』が上映され、今年はコンペ部門に昇格した。スリランカ映画は初めてなので楽しみ!

<あらすじ>
スリランカの首都コロンボに住む青年アミラは、両親の死後、幼い兄弟たちを一人で必死に養っている。ある日、心臓病を抱えた妹の手術代のために大金が必要になったアミラは、偶然出会った女性から高額の仕事を紹介される。しかしそれは、望まぬ妊娠で生まれた子どもたちを外国人夫婦に斡旋するという仕事だった…。

『孔雀の嘆き』場面写真

これは明確に面白かった!
スリランカ社会の闇の部分を真っ直ぐ描いていて、『パラサイト』や『万引き家族』、『ベイビー・ブローカー』のように、アジアの抱える貧困問題を提示する強いメッセージ性を持つ作品だ。
スリランカの現状を徹底的に深掘りし、貧困問題や、海外への乳児斡旋問題に焦点を当てると同時に、スリランカの社会経済に密接に関わる中国の存在も浮き彫りにしていた。
そしてスリランカ以外の人が観ても、問題の実態が理解出来るように、丁寧に作られた映画だと感じた。
また、この映画は家族愛の物語でもあった。
監督の半自伝的な作品で、実際に20年以上前は主人公と同じように兄弟を養う立場にあり、妹は心臓病で亡くなってしまったそうだ。
そして、妹に捧げる映画を作りたいという思いからこの自伝的な作品が生まれたとのこと。
だからこそ、家族への想い、愛するひとへの想いが溢れて出ていて、強く胸を打たれた。
セリフではなく、表情で語る雄弁な映画だった。
最後は、誰かを愛することに貴賎はいらないのだと思わせてくれた。

上映後のQ&Aでは監督とプロデューサーの方2名が登壇された。笑顔が素敵な監督で、映画に対する熱い思いが自分には強く伝わった。この作品は、まさに監督の生きざま映画なのだと感じた。
推したい映画だ。

『孔雀の嘆き』Q&A(左からサンジーワ・プシュパクマーラ監督、アミリ・アベサンダラさん、スガンダ・ハンダパンゴダさん)


本日最後は、21時からヒューマントラストシネマ有楽町でコンペ部門ラストの『エゴイスト』を鑑賞。
野田洋次郎主演の『トイレのピエタ』(15)や村上春樹原作の『ハナレイ・ベイ』(18)を手がけた松永大司監督の最新作で、言わずと知れた鈴木亮平と近年注目を集める宮沢氷魚の共演作だ。

<あらすじ>
14歳で母を失い、田舎町でゲイである自分を押し隠しながら思春期を過ごした浩輔(鈴木亮平)は、今は東京の出版社で、ファッション誌の編集者として裕福な暮らしをしている。
ある日、浩輔はパーソナルトレーナーをしている龍太(宮沢氷魚)と出会う。龍太はシングルマザーで病気がちな母を支えながら暮らしていて、互いに惹かれ合った二人は、愛し合いながら満ち足りた時間を過ごしていくが…。

『エゴイスト』場面写真



あまりにも、素晴らしすぎた。
言葉にしたいが、言葉よりも先に感情が溢れ出てしまい、言葉にならない。
こんなにも素晴らしいクィア映画が、日本で作られる日が来るなんて!
これだから、映画を観ることはやめられない。
色々な障壁を乗り越えてきた作品なのだと思う。
作り手の、絶対にこの映画を届けなくてはならないという熱い思いが、心にブッ刺さった。
与える愛はエゴなのか?浩輔の愛の形は本当に愛なのか?人の愛に口出しすることも、またエゴなのかもしれない。
しかし、受け取る側が愛と思ったのならば、それで良いじゃないか。
こんなこと、今まで誰も言ってくれなかったから、涙が止まらなかった。
この映画から愛を受け取ったと思う。
本当にシンプルで、愛のある作品だ。
来年の2月に劇場公開予定ということで、再び鑑賞する機会を楽しみにしている。
間違いなく、来年ベストの映画になるだろう。

今日でコンペ部門14作品が観終わった。
(『This Is What I Remember』のみ未鑑賞)
明日授賞式なので、そろそろ受賞予想をしよう!

・東京グランプリ/東京都知事賞(最高賞)
◎『ザ・ビースト』
○『第三次世界大戦』
△『マンティコア』

・審査員特別賞
◎『第三次世界大戦』
○『テルアビブ・ベイルート』
△『エゴイスト』

・最優秀監督賞
◎エミール・バイガジン(『ライフ』)
○ロドリゴ・ソロゴイェン(『ザ・ビースト』)
△マヌエラ・マルテッリ(『1976』)

・最優秀賞男優賞
◎モーセン・タナバンデ(『第三次世界大戦』)
○ナチョ・サンチェス(『マンティコア』)
△鈴木亮平(『エゴイスト』)

・最優秀賞女優賞
◎サラ・クリモスカ(『カイマック』)
○アリン・クーベンハイム(『1976』)
△ザルファ・シウラート/サラ・アドラー(『テルアビブ・ベイルート』)

・最優秀芸術貢献賞
◎『輝かしき灰』
○『ライフ』
△『孔雀の嘆き』

・観客賞
◎『エゴイスト』
○『窓辺にて』
△『カイマック』

賞に絡んできそうな作品は『ザ・ビースト』、『カイマック』、『第三次世界大戦』、『マンティコア』、『エゴイスト』あたりだろうか。
受賞者の予想が男性に偏っている印象があるが、審査員が女性3名、男性2名ということで、『テルアビブ・ベイルート』や『1976』が受賞する可能性は高い。
未見の『This Is What I Remember』がどこまで賞に絡むのかが分からない…
ただ、どの作品が選ばれたとしても、全く異論はないと断言できるほど、どれも素晴らしかった!
明日の授賞式が楽しみだ(その時間は『エドワード・ヤンの恋愛時代』を観ているが)。

アジアの未来部門は10作品のうち3作しか観ていないが、『私たちの場所』か『へその緒』に受賞してほしい気持ちが強い。

いよいよ映画祭も大詰め。早く寝よう。

(写真は全て東京国際映画祭公式Twitterより引用させていただきました)




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