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うみなし県立むかわ高校すぱか部

主な登場人物とか、その他もろもろ

礼子
この小ネタ集の主人公。すぱか部部長。高校2年生。主にボケとM極とドリーム担当。
カブが好きすぎて、この冬に地元県産カブにこだわったスペシャルパーツメーカー"デッカイ(株)"を創業する女子高生起業家。
そのこだわりはハンパなく、製造している全パーツをコンプリートすると、オリジナルの性能をはるかに凌駕するカブが1台まるっと全部出来上がってしまう…。
現在、すでに本家家元のバイクメーカーと係争中。
いつも自分で呟いた親爺系ギャグに、ひとりでツボっては、ひとりで大笑いしている困ったひと。
口癖は"ゲンサク"では云っていない筈の「まるっと全部」(CV 仲間由紀恵)。
座右の銘は"いつか必ず、多分、もしかして、気が向いたら払う"。
ゲンサクトハマッタクカンケイナイ。

小熊
同級生の礼子によって、すぱか部へ強制的に入部を強いられた力の被害者一号。
高校2年生。主にツッコミとS極とフィクション担当。
常に一手だけ先を読んで動き、必要なら刻すら越える能力があるなど、諸々と経歴不詳の怪し…不思議な不思議な女の子。
一説には、かつて甲斐国と呼ばれたこの地を治めた武将、武田勝頼公の遺児とされる猿飛佐助の末裔とも…。
たまにCV担当が渋い声優さんに替わって、ハードボイルド担当へキャラ変し、渋キャラ願望の強い礼子をキュンキュンさせる。
口癖は"別のアニメ"ではお馴染み?の「礼子が悪いんだよ」(CV 鬼頭明里)
勿論、お約束として、この小ネタ集でも"そんな台詞"はマッタク云わない。
ゲンサクトカアキオサンハマッタクカンケイナイ。

恵庭 椎
礼子が文字通り"行きつけ"にしているパン屋の看板娘にして、ふたりの同級生ゆえに技の被害者二号として、なし崩しのうちに、すぱか部部員とされる。
見た目に反して高校2年生で、礼子や小熊とは同じ年齢とされている。
主に毒とN(ノーマル)極とリアル担当。
将来、世界的なイタリアン・バール・チェーンを中核とした一大コングロマリットのCEOとして世界経済を牛耳り、カブ一本で海外進出を図る礼子の前に立ち塞がる。(予定は未定)
その経営戦略と実行力は、実家の手伝いをしている現在、すでに辣腕の域を越えつつあり、後世の世界史と経済の教科書に載るレベル。
口癖は"ゲンサク"でもお馴染み?の「〜れば良いのに…」(ときどきCV 早見沙織)
多くの場合で、"呪いの言葉"として機能する。
割とメゲないコ。
座右の銘は"イタリアのものが好き!"と"現金明朗会計"。
ゲンサクトハマッタクカンケイナイ。

その他の人々
デタリハイッタリイソガシイ。ゲンサクトハ…(以下略)


すぱか部
うみなし県立むかわ高校の創立時から存在する文化部のひとつ。
その活動内容は誰にも判らない。
と云うか、部員たちも筆者すらも判ってない。
ゲンサクト…(以下略)

スーパーカブ
礼子たちが通うむかわ高校の近くにある地域密着型の老舗スーパー。
…違う店名だったが、何故か、最近、今の店名に改めた。
ひとり暮らしの礼子や小熊たちの生活物資、軍事物資を一手に担い、"文字通りの彼女たちの命を預かる兵站部門"としての顔を持つ。
先日、洗面用品売り場の隣りに戦闘用品売り場を設置したばかり。
なお、オーダーしたモノはどんなモノでも24時間以内に用意する。
(但し、ツケは利かないので、礼子はあまり利用したがらない)
ゲンサクトカりあるノすーぱーオノサントハマッタクカンケイナイ。

うみなし県
県のほぼ中央にあるバイクショップ周辺を中立緩衝地帯として、県北部をむかわ市立本多氏原付同盟が、県南部をもとす町営山葉氏野外戦線(第3セクター)が実効支配し、何かの覇権を競っているニホンノドコカ二アル県。
全県民が海を知らないが、両陣営とも"水軍組織"(むかわ公立水域遊弋警備舟艇群 & もとすフジヤマ湖水地方軍事共済組合)は運用している。
なお、隣接するさいれんとひる県ともニホンイチノオヤマの領有権を巡って、造山活動すらなかった先カンブリア紀から、何億年も戦いつづけている。
ゲンサクトカホカノまんがトカあにめトカヤマナシケントカトナリノケンハカンケイナイ。

トニカクゲンサクトカリアルトカソノタモロモロカンケイナイ。

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すぱか部 いきなり最終回 ときかけの女の子

「え? 自分がいた未来へ帰るって…。あんた、それっていったいどう云うコトなの?」
「ごめんね、礼子、椎ちゃん。私たちの時代にはカブは…。カブのパーツも、もうなかった。 だから私はここへ来た。そして帰らなきゃいけない。必要なパーツは手に入れた」
「そんな…。カブの部品は10年先、100年先、いいえ!!  1,000年先、1万年後の未来でだって手に入るはずよ!!」
「礼子、さすがにそれはムリ」
「ムリなもんですか!! だってカブなのよ!? 何なら私が親の会社を継いで…」
「気持ちは判るけど…。とにかくこの時代、この場所へ来なければ、私が欲しいパーツはなかった…」
「小熊さん…」
「椎ちゃんの淹れてくれたコーヒーも美味しかった。あれもこの時代に来なければ飲めなかった」
「小熊さん…。訂正して。あれはただのコーヒーじゃなくて、cappuccino…!」
「…あなたらしいこだわり。カプチーノね…。」
「違う!! カップッチーノ!! 発音は正確にお願い!!」
「あの…。椎ちゃん…」
「礼子ちゃんは黙ってて!! これは私と小熊さんの問題!!」
「さすがは恵庭椎。実家のお店から始めて、将来、世界的なイタリアン・バール・チェーンのオーナーになる人…」
「え?」
「歴史の教科書に載ってた。鳥取発祥のスナバも、そして、シアトル発祥のあのチェーンもいずれ傘下に収める…」
「あんた、ホントに未来から…」
「…礼子…あなたもいずれ歴史の教科書に載ることになるかも。いえ…きっと載る。だって、礼子から貰ったこのパーツ。これのお陰で、私たちの未来、いいえ。宇宙は滅亡しないで済むから…」
「え? えぇーーーーーーーーっ!?」
(以下略)

すぱか部 最後の七日間

「どうしてチェリーパイなんですか?」
「私が、あなたたちと同じ歳の頃、ハマってたアメリカのドラマがあってね。とても美味しそうなチェリーパイが出て来るお話だったのよ」
「海外のドラマ…ですか」
「ここにお店を開くと決めた時、周りの景色を観たら、そのドラマの舞台になった街を思い出しちゃって…」
「ステキなお話ですね…」
 小熊たちは"ツイン・ピークス"なんて知らない…www

 すぱか部 劇場版 夏色の空、時かけの少女

「わたし、バイクで学校に来たの!」
「…そう云えば、あの時まで礼子なんてコは、この学校にはいなかった…」
「やっと、思い出した? 私も小熊なんて女の子、同級生にはいなかった」
「私は…あの時。…まるで時間と世界が一瞬で凍りついたように思えた」
「実際、凍ったのよ。ひとことで云うなら...とにかく寒い!」
「寒いと云った人から、急に罰金を取りたくなった」
「でも、そのお陰で、私たちの世界はこの時間軸へ辿り着けた…」
「ごめん。ちょっと何を云ってるのか、判らない…」
「そうよね…。あんたはコロナ・ウィルスって知ってる?」
「知らない…」
「じゃあ、今年の夏に東京でオリンピックが開催される予定だったって知ってる?」
「え?それは去年の話し…」
「今は平成じゃなくて、令和。知ってた…?」
「そう云えば…。あれ? でも今は令和…3年…って、私、知ってる」
「そうよ。あなたがあの時、カブを買ったから…。そして、それを教室でみんなに宣言したからこそ。私たちがいた時代は、コロナも東京五輪も知らないまま、でも鈴鹿の八耐は中止にならず、県をまたいでの往来も自由な…。そんな静かで平穏な令和3年の夏を迎えられたのよ。」
「もし、買ってなかったら?」
「令和3年は…。いいえ、私たちの世界は、今年の秋へは辿り着けずに終わってたでしょうね。修学旅行も文化祭も中止…なんて、学校行事クラスでは済まないレベルでね。驚いたわ、こっちでは誰もマスクなんてしてないのね」
「私が…カブを買ったから…」
「正確には、それを教室でみんなに宣言したから、あんたと私の時代の世界線のズレが修復された…」
「…礼子、あなた、文字通り、私とは"違う世界の住人"だったなんて…」
「そう! んんんん〜! 小熊さん!  あんたもやっと判った? それこそがカブが持ってる無限の可能性なのよ!」
「ごめん。やっぱり、礼子のそのノリにはまだちょっと慣れないし、この先、ついていける気もしない…」
「小熊さん? もしもぉし!! 小熊さぁん…!! おーい!! やっほぉー!!...」
(以下略)

すぱか部 小噺 ときそばのおんなのこ

「ごめんね、椎ちゃん。今まで散々っぱら、ただで好き放題に飲み放題で食い放題して…。でも今日のあたしは今までとは違う! ちゃんとお財布、持って来てるの。いつもみたいにアメックスのゴールドカードは使えないの? なんて駄々と理屈は捏ねないわ! 捏ねるならパンだけってコトで。パン屋だけに。」
「礼子、話がそれてるし長い…。」
「そう! そうよね!と! に! か! く! パン代のツケもまとめて、まるっと全部現金でお支払いするわね!」
「礼子ちゃん…やっと心を改める気になったのね。」
「でも、ちょっとお札切らしてて。硬貨でしか持ち合わせがないのよ。で? 全部でおいくらになるのかしら?」
「"気分次第なママのチェリーパイ"と"パパの気まぐれコーヒー"のセットが二人前…あ、小熊さんがさっきお持ち帰り分も注文してたから六人前…。これに礼子ちゃんの朝のパン代を足して…と。はぁい。5,000円ちょうどになりまぁす…。」
「んんんぅ!  オッケー! じゃあ準備はいい?小熊さん! 打ち合わせ通りに、ふたりで数えるわよ!100円、200円、300、400…。あ、小熊さん、今年は何年だったかしら?」
「令和3年…」
「4円、5円…って!  あんた!ちゃんと西暦で…って話しだったでしょ!」「ふ…!」(ここだけCV 大塚明夫)
「ちょっと小熊さぁん????」
「死ねばいいのに…」(ここだけCV 早見沙織)
(ここから先のCV 鈴木愛奈)
「ちょっと椎ちゃんまでぇ! 冗談でもさらっと怖いこと呟かないでよぉぉ…。ちょっとふたりともぉぉぉ。何であたしから目線を逸らすのよぉぉぉぉぉ????」
(以下略)

すぱか部 少女週末お料理講座

「礼子、これは…?」
「ジャガイモ。椎ちゃんのお父さんが、ジャーマンポテトを作るために、スーパーに数量を間違えて注文しちゃって。在庫を余らせたんだって。ってこの数、何をどう間違えれば…。ん? どうしたの? 不思議そうにジャガイモ握りしめて…」
「私が知っているジャガイモとは、だいぶ見た目とかが違う」
「それって、あんたがいた未来の話し?」
「そう。私がいつもメスティンに詰めて持ち歩いてるレーションの原料が…ジャガイモ」
「あのカロリーメイトみたいな奴? へぇ。あれってジャガイモで作るんだ」
「この時代のものは判らない。けど、ジャガイモも私の時代のものと同じ成分なら、あれを作って携帯食糧として保存しておける」
「でも、この量よ。あんたのメスティンで作ってたら、全部のジャガイモを茹で終わる前に、それこそまるっと全部、腐っちゃうわ」
「確かに…。要はメスティンの代用になって、かつ一気に焼ける鉄板とか釜があれば…」
「ふっふっふ…。小熊さん、何か忘れていませんか?」
「椎ちゃん…」
「あ、いたんだ。ごめん。ちっちゃくて気がつかなかったわ…」
「礼子ちゃん、最近、何かひどくありませんか? 先月のツケ、まだ残ってるんですけどぉ?」
「んんんんぅ…。ごめん、ごめん。で? 何を忘れてるって?」
「んもぉ。ツケの話になると、すぐ話題を変えるんだから。まぁ、良いです。それよりもメスティンの代用で、レーションを大量に焼く方法、何とかなると思いますよ」
「あ…」
「えぇ、ウチはイタリアン・バールが本業ですが、何故かパン屋でもあるんです。だから食材を大量に一気に焼ける業務用の石釜があるんですよ。まぁ、本来の用途はピッツァ専用ですけど…」
「どうして…」
「うん…」
「椎ちゃんのお父さんは、どうしてそこに気づかなかったのかしら?」
「所詮は頭がお堅いドイツ野郎ですから」
「どうして…」
「うん…」
「娘と云うのは、どうしてお父さんには厳しいかなぁ?」
「ふ…」(ここだけCV大塚明夫)

「…ちゃん。チイちゃん、どうしたの?」
「あ、ユーリ。いや、何でも…。夢を見ていた」
「あのさ、チイちゃん」
「ん?」
「カブ…もう終わるんだってさ」
「カブってカナザワが乗ってたバイクのコトだろ? 仕方がないよ、アタシたちがカナザワに出会った時には交換出来るパーツはなかった。まぁ、アタシらにイシイの何分のイチかでも機械をイジる腕があれば、ね。イチからパーツを作れたかもしれないけど」
「でもさ…。あのカメラをくれた人…」
「カナザワだよ。いい加減、記憶してやれよ」
「いや、別れ際に云ってたじゃない? カブを直さないとイケない…って」
「そうだよ。だからカナザワは、アタシらと別れて、ダメ元でカブのところへもどって行ったんだ」
「まさか、こんないちばんテッペンの最上階で、カブが必要になるなんてね」
「ま、思わないよね」
「しかもカブと世界が繋がってるなんて」
「アタシに理解不能なモノをユーリが理解出来る訳ないだろ? それこそ…」
「うん。お腹空くだけの無駄な話しなのかも」
「でも、この先に進むためには、この"カブトリヒキ"って奴をやらなきゃいけない」
「いったい何なのさ? カブ式バイバイ!って」
「ん〜。カブを使ってやる別れの挨拶…儀式の一種か何か? 言葉通りに考えるなら、そう云うことになる」
「昔の人たちもめんどーなコトを」
「そうだね。だからめんどーなコトが厭になって、結局、こんなコトに」
「どうする?アタシたちもこの際、滅ぶ? チイちゃんが構わないなら、アタシは別にいつでも滅べるよ」
「でも、滅ぶとご飯食べられなくなるぞ…」
「やめよう!自ら滅びの道を選ぶなんて愚か者のするコトだ!」
「…ま、いいけど。ついでに云っとくと、滅んだら、お腹も空かなくなるだろうから、ご飯の心配もしなくて良いんだよ」
「ち、ち、ち…。判ってないなぁ、チイちゃんは。ご飯はお腹が空くから食べるんじゃあないんだよ」
「じゃあ、何のためさ。食事なんて、カロリー補給以外に他の目的なんてないだろ?」
「いや、そんなの生きてるって云えなくない? 食事は人生を愉しむためにこそあるんだよ、チイちゃん!」
「…何か、最近、誰かにも同じコトを云われたような? いや、そんな莫迦な。アタシたちふたりしかもういないのに…」
「ソンナコトネェ」
「ん?その声は?」
「ヌコだ! 今、ヌコの声が聴こえたよ!チイちゃん!」
「うん、アタシにも聴こえた。ユーリ、実はアタシに隠れて、また何か機械か何かを拾い食いでもした?」
「アタシをヌコと一緒にしないでよ。まぁ、あの何でも食べれるのは、ちょっと羨ましかったけど…」
「ハナシガナゲェ! トットトモトノセカイヘモドリヤガレ!」

「…話しが長いのは、礼子、あなたでしょ?」
「あ、起きた」
「あれ? 私いつの間に…」
「ここのところ、昼夜交代しながら、ひたすら釜の番でしたからからね。疲れてたんですよ、きっと」
「…出来たわよ、あんたのいた時代のレーション」
「どうぞ。試食してみてください」
「え…。ふたりともずっと私が起きるのを待っていたの?」
「そりゃあ、未来のレーションの味の違いなんて、あんたにしか判らないでしょ?」
「さ、小熊さん! どうぞ。食べてみてください」
「ん…」
「どうですか?」
「あれ? あんた泣いてるの?」
「どうしてかな? この時代の食べ物の方が、ずっとずっと色んな種類や味があって、ずっとずっと美味しいのに…。何だろ? 何でこんな固めて味付けして焼いただけのデンプンが、こんなに…」
「大切な人との思い出の味だからじゃないの?」
「うん…。そう…そうかも。ユーリ…待ってるだろうな」
「小熊さん…」
「私たちの時代には、文字も殆ど喪われかけていてね。読める人は限られていた」
「ユーリは…。ずっと私とふたりで旅をしていたユーリは…。教えても教えても…全然、読めなくて」
「…」
「初めて会った時、私の名前は、"ちいさなくま"と書いてこぐまと読むんだと云ったら…じゃあメンドーだから、チイちゃんね…って」
「まぁ、あんたの苗字の方は、私たちの時代でもお手上げなくらいに難読漢字だけどね」

「レーション…。ユーリのお土産に持って帰れるかな?いっぱい持って帰らないとユーリの奴、一気に食べちゃうからな…。ふふ…」

すぱか部 イジりなさいよ、小熊さん


「礼子は…。少しウザい…」
「そっ! そう云うリアクションよ! まさに! 私が求めていたモノは! んんんぅ…くぅっ!! やっぱ、あんたはサイコーの相方だわ!」
「相方って…。礼子ちゃん…」
「椎ちゃんも、彼女よりも私との付き合いは長いんだから、もっとツッコミやイジりを、小熊さんから学ぶべき!」
「うわぁぁぁぁ…」
「椎ちゃん…。この世界では、彼女みたいなタイプを何て呼んでるの?」
「…えぇぇぇっ??? ん〜っと。残念な美人さん?」
「あぁ…。判る。確かにそんな感じ」
「相手にギャップ萌えを匂わせながら、結局、初手から失敗するダメダメなキャラの典型とか…」
「んんんんぅぅ…くっ! わ、判って来たわね!椎ちゃんも! そ! それよ! それが私が欲しい台詞っ!!」
「この欲しがりさん…殺意です」(ここだけCV 早見沙織)
「かぁぁぁぁぁっ!! 堪んない! 如何にもな清楚美少女キャラの椎ちゃんが、私への憐れみと蔑すみを込めて本気で毒づく程と、その冷ややかでイラつきながら、小柄な身長なのに敢えての上から目線が眩しいわぁっ!」
「あ、小熊さん。あの…この後、お時間があるようなら、今度、お店で出す新作パスタの試食をお願いしたいんですけど…」
「判った…。じゃあ、一緒にお店まで行こう…」
「あ、なに? なに? なに? ちょっ! ちょっと! ちょっとぉ! 私はこのまま、駐輪場にほったらかしなのぉぉぉぉぉ? あ、これがいわゆるところの放置プ…」
(以下略)

すぱか部 真・蟲破蕪羅伝説

「ちゅーぱーかぶ…?」
「違う…。チュパカブラ。主に南米に多く生息する未確認生物の一種」
「それと"こうふのみせ"まで出張って来たことに何の関係が…」
「…それは」
「あ、ども。もとす高校図書委員会特殊工作部の志摩です」
「今回は、非公式ながら、もとす町営野外戦線との共同作戦って話しになってね」
「なるほど…それで"こうふのみせ"…」
「そう。我が県を南北に分ける軍事境界線上の中立緩衝地帯にあるこのお店なら、北のカブ、南のビーノが並んで停まっていてもおかしくはない。そう云うことでしょ?」
「それとさっきのチュパカブラは? どんな…」
「それは私から…」
「志摩さんは、そのチュパカブラの数少ない目撃者でもあるのよ」
「ウチは確かに見たんや! あれはジュラ紀の生物やでぇ!」
「あ、意外と志摩さんってノリが良いのね。そう云う人、嫌いじゃないわ」
「礼子、全然説明になってない。もう少し、一般人にも判るように説明して」
「うみなしでは未来人を一般人とは云わないの。知ってた?」
「え? 未来から来られた方なんですか? 初めて見ました」
「志摩さん、その件はちょっと脇に置いて。話しがちっとも前に進まないから」
「そう…ですね。私もこの扱いには慣れてないので…ちょっと」
「ではでは。正真正銘の一般人の私から…」
「…あなたは?」
「もとす高校帰宅部部長の斎藤です。よろしく。」
「…図書委員会とか帰宅部とか…野クル…でしたっけ。野外戦線の主力は来ないんですか?」
「野に遊び、野に狂いしツワモノ。それが野クル。野クルが来ると事態は拡大こそすれ、収拾はあり得ない。だから私が代わりに来た」
「志摩さんと小熊さん、結構、気が合いそう」
「最初に非公式な作戦だと云った筈よ。正式なメンバーが表立って動ける訳ないじゃない」
「えぇっと、取り敢えず、斎藤さんの説明を」
「あ。さすがは椎ちゃん。北の一般人代表としては良いツッコミだわ」
「だから、礼子ちゃんがいちいち口を挟むから、話しが前に進まないんじゃないですか」
「礼子は話しが長いし、すぐ脱線する」
「あはは。いますよね。そう云うヒト。まぁ、これだから北のヒトは…」
「もう。斎藤さんも煽らないでください。ここを何処だと思ってるんですか? 県教育委員会の調停委員に睨まれますよ?」
「それもそうですね。ではサクッと説明しちゃいますね。実は最近、県内のキャンプ場でチュパカブラらしき未確認生物の目撃例が増えているんです」
「初めに目撃されたのが我が県が世界に誇るフジ七湖周辺。その七湖のひとつ、シビレ湖の湖畔での目撃者が…」
「あ、私です」
「あの…。ちょっと良いですか? 湖の数は五つでは? いつの間に増えたんですか?」
「ダメよ。椎ちゃん。南の見栄っ張りは何でも水増ししたがるものなのよ。湖だけに水増し…。プ! あは!あははは…!」
「斎藤さん…志摩さん…本当にごめんなさい。礼子は北とか南とか関係なく…こう云うキャラ」
「えっと、礼子ちゃんは私たちとは違う世界の人なんで、気にしないでください」
「あぁ。いますよね。そう云う困ったひと。うん、うん。判る、判るなぁ」
「ウチにも居るな、困ったひと」
「ホラ吹きもいるし…」
「ま、とにかく。そのチュパカブラの目撃地点がこーしゅーかいどーに沿って、徐々に北上して来てるのよ。それで私たちの出番ってワケ」
「礼子が…」
「礼子ちゃんが…」
「話しを元に戻した…」
「あり得ない!あなた、本当に礼子ちゃんですか?」
「あのね、椎ちゃん…」
「私は…それでも構わない…。話しが前に進むのなら…今はそれが最優先」
「ちょっとあんたも随分なモノ云いをするわね」
「小熊さん、やっぱり何かおかしいですよ? 礼子ちゃんが私たちのイジりにこんな返しをするなんて…」
「あの…本っ当に話しがちっとも前に進まないんで。その案件は、伏線ってことにして、むかわへ持ち帰って貰ってからの流れで…」
「それは確かに…。この件はこちらの問題。今はチュパカブラの件を先に…」
「ひとつ質問があるんですが…」
「どうぞ、志摩さん」
「そちらは…そのすぱか部…でしたか? どうしてあなた達が来られたんですか?」
「そう云えば…」
「聴かされてないですね? 偽礼子ちゃんからは…」
「偽礼子…。説明を」
「いちいち偽を付けない! でも確かにそうね…。私も依頼して来た教育委員会からは特に聴いていないわ…。う〜ん、何となく…語感が似てたから…かしら?」
「それは私から!!」
「あなたは…こうふ一高の…」
「文学部顧問とは仮の姿…。礼子とわたしは普通の人間じゃない」
「まぁ…確かに…。文化祭の準備で荷物を受け取りに行った時…何か…お互いに通じ合ってる風なのは…感じていた」
「そう…私と礼子は困らせて欲しい側にいる人間。でもそれは今回の件とは何も関係はない」
「何となく…普通じゃないのは…判る」
「今回の登場の仕方もいきなりでしたしね」
「前振りも何もなかった」
「そうじゃない」
「…続けるんですか? これ…」
「えぇ? これはこれで面白そうじゃない?」
「斎藤が食いついた」
「意外とガンガン行こうぜぇな方なんですか? 斎藤さんって」
「お陰でいつもエラい目に遭わされる。この前なんて犬500匹を放たれて…私はいちど死んじまったコトが遭って…」
「あ、その話の方を詳しく…」
「…文字通り純粋な意味で、彼女と私はあなたのような大多数の人間と同じとは云えない」
「こっちもこっちで続いてた…」
「おぉ…先生も案外と頑張るねぇ」
「この県を統括する情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス、それが、わたし」
「…」
「わたしの仕事は礼子を観察して、入手した情報を県の統合思念体に報告すること」
「あ」
「生み出されてから3年間。わたしはずっとそうやって過ごして来た。この3年間は特別な不確定要素がなく、至って平穏。でも、最近になって無視出来ないイレギュラー因子が礼子の周囲に現れた」
「…これって…もしかして…」
「それが、小熊さん。あなた」
「ふむふむ。北の方って何かメンドくさいコトになっていたんだねぇ」
「もとすは平和だったんだな」
「それは違う。今回のチャパカブラ騒動は南にいるイレギュラー因子の影響…」
「南の…イレギュラー…?」
「転校生がひとりいた筈。彼女の出現によって、あなたたち、もとす高校の生徒たちは色々なことに巻き込まれ始めた」
「あ…」
「たかだか値段が知れているカレー麺に分割とは云え、云われるままに非常識な金額を支払おうとしたり…あれは彼女がこの県の状況を把握出来ていなかった確かな証拠…。不自然」
「まぁ、確かになんぶ町からあのキャンプ場まで自転車で…と云う時点で、不自然とは思ったけど、あり得ないって程の話でもないし」
「あぁ、私、判っちゃったかも」
「え? 斎藤さん…スゴい…」
「未来人の小熊さん、異世界人の礼子ちゃん、そしてもとす高校には謎の転校生…。で、目の前にいるのは、文芸部もとい文学部のたったひとりの顧問にしてヒューマノイド・コンピューターを名乗る"中の人"」
「いや、それはどうなのかしら? …文化系の部活の顧問は大抵ひとりなんじゃ?」
「確かに…。野クルの顧問も鳥羽先生が専任になってからは、大町先生は登山部だけを受け持っている」
「野クルって文化部系なの? ジャージ着てうろついてるから、てっきり体育会系かと」
「彼女…。鳥羽美波は志摩リン。あなたを観察するために送り込まれた特別なヒューマノイド・インターフェイス」
「私を…監視?」
「違う…。監視ではなく観察。言葉の意味と捉え方を間違えないで」
「さすがは文学部顧問。言葉にはうるさい」
「礼子…。この超信地旋回な超展開で、そこに反応するかな? 普通…」
「でもちょっと安心しました。礼子ちゃんはどんなに普通に見えていても、やっぱり、いつも通りの変な礼子ちゃんなんですね」
「椎ちゃん、あのねぇ…」
「ふ…」(ここだけCV 大塚明夫)
「あれ? 今、お爺ちゃんの笑い声が聴こえたような???」
「やめなよ、リン。これ以上の新キャラ投入は、ストーリーの破綻を招くだけだよぉ」
「あのぉ…」
「でも確かにお爺ちゃんがここに居たような…」
「あのぉ…!それで結局、チュパカブラの件は???」
「あぁ、流れ的には美味しいお酒を求めて、県内の酒屋を巡っている鳥羽先生が正体ってコトでケリね」
「確かに…。それで私は異存はない」
「よしっ! 問題解決! じゃあ一時休戦協定もココ迄ってコトで」
「次に遭う時は戦場ですね」
「手加減はしない」
「ねぇ。お腹すいちゃったぁ…。この辺で何か食べて帰らない」
「あぁ、こうふの美味しいラーメン屋さんがあるんですよぉ」
「お? 斎藤さん、判ってるぅ!」
「でしょう?」
「いやあ、それでただの一般人とは勿体ない。どう? これを機に役まわりを変えてみるとか」
「やめておいた方がよいですよ。礼子ちゃんの口車に乗ると、きっと大変な目に」
「確かに…」
「まぁ、帰宅部はなかなかまだ辞められそうにないんで…。当分は一般人枠ってコトに」
「はい!先生!奢ってよ!」
「えぇ? あんまり人を困らせるモンじゃないわよ」
「あ、"中の人"が通常運転に戻った」
「またまた…困りたい側の癖にぃ」
「まぁ、イジるよりはイジられキャラの方がね…。おいしいし…」
「ですよねぇ…。あの身悶えしちゃうようなゾクゾクな感覚をいちど味わっちゃうとねぇ」
「礼子も通常運転に戻ったみたい」
「結局、今回のお話しはどう云う?」
「あはは、良いじゃない。私もあなたもただの一般人なんだから…。知らない方が幸せなコトってあると思うのよ、私は」
「そう…。そうですね。でも…私も一般人以外のキャラ枠…だったら良いのに…」
「…こうふ…。本当かね?」
「え? こうふ? だ、誰ですか?」
「貴官は、本当にそう思っているのかね?と訊いているのだ。 ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ少尉…。いや、今は昇進して中尉だったか…。そしておめでとう。セレブリャコーフ中尉。今回、貴官の活躍に報いるべく、帝国はここに誉高き銀翼突撃章を授与することに決した。貴官の上官である小官も実に嬉しい。ただ、申し訳ないが、この勲章に因むネームドとしての二つ名は、既に小官が貰い受けている。まぁ、貴官が構わないと云うのであれば、"白銀"の二つ名。"ラインの悪魔"なる不愉快な悪名込みで、今なら特別に美味い珈琲を一杯で、譲ってやらんでもないぞ…」
「いえ! 小官にはあまりにも不遜な二つ名かと…。あれ? は? ネームド? 小官が…でありますか…?」
「相応の働きに報いる…とは云っても、たかだか名前がついて回るだけだがな。腹の足しにも…。いや、ただ飯とただ酒に預かる機会が増えるには増えるか…。まぁ、だが、改めて、おめでとうと云っておこう。セレブリャコーフ中尉。いや、"水色の髪の乙女"!」
「は! ありがとうございま…す。でも、何かこう…。あまり強そうな二つ名じゃないですね? はは…へへ…」
「はん! 参謀本部の誰かが"気が利いた二つ名"だと思ったんだろう。ま、私の時のように、前線から後方まであまねく、あちらこちら連れ回されるぞ?  覚悟しておきたまえ、"水色の髪の乙女"くん…」
「あぁ、意地が悪い笑顔にならないでくださいよぉ、デグレチャフ中佐どの。こう見えて私は小心者なんですからぁ」

すぱか部 此処よりも遠い場所

「そう云えば、あんたが未来へ帰るって云ってから、だいぶ経つけど…」
「…」
「一向に帰る気配がないのはどうして? ははぁん。ひょっとして、もしかして、私と別れがたくなったのかしら?」
「それだけは…ない」
「はぁぁぁぁん!! 小熊さんステキよぉ!!」
「そうですよ、小熊さん。こんなポンコツな礼子ちゃんはほっといて、元の時代へ戻らないと。ユーリさんも…待ってますよ、きっと」
「あら? 椎ちゃん。おかえり…。そう云えば、今回はてっきり、椎ちゃんの主人公回かと思ってたわ」
「…おかえり? 何か…ひどく疲れてる顔を…している」
「あぅう。ただいまです」
「ちょっと大丈夫なの? まぁ、でも無事に戻って来てよかったわ」
「ちっとも良くないですぅ…。でも…礼子ちゃんの云う通り。無事に戻って来られてよかったです」
「たいしたことなくてよかったわね」
「だから! 良くなかった! と! 云ってる! じゃあ! ない! です! かっ!」
「あまり感情のままに動くと、礼子みたいにダメ人間になる。ここは冷静さを取り戻すべき」
「うへ。あんたたち、私の扱いがどんどん雑になってる気がするんですけどぉ!」
「気のせいじゃない。それは礼子が云う通り。経験を積んだお陰で、そうするように心掛けるようになった」
「はぅ!!」
「…椎ちゃん、何か…あった?」
「…いえ、今はちょっと。命のやり取りと云うか、あやとりと云うか、ちょっと死線を掻い潜りすぎた…と云うか、本物の地雷とかも踏みまくりでしたし…。あぁ!!!大隊長どのっ!!!やめてください!!!!!」
「ふぅん。それは大変だったわねぇ」
「あぁぁ、礼子ちゃん、全然、大変そうに思ってないでしょう!?」
「そんなことはないわよ」
「どうして私の目を見ないで話すんですか?どうして棒読みで話すんですか?  いったい私がどれだけの目に遭ったか…」
「椎ちゃん…。ヒトに話すと楽になることもある。でも、その相手が礼子と云うのは論外。彼女はただの困ったヒト。困ったヒトに話しても、かえって困ったコトしか起きない…」
「こ、小熊さん…」
「そうよぉ。椎ちゃん。私に云えないなら、そこの小熊さんに云ってごらんなさいな。私はそばで黙って聴いてるから」
「そして嘲うんですね」
「え? いや、そ、そんなつもりは…」
「いつもの仕返しとか、そう云うコト考えてるんですか?」
「椎ちゃん、相手にしない方が良い。だって、それが礼子だから。私はもう、それは諦めている」
「さ、さ! 椎ちゃん、もうまるっと全部お話しして、楽になっちゃえばぁ?」
「…やっぱり良いです」
「へ?」
「そう。判った」
「いやいやいや、小熊さん。ここは友だちとして、洗いざらい白状して貰う場面でしょう?」
「礼子…。言葉の選び方を間違えた挙句、自分のホンネを白状している。椎ちゃんへの悪意すら垣間見えた」
「そんな悪意なんて! ホンの茶目っ気程度しか持ち合わせていないわよ!」
「持ってるんだ…。持ってるんですね? 悪意…」
「いや!いやいやいやいや…。そんな椎ちゃんに対してそんな!でも悪気はないのよ?」
「まぁ、そうですよね。礼子ちゃんですモンね。悪意も悪気もない裏も表も計算もない天然度120%。それが礼子ちゃんですもんね」
「椎ちゃん…本当に…大丈夫? 何なら後でウチ来て話す?」
「そう…ですね。実を云えば、あまりにも見て来たことの衝撃が大きすぎて…。自分でも全然、理解が追いついてないと云うか…整理がついていないと云うか。とにかく、一度、自分の中で冷静に考えてみて、それから、お話しを聴いて貰うコトにします」
「判った。椎ちゃんがそれで良いなら。今回はそれで」
「えぇ? つまんなぁい…」
「小熊さん、ちょっと一回、礼子ちゃん、バラしちゃって良いですかぁ? 私、結構、今ならそう云うの自信を持ってヤレると思うんです。何しろ、地獄のようなトコから戻って来たばかりなんで…。いえ、あれは地獄そのものでした。良いですよね? アッチでの経験がコッチでも活かせるかどうかを試す絶好の機会ですよね?」
「そ!そんなに命のやり取りがしたいなら、ちょっと戦線にでも出れば良いじゃないっ? い、今だとコーシューカイドー沿いが旬で人気の最前線スポットだって云うわよぉ?」
「…ふ。あんなの子どものお遊びですよ。ごっこですよ。本当の戦場はあんなモンじゃなかったですよ。所詮はもとすとの戦争なんて内輪のヌルいゲームみたいなモンですよ」
「何か…椎ちゃん、ヤサグレて帰って来た?」
「状況は概ね想像出来た。椎ちゃんの身に起こった件について、今はソッとしておいた方が良い」
「そ、そうね…。私、前の椎ちゃんの方が、す、好きだなぁ…」
「…ふ。戻れないトコ迄、気がつかずに行って、さっき帰って来たばかりなんで。もう無理…ですね」
「椎ちゃん。あまり自分を追い詰めないで。椎ちゃんが見て来たであろうひとたちを…私も自分の時代で…私も…散々見て来た」
「ありがとうございます。小熊さんが云うと言葉の重みの差を感じます」
「ほ…取り敢えず、命拾い出来たみたいね、椎ちゃんも」
「…礼子ちゃん? 言葉の選び方、注意されたばかりですよねぇ。あなたには学習能力と云うモノがないんですかぁ??? お莫迦さん…なんですかぁ?」
「あ!私も!私も椎ちゃんにバラされなくて本当によかった! 本当に本当よ!」
「椎ちゃん。私たちの時代には"旧ソ、ホゾを噛む"…と云う諺がある。今日はそれくらいで。礼子も莫迦ではない。ただ、考えなしなだけ」
「そ!そうよぉ!椎ちゃん!それに今は…今は…。あ! そうよ!小熊さん、あんた。自分の時代にどうして戻らないのよ? あ、別に帰って欲しくて云ってる訳じゃないんだからね。むしろ、ずっと居て欲しいくらいだし…」
「礼子…。そのキャラはウザい…」
「んんんぅ!!!」
「それももう良い。ずっと思ってたけど…字面だけで見ると…かなりアブない性癖のヒトにしかみえない。多分…それは誰も企図してないし…勘違いしたヒトからお叱りの言葉を頂戴する可能性すらある」
「じゃあ、とにかく一旦、話しを元に戻しましょうよ、ね? 礼子ちゃん?」
「アブないって…アブノーマルじゃないの略? プッ!クックッ…。お腹痛い。ツボる。」
「礼子ちゃん?自分の世界に浸ってるトコロ、大変、恐縮なんですけど…。あなたも早く帰って来ないと…。ね?」
「戻ったぁ! ハイ! 今、戻った! 帰った! ただ今ぁ、椎ちゃん!!」
「おかえりなさい、礼子ちゃん。…さ。小熊さん、どうぞ」
「今…椎ちゃんは何かのレベルがあがった…。そんな気がする…」
「へ? 帰れなくなった? 元の時代に?」
「…何かトラブルでも遭ったんですか?」
「うまく説明出来るかどうか…私にも判らない。けれど…。」
「帰る手段はあるのに道が判らない…と? なるほど。判ったような、判らないような? 椎ちゃんはどう思う?」
「え? 礼子ちゃん、この話を私に振るんですか?」
「いや…。今回に限れば…。礼子の理解が…もっとも近いと…思う」
「ふふん?」
「頭に乗りました? 礼子ちゃん、今、頭に乗ってます?」
「降りたぁ! ハイ! 今、降りた!戻った! やだなぁ、椎ちゃん!!」
「ホント、一遍、本気でシバかれたいんですか?」
「そ! そう云う命懸けなイジられ方は、私の趣味ぢゃないって云うか…。ちょぉぉっと、私の身が持たないかなぁ? …なんて!ごめんなさい。本当にごめんなさい!」
「それで? 小熊さん、手段は判ってるんですね」
「…うぅぅ」
「あら?珍しい展開…。あんたがモジモジするなんていつ以来よ」
「これを云うと、礼子が調子にノリそう…。いや、絶対に調子に乗る…。確実に乗る。それが判っていたからこそ、今までずっと黙っていたのに…」
「なに、なに? これはどう考えてもあれね。礼子…。なぁに? 小熊さん…。私はもう礼子のいない未来になんて帰りたくない。まぁ!あんた、今…なんて!」
「れぇいぃこ!ちゃああああん…」
「嘘! 大丈夫! 絶対、調子に乗らないから! ホント! ホント!ホントだってばぁ!椎ちゃん! 椎さまぁ! 取り敢えず、その握りしめたアイスピックは、一旦!テーブルの上に置こ!? ねっ!?」
「だそうです。小熊さん。大丈夫です。もしも…の時は、私がキチンとイチから仕込み直しますから」
「だからぁ!椎ちゃん! アイスピックを弄びながら云うセリフぢゃないってばぁ! そんなの、いくら私でも望んではいないからっ!!」
「…未来へ帰る方法は、昔からひとつしかない。それは来た道を戻れば良い。ただそれだけ…」
「へ? なんなの? その純文学系のシンプルな未来への帰り方? そんなんで本当に帰れるモノなの?」
「帰れる…。それに今は…」
「今は?」
「…あぅ…今の私にはカブがある…」
「パ!パパラ…!!!パァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!」
「んん…コホン…」
「ハッ!!!!し、椎ちゃん…か、風邪でもひいたぁぁぁ? なんて…」
「え? カブで帰れるんですか? え? 未来に?」
「そもそも…私がこの時代に来たのは…」
「カブの部品を手に入れるため」
「そう。そして、それは礼子から貰った。だからあとはカブに乗って走り出すだけ…だった」
「??」
「…だった?」
「実は今、私が帰ろうとしていた道は、来た道ではなかった」
「…何か、急に哲学方向へシフトし出した????」
「そう云うことじゃない…。本当にたったそれだけの…礼子の言葉を借りるなら…これがいちばんシンプルな未来への正しい帰り方」
「でも帰れなくなった?」
「えっと、ごめん。さっきのあんたの発言、訂正して…。小熊さん、あんたの云ってる意味、判んなくなった…」
「まさか…礼子にその返しをされる日が来るとは…」
「ふふん?」
「あ、椎ちゃん…大丈夫。私は怒ってないから。取り敢えず…大丈夫。アイスピックは…まだ要らない…多分」
「本当ですか? 小熊さん。必要な時はいつでも云ってくださいね」
「ありがとう。とにかく…今は説明の先を…続ける」
「小熊さんの回はサクサク進むから楽だわぁ」
「いつもややこしくしている張本人は黙っててっ…!!」
「は…はい…」
「来た道を辿って帰る。それは物理的だろうと何だろうとあらゆる場合で使える一番のやり方。近道とかそんなコトを考えると後で必ず痛い目をみる。多少の迂回路でも安全な道を走るのがベスト」
「…ですってよ? 椎ちゃん」
「こ!ここで反撃はズルいですよ? 礼子ちゃん…」
「ごめん…椎ちゃん。私に他意はない。でも帰ろうとしたら…来た道が跡形もなく…消えていた」
「消えた? それってどう云う…????」
「そのままの意味…。私が持って来た未来の地図からも帰り道が消えていた」
「ますます拗らせ系のブンガク臭漂う的な…」
「礼子、それは違う。難しく考えて、自分なりの解釈をしようとするから、難しい話になってしまうだけ…。ただ、それだけのこと」
「椎ちゃん、ちょっとこうふ一高に電話して。あのヒューマン何ちゃらなブンガク・チャチャチャな先生を連れて来た方が話し早くない?」
「いや…あの人もシンプルに考えてはいそうだけど…私たちとは…もっと根本的なところで…ものごとの出発点が違う気がする」
「それで…どうするんですか?」
「まだ…判らない。どうすれば良いのか?」
「あのさぁ…。その話し。あんた風に云うなら、もっとシンプルに整理してみたら?」
「礼子…ちゃん?」
「もっと単純に考えれば? 道は消えたんじゃないのよ」
「???」
「んんん…。どう云えば判って貰えるかしら???」
「…礼子の思った通りに…」
「じゃあ、お言葉に甘えて。あのね、現実の道路にだって、脇道、廻り道、迷い道、そりゃあ色々な道がある訳よ…」
「何処かで聴いたことがあるような…???」
「それに冬期通行止めなんてモノまである…」
「ど、どうしちゃったんですか? 礼子ちゃん? 似合いませんよ?そう云う意味ありげなことを云うキャラ」
「ま、ま…。ここはお褒めの言葉だと受け流してあげるわ。あのね。つまり、道は消えたんじゃない」
「まさかの通行止め?」
「もしくは工事中。通行止めの理由だってさまざまよ。なら調べる方法もきっとある…」
「私たちの未来には、こう云う時に使う慣用句がある。礼子、”味の素でも舐めた?"… この時代に来る迄、味の素が何なのか知らなかったけど…」
「旨味成分を舐めたって頭は良くはならない。ちゃんと未来のひとたちにも伝えてね…。でもちょっと私的にはツボ。あんたなりの冗談が聴けたから」
「うぅぅ…今日は、これくらいで勘弁して…」
「ふ…ふふん。そうね。なら、これくらいで勘弁してあげるわ」
「え? え? 今の礼子ちゃんの説明で、小熊さんには判ったんですか? 未来へ帰る道…」
「それはムリ。うぅん…。そうじゃない…。開かない通行止めの期間はない…。今日は、そのコトに気がつけただけでよしと…」
「あぁ、でも。この辺だと廃道も多いのよねぇ」
「あぁ…うぅ…そう云えば…そうだ…」
「礼子ちゃん…。そのせっかくの良い話し程な流れを…」
「…うん。台無しにする残念な困ったヒト。それが…」
(以下略)

すぱか部 最終章 第一節 ガールズ & タンシャー GIRLS und TANSHIR


「あのぉ。皆さんは来年の選択履修は、どうされるんですか?」
「あぁ、そう云えば、もうそんな時期だった。そうねぇ。むしろ、高校生活もあと1年かぁ…とそっちばっかり考えてたから。今のところ、ノープラン」
「え? 礼子ちゃんがノープランって…。 まるで他のコトにはプランがあるとでも云いたげに聴こえるのは私の気のせいですか?」
「礼子は全てにおいてノープラン。人生行き当たりばったり…。それが礼子だから」
「んもぉ…。ちょっとやめてよぉ。照れるじゃない?」
「…誰も褒めてないんですけど。春が近づくにつれ、頭に虫でも湧いて来てるんですか?」
「…啓蟄。二十四気の一つ。陽暦の3月5日前後。と云うか、今年は3月5日が啓蟄…。冬籠りの虫が這い出るという意を示すことから、春の季語でもある」
「どうしたの? 藪からステーキに? 辞書なんて取り出して???」
「ステーキではなく、スティック。あと…これは辞書ではなく、歳時記…。今日、図書室で借りて来た」
「うへ。似合わない…とは云わないけど、あんまり読書しているあんたはイメージ出来ないわぁ」
「…そう云えば、礼子ちゃんは休み時間やウチのお店でひとりの時は、ずっと本を読んでますよね…。今となっては、そっちのイメージこそ似合わないですよ、と! 私も云い切れるようになりました」
「私も毒を吐かない椎ちゃんがだんだんとイメージ出来なくなって来てるんですけどぉ…。まぁ、私としては望むところではあるんだけど…。へへ…」
「…死ねば良いのに」(ここだけCV 早見沙織)
「はぅん!きゅん!って来ちゃうわねぇ! そのフレーズ!」
「莫迦じゃないですか? 莫迦じゃないですか? 莫迦じゃないですか? 大事なことなので、3回云いましたから!ねっ?!」(ここもCV 早見沙織)
「…あはは…」
「だ! か! らっ!どうしてこの流れで照れてるんですか? 全く!! 全然、褒めてないんですけど?! 」
「…んんん?? 慣れ…かしらね? 慣性の法則的な?」
「礼子の場合…。慣性ではなく惰性の法則。それと慣れと慣性は全くニュアンスが違う。礼子が獲得したのは、この場合は、むしろ…耐性。椎ちゃん…。礼子は、いつか、私たちの手に負えなくなる日が来る…。きっとそうなる…。だから、その前に、何とかした方が良い」
「ホント、何でこの人が学年の総合成績、全校人気総合ランクの年間ダントツでトップなんですかね?」
「…みんな見た目に騙されている。そう云う意味では、礼子は"天然擬態"と云うスキルも持っている」
「あら? 人気ランクと云う点では、椎ちゃんも常に上位にいるじゃない?」
「…あ、何の話をしていたんですっけ?」
「…都合が悪くなると、すぐに話題を変えるぅ…。それはそれで萌えよねぇ」
「いえ。礼子ちゃん、その件は、本当にもうその辺で…」
「んんんぅ??? あぁぁぁっ! 椎ちゃん!顔、真っ赤っ!! さてはぁ? またまた、男子から手紙を貰っ…」
「本っ当に、もう話題を戻して欲しいんですけどぉ???」
「…そうね。最近、このパターンにも飽きて来たわねぇ…。で? いったい何の話だったっけ?」
「…啓蟄が近くなって来て、礼子の頭に虫が湧きつつあると…」
「…あぁ、小熊さん。それも違います…。さすがにボケが2人だと私だけではちょっと対応出来ません」
「…少しだけ、パターンを変えてみた。その結果、椎ちゃんに負担を強いるコトになるのであれば、これは不採用」
「…し、椎ちゃんに負担をし、椎…ぷ!」
「礼子ちゃんの変なスイッチが入りっぱなしになる前に、とにかく話題を戻して良いですか?」
「…しいちゃんにふたんをしいる…。しい…ぷぷ!」
「変なスイッチが入るどころか、ついに壊れ始めた…。礼子はもうダメかも知れない」
「小熊さん、礼子ちゃんのことは、もうほっときましょう…」
「ほ! ホットケーキ…の顔もサンドイッチ…」
「あ…」
「…完全に壊れた。これは、もう修理は厳しい。シノさんのとこへ持って行って、一度バラして、オーバーホールしないと…」
「しゅうりしゅらば…しゅり…りしゅう…あ、そうよ。そもそも、椎ちゃんが来年の選択履修の話をし出したから、こうなったんじゃないぃ?」
「…直った」
「…あぁ、もう…。どさくさに紛れて、私のせいにしないでくださいっ」
「…いや、椎ちゃん。これは好機…。礼子がまた壊れる前に早く…」
「は!…そうか。そう!そうですよね! 礼子ちゃんの云う通り! それで…礼子ちゃんは今年の履修科目は何を選択してたっけ?」
「…華道だけど?」
「わぁぁい。華道選択した男子が、やたら多かったのは、これが理由だったんだ」
「…礼子の場合、そこに何の計算も入っていない。だから…逆にメンドー」
「…ですよねぇ。しかも、礼子ちゃんは、恋愛方面には何の興味もないと来てますからねぇ。みんな可哀想に」
「…私も…興味がない分野ではある。それよりも今はこっち…」
「あぁ、歳時記…。そこに話題戻します? これ、伏線か何かになる予定でも?」
「…まだ、判らない。でも、私のいた世界は、ずっと冬だった。だからこそ、こちらにいる間に、季節のことを知りたくなったのは…事実」
「それで、花見の話にも乗ったって訳ね」
「…今年の書道は…もう修得した。来年は…華じゃない方の歌道を選択しようと…思っていた」
「あ、割と、すぐに繋がりましたね」
「…でも、短歌や和歌を詠んでいるあんた、ちょっと想像出来ないわぁ」
「え? そうですか? 私は小熊さん、なんかそう云う雰囲気醸してる、と思いますけど」
「今度のツーリングの時にも…行く先々で歌を詠む…つもり」
「それで、熱心に歳時記を借りて読んでいたと…」
「元々、本は好き。この学校で、初めて図書室へ行った時には、軽く目眩すら覚えた」
「でも、小熊さんが、読書していた印象は、あまりなかったですね?」
「それは、最優先での目的があったから。礼子からパーツを貰ってからは、時間がある時は、実は図書室へ行ってた」
「で? そもそも、椎ちゃんは何を選択するつもりだったの?」
「あぁ、そのことなんですど。実はウチの学校で、来年から単車道が復活するらしくて…」
「…単車…道…」
「小熊さぁん…。久々に、ムズムズしてるみたいだから、云っとくけど、違うからねぇ。単車道は、別にバイク専用道を探索する科目じゃないからねぇ…」
「え? 礼子に指摘されてしまった…。これは…ちょっと…いや、人としてかなり恥ずかしい」
「…小熊さんらしくない初歩的なミスです」
「…恥ずかしいと云いつつ、ヒトを辱めるのもヤメてよねぇ」
「礼子ちゃん、直ったどころか、まさかアップグレードまで済んでたんですか?」
「あぅ…。実は今度のツーリングは、帰り道も探せる旅になるんじゃないかと…ふと。以来、ずっと”道”について調べてもいた…」
「…で、歌道方面から歳時記に寄り道してたと…」
「ううう…」
「それで? 椎ちゃんが単車道の話題を持ち出したのは? どうしてなの?」
「…初めて、礼子ちゃんがマトモな人に見えますが、そこは錯覚でも誤解でも何でも良いんで…。先に行きます」
「…あたしとしては、何か釈然としないものを感じるけど、まぁ、良いわ…。聞かせて」
「あ、はい。実は私、この学校には単車道はないって聴いて。それで入学を決めたんですよ」
「ま、単車道は、戦車と並ぶ乙女の嗜みって印象の方が、世間的には強いものね」
「えぇ…。もともと、中学までは幼稚園からずっとミッション系の女子校だったんで、余計に…」
「あぁ、女子校は、高校生になったら、単車か戦車よね。確かに…。どこだったの?」
「さいのたまのアンツィオです」
「あぁ、それでイタリア。でもアンツィオは大学までエスカレーター式だったわよね? それを蹴ってまでウチの学校に? わざわざ? 単車道がないからって云う理由で?」
「あぁ、正確には違うんです。ご存知の通り、中学の時に、両親がこっちでお店を開くことになって。それで良い機会だからと、私も一緒について来たんです」
「…良い機会?」
「えぇ。実は、私には、2歳下の妹がいるんですけど。このコが、その何と云うか…」
「それは初耳。椎ちゃんのご両親からも、妹さんの話題は聴いたことはなかったし…」
「えぇ。妹はひとりでアンツィオの学生寮に残ってて。以来、こっちには全然、顔も見せにも来ないんですよ。はぁぁぁ」
「もしかして、妹さんは単車道をやってるの…」
「えぇ…まぁ…。まだ幼稚園の頃から道場通いまでして。道場だと16歳未満でも乗れる専用サーキットとか持ってますし。海外での普及って、最初はドイツなんですよ。なので、妹がハマったのは、まぁ、誰かの影響だとしか…。で、向こう独自の流派、つまりゲルマン流モトラ道が生まれて、それが欧州全土へ広がったと云う経緯があって。海外では単車の道はモトラから…って云うくらいに」
「…椎ちゃんが、そんなに単車道について、詳しかったなんて…。ちょっと意外…」
「…好きで詳しくなった訳じゃないんです。だから、自分の中では、ずっと封印してた…と云うか…」
「いわゆる、椎ちゃんの黒歴史と云う奴ね」
「はぁぁぁぁ、妹に殺意です」
「あはは…。ま、それはそれとして…。あぁ、妹さんはモトラなのね。ところで…。…ちょっと小熊さん、あんた、さっきから全然、会話に参加してないけど?歳時記ばっか読み耽ってないで。椎ちゃんの相談にも乗ってあげなさいよ?」
「…今の礼子になら、任せておいても大丈夫そうと判断した。だが、確かに…。つい…前のめりすぎた。あう…。だから…ずっと本は封印してたのに…。今日の私は、普段の礼子以上にポンコツで…申し訳ない」
「まぁ、ポンコツでもトンコツでワンパクでも良いから、たくましくなりなさいよ? さ、椎ちゃん…」
「あ????? え????? あ、はい。とにかく、この学校で単車道が復活すると…。いいえ、すでにお気づきとは思いますけど…。敢えてのモトラ道なんです。とにかく、モトラ道が選択履修科目になるらしい…と云う話しで…。 何か、その辺は、妹と同じドイツ野郎の父の影がチラついて、しょうがないんですが。でも!それだと恵庭家最凶最悪のリーサル・ウェポンがモトラでここにやって来るに決まってるんです!!!!」
「ああ、それは、どう考えたって、あれね。チラつくも何も、ひとり向こうに残った同志でもある妹さんを、こっちへ呼び寄せたい一心で、今回の単車道もといモトラ道を履修科目に組み込むように、お父さんが裏だか表だか迄は判らないけど、確実に関わっているのは、間違いないんじゃない」
「困るんです!春休み明け、つまり例の”花見でいっぱい!原付の旅"企画から帰ったら、私、またお店のイタリア領拡張計画を再開しようと思ってたのに! わたしの新年度の目標が…。 妹までこっちに来たら、三すくみ状態で均衡を保っていた、ウチの勢力図が、いえ、ドイツが!! 帝国が!! あぁ、ターニャ・フォン・デグレチャフ大佐どのぉぉぉ!! やめてください!! 連合王国が何をしたって云うんですか!!!! それだけは!!! そのご命令だけは承伏いたしかね!!!  あぁぁ…!!!!」

すぱか部 最終章 第二節 女子高生、原付に出会う。そして旅に出る。

「…やっぱり、なんかちょっとおかしいと思うんですよ」
おかしいのは、最初からでは?
「いえ、そう云うことじゃなくて。前回の途中から、違和感しかない、と云うか…」
「椎ちゃん、それを今更ぁ? ここは、最初から違和感しかない!でしょ?」
「いえいえいえ…。 礼子ちゃんはおかしいと思わないんですか? この前から、私も、おふたりもビミョーにズレてませんか?」
「あぅ。ズレまくりのブレまくりで、ダダ滑りもよいところ…。アラがあったら探したい…」
「ほら、小熊さんも。いくら何でも、おかしいにも程があるでしょう?」
陰謀のにおいがする。
「ふぅん…。私は特に何も…」
「やっぱり! 礼子ちゃんも! 今までなら、こう云う時に、率先して!悪ノリして!脱線して!」
「…随分な云われようねぇ…。ん…。前がどうだったか、そこがどうもボンヤリしてるのは、確かだけど」
「私だって、以前は、こんな喋り方はしてない筈なんですよ。でも、どうだったか?と訊かれると、私も何かこうモヤっとするって云うか」
…はっきりさせておきたいことがある。
「なんですか?」
今回、冒頭からずっと会話に参加しているわたしは誰?
「へ?」
「あ!」
「…」
今、ここには誰と誰と誰がいて、何人で話をしているの?
「私は…礼子?」
「小熊…」
「椎!です!私は恵庭椎ですっ!」
ほら、やっぱり。私は礼子でも小熊でも恵庭椎でもない。じゃあ、誰なの?
「それを私らに訊くかな?」
「…正直…この展開は…全く、想定していなかった事態」
「ま、まさか…今回はホラーなんですか? 一応、以前、チュパカブラの回とかあったじゃないですかぁ? ジャンルが被るの良くないと思うんですよ」
「怖がりだものね、椎ちゃんは」
「確かに…。この前、みんなで礼子のロッジに泊まった時は、礼子の秘蔵DVDの鑑賞を頑なに拒んでいたし」
「ねぇ…。映画史的にも名作シリーズなのよ? ロメロ作品は」
確かに。他の映画は、襲ってくるゾンビの怖さとかエグさを強調したがるが、ロメロの映画では、むしろ生きてる人間の方が…。
「ふふん。誰だか知らないけど。あなた、なかなか判ってるじゃない?」
「今、気が付いたんだけど。私ももうひとつ…良いかな?」
「え? なんですか? 小熊さん…」
「恵庭家最強のリーサルウェポンはどうなったの?」
「あぁ…。さっき、本人から電話があって…。自分は”2期”からだから…と」
「”2期”ってなに?」
「…とにかく、まだ終わったばかりで、いつになるかは未定だから、自分のことはまだ気にしなくて構わない…とか云ってました」
「…なんてドライなご意見…。妹さんって、椎ちゃんとは真逆なタイプなの?」
「…ああぁ。それは、そうですね。色々な意味で、礼子ちゃんの考えている通りだと思います…。ははは」
「残念だわぁ…。モトラが見られると思ってたのに」
「あ、やっぱり。礼子ちゃんの興味はそっちですか?」
「ホンダのモトラは生産終了になってから随分になる…。確かにチャンス…。私も見てみたかった…かも」
「あはは。まぁ、その件についても、今はモトラ道より先にやることがある…とかで」
「どういうこと?」
「…詳しくは、私もちょっと。実は、今、アオキガハラだから…って電話切られちゃいましたし」
「…いったいどういう妹さんなの? 逆にまた気になって来たわぁ」
「春休み期間中に、未踏破ルートを征服するんだ、とかなんとか…」
「うへぇ。私たちが、のんびりと桜前線へ向かって南下している頃、妹さんは樹海のど真ん中ってコト?」
「…そう云うコ…なんです。はぁ…」
「あれ? そう云えば、四人目のヒトは? 今、ここにいないわよね?」
「…いない…かも?」
「いませんね」
「…少しだけ、判ったことがある」
「はい。小熊さん」
「…私の…さっきまでのポンコツぶりが…徐々に修正されて来ている。自分でもはっきりと判るくらいに」
「あぁ、確かに。うん。今は、さっきよりは随分と、マシになって来てるわね…」
「どう云うことなんでしょうね?」
「…もしかしたら…。今なら…!」
「ちょ! あんた! いきなりどうしたのよ! いったいどこへ!?」
「こ、小熊さん!?」
「…椎ちゃん! 追い掛けるわよ!!」
「え? あ! は、はい!」
「…椎ちゃん、いた?」
「はぁ、はぁ…。ちょ、ちょっと、待って…。今、息が…。こんなに走ったのは、ひさしぶりで…。い、いえ…。校舎の中には…い、いないみたい…です」
「…とすれば、あそこか!?」
「あ! れ? 礼子ちゃん?」
「椎ちゃん! 急いで!!」
「は…。は、は、は…。はぁ…。い…いくらなんでも、私が…本気を出し…た礼子ちゃんに…ついていける訳が…。…ないじゃないですかぁぁ…!!」
「…あんた…。やっぱり。そう云うこと? そう云うことだったの?」
「…ひゃあ。へぇ…ひゃあ。…れ、礼子ちゃ…ん 」
「椎ちゃん、見て」
「え? な…何をですか???」
「…あのコの……小熊さんのカブがない」
「え? あ、あれ? いつの間に???」
「いつも、ここに停めてたのに…。私の分、私のカブ一台分の駐輪スペースを、きっちりと空けて、私が登校して来る迄、ちょこんとシートに座って待ってたのに…」
「…どこかへ出掛けたんですかね?」
「…そんな訳…。帰ったのよ。元の時代へ…。帰り道、判ったのね」
「…礼子ちゃん、それ、違うと思います。うん…そう。それは違います。私も、今、やっと判りました」
「え?」
「彼女は、小熊さんは、帰ったんじゃありません。ここから走り出したんです。ここ! 今、私や礼子ちゃんがいるここから!ここから 旅に出たんです。カブに乗って…。私たちより、ほんの少しだけ早く…。」
「…椎ちゃん」
「私…。小熊さんや礼子ちゃんに追いつきたかったんじゃない。一緒に走りたかっただけ…。礼子ちゃんのカブのリアじゃなくて、小熊さんの前カゴじゃなくて。そんな風に、荷物みたいに。連れてって貰いたかったんじゃない。自分のカブで…。私…。私は、私のカブに乗って、礼子ちゃんのカブや小熊さんのカブと一緒に。並んで走ったり、後ろを走ったり。時々、ちょっとだけ前を…走ってみたり」
「…」
「小熊さんは、ただ、ちょっと先にひとりで出発しただけ…です」
「…そうね。そうかも」
「…私たちは私たちのペースで走り出せば良いんです。それだけだったんです。自分のカブで。一緒に走り出す必要なんてないです。一緒の方向へはしる必要もないんです。道は繋がっているかもしれない。気づいたら、ひとりだけ別の道を走ってるかもしれない。道は一本切りなんて、そんなの誰が決めたんですか? みんな、みんなでてんでバラバラの道を走ってみても、全然、良いじゃないですか? その方が、道の数、走った人たちの人数分、何かが見つかるかもです。そして、みんなで、あぁ、やっぱり、道は一本きりだったねと思うかもです。」
「あぁ、それはありそう」
「とにかく良いじゃないですか? なんでもありで。それでも、私、私は走ります。免許を取って…。私は、私のカブを手に入れて…。追い掛けるんじゃない。追いつくかどうかでもなくて…。でも。それでも走っていれば、休みながらでも走っていれば…。それでも走っていれば。」
「はたまた、どこかで休んでたら、ひょっこりと?」
「そうですよ。いつかどこかで、いつのまにか、小熊さんのカブと並んで走ってるかも…。ずっとずっと先を走ってる小熊さんのカブが見えるかも…。ミラーひょいとを覗き込んたら、こちらへ向かって、後ろから走って来る小熊さんのカブが映ってるかも…。」
「あぁ、それはたしかに、あのコらしいわぁ」
「どこから走り出すか、どこへ向かうか、どこで休むか、どこでゴールするか。それは誰かに決めて貰う時もあるかもですけど…。誰かと相談して決める時もあるかもですけど…。自分で決める時もあるかもですけど…。走る目的も、乗ってる理由も、みんなそれぞれ…。それでも…」
「…そうね。そうかも…。椎ちゃんも私も…。それでも自分のカブで走っていることには違いない」
「はい! どこへだって行けるし、どこでだって、いつも誰かが走ってる。だって、カブですもん!」
「あ…。それ、私の決め台詞なのにぃ! 椎ちゃん、そこを持ってく? ふつー???」
「あはは…。じゃあ、今度、礼子ちゃんのラテに、その分のおわびのグラッパを、ほんの少しだけ、ほんの少しだけオマケしちゃいます」

「…小熊さん。小熊…。小さい熊と書いて…チイちゃん。…わたしたちは、わたしたちで、わたしは、わたしで、走るわよ。…女子高生、原付の旅」

すぱか部 最終章 最終節 チトの旅 -loop end. ver, C++. -

「行けども、行けども…」
「…何か、くだらないことでも思いついた?」
「え? いきなり何を云い出すのさ??」
「エルメスの癖だよ。どうでも良いことを話し掛けようか、どうしようかと考えてる時は、大抵、時間稼ぎに、最初に切り出すフレーズを2回繰り返す。図星だった証拠に、今、少しだけ、エンジンが咳き込むようにカブったし…。自分で気がついてなかった?」
「そんなこと、そんなことは…」
「ほら、また繰り返した。多少のわざとらしさは感じるけど。まぁ、僕としては、そのお陰で、聴き流そうか、暇つぶしに、相手をしようか、少しだけ、考えを巡らせる猶予が出来るから、それはそれで助かるけどね」
「ひどいな、チトは。お互い、たったひとりの旅の相棒なのに。もう少し、気遣ってくれてもよさそうなモンだと、僕は僕でつねづね思ってるんだけど?」
「君のたったひとりの旅の相棒の僕としては、君は、僕が何かと気を遣わず済むたったひとりの相手だから、あれこれ、余計なことを考えずにすむ。お陰で、心底、助かっていると云うニュアンスを込めたつもりなんだけどな」
「相手に丸投げの隠喩や暗喩ほど厄介なものはない」
「誰の言葉?」
「さぁ? 誰かの言葉。僕かもだし、チトかもだし。今まで出会った誰かかもだし、これから出会う誰かかもだし、出会ったこともなければ、これからも出逢いそうにない誰かの言葉かもだし…」
「なんだい? その意味ありげだけど、それこそ、どうでも解釈出来るようになっている相手次第な丸投げの答え。」
「さぁ? 自分でも判ってないから、訊かれても困るよ…」
「エルメス…」
「何さ?」
「…モトラドなのに、味の素でも舐めた?」
「…チト」
「なんだい?」
「君の悪い癖だよ? せっかく、ちょっと良い話的な流れになってたのに、それを、たったひとことで全部台無しにする」
「そう? そうかな?」
「ところでチト、味の素ってなにさ?」
「さぁ? なんだろ? 僕も知らないんだ…。何なんだろうね? 味の素って」
「ままならない人生みたいだね」
「…エルメス、君の悪い癖を見つけた」
「え? なんだろ?」
「そうやって、すぐにどうでもよいことを良い話であるかのように、流れを持っていこうとする」
「あぁ、それはね。モトラドがモトラドたりうる宿命みたいなものだからさ」
「…宿命? モトラドに宿命があるのかい?」
「そう。モトラドはそう云う風に作られ、そう云う風に考え、そう云う風に語り、そう云う風に走る。そして、いつか、そう云う風に朽ちて果てる。そう云う風に出来ているんだ」
「そうなの? それは初耳だ」
「奇遇だね、僕もさ…。」
「お互い、意見の一致をみて、僕も、君のたったひとりの旅の相棒として、こんなに嬉しいことはないよ」
「そう?」
「うん…。だから…」
「だから?」
「君も気がついているように、道がだいぶ荒れて来ている。空の雲行きも怪しい。出来れば、雨が降り出す前に、この峠道を越えて、どこかに野営出来そうな場所を見つけたい。つまり、君のハンドルを握っている僕としては、しばらくは運転に専念したい」
「そうだね。僕としても転んで、フレームやシャフトに歪みが出来ても困るから、君がそうしてくれると助かるよ」
「うん…そうだね」
「あぁ、チト。最後にひとつだけいい?」
「君の最後にひとつが、ひとつだった試しが、今まで一度だってあっただろうか?」
「ない!」
「そこは云い切るんだね」
「それがモトラドだからね。チトもそう思うだろ?」

「うん。だから、しばらく黙ってて」


...und die schöne Welt geht für immer weiter.

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