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宮津大輔『新型コロナはアートをどう変えるか』

はじめに

 今回、『新型コロナはアートをどう変えるか』を拝読しました。昔から美術館巡りが好きで、学生時代に美術関係の授業を多く受けていた素人アートファンの僕は、本書にとても惹かれ、今回手に取る運びとなりました。
 僕なんかが評するのはおこがましい限りですが、とても良作だと感じたので、一人でも多くのアート好きに読んでもらいたいと思い、今回は、読了ツイートではなく、このような形で読書メモに残そうと考えた次第です。
 個人的備忘録も兼ねているので要約等も付記していますが、とても分量が多いですので、不要な方は掻い摘んで読んでいただければと思います。

概要

 世界のアート市場は、新型コロナウイルス感染拡大前まで活況を呈していた。実際、中国を中心とする華僑・華人を含むアジア、並びに中東産油国の旺盛な購買意欲に牽引され、オークション・ベースだけでも七兆三〇〇〇億円(二〇一八年)に上っていた。
 しかし、新型コロナウイルスが風景を一変させた。このパンデミックはアート市場にどのような影響を与えているのか――。本書では、人類が疫病といかに対峙し、芸術をもって描出してきたのかを振り返るとともに、ウィズ/ポスト・コロナ時代のアート界について市場動向を中心に予測する。同時に、歴史的転換点を迎えた現在、様々なアーティストによる作品紹介を通じて、彼ら、彼女らの作品に込めた意図を探る。

INDEX
 第1章 芸術は疫病をどう描いてきたのか
 第2章 新型コロナとアート市場
 第3章 アートは死なず
 終章  ウィズ/ポスト・コロナ時代のアート作品

個人的要約―第1章

 最近、新型コロナウイルス(COVID-19)の流行が巷間で話題となっているが、紀元前から人類は疫病と戦いを繰り返しており、芸術はその災厄を度々描出してきた
 例えば、16世紀ルネサンス期のヨーロッパにおいてペストが大流行した際、ブリューゲル『死の勝利』を描いている(親子二代でそれぞれが描いているが、絵のタッチなどがそれぞれで異なる)。本書の表紙絵にもなっているこの『死の勝利』は、貴賤を問わず様々な人が、骸骨に馬や金銀を奪われたり、骸骨に砂時計を提示されている様子などが描かれており、当時の疫病からは貴賤問わず逃れられるものがいない様子が描かれている。


 他にも、コロナ禍において売上がとても伸びている(と僕も書店員時代に実感した)カミュ『ペスト』や、最近ではバンクシーによるコロナ禍を題材にした作品などが挙げられる。
 このように、アートと社会情勢―疫病―は不可分であり、今回の新型コロナ(COVID-19)においても例外でないと言える。

個人的要約ー第2章

 新型コロナウイルス(COVID-19)の影響を受け、約6兆円ほどの全世界GDP損失が生じると考えられているが、その煽りはアート市場まで届くのかどうか。近年のアート市場の動向と、コロナ禍におけるアート市場の状況が分析されている。
 個人のスケールで見ると、近年、中国や中東の資産家がアートに興味を持ち出しており、オークションにおける入札額ランキングを見ても、ほとんど彼らが上位を占めている。
 また、国別スケールで見ると、世界トップクラスのオークション・ハウスがメインセールを行なう、アメリカ・イギリス・中国の3国を中心とするアート市場はコロナ禍における社会情勢に左右される可能性が高い。アメリカ大統領選挙やブレクジット、米中貿易戦争や原油価格の暴落、香港でのデモ活動などである。
 以上から分かるように、このコロナ禍において、アート市場は多くの懸念要素が多重に絡み合っている状態であると言える。

個人的要約―第3章

 前章を受けて、これからのウィズ/ポスト・コロナ時代において、アート市場はどのような変化をしていくのかについて考察が行なわれている。
 筆者の結論は、「アートは死なず」ということである。つまりは、アート市場は近いうちに立て直しをはかることが可能であるという見解を筆者は論じており、その理由を3つほど挙げている。理由は以下の通りである。
世界の富裕層による美術品の購買行動は減退しない
趣味性の高い、比較的廉価な作品が活発に取引されるようになっている
新技術によってオークションが多様化している
 また、前章でも取り上げられている各国の状況についても慎重に検討がなされている。

個人的要約―終章

 人口が約75億人にも達し、人間の諸活動が地球環境に計り知れないほど大きな影響を与えている「人新世」において、人間が生み出したり行動したものの副産物として、放射能問題や地球温暖化と同様に、新型コロナウイルスによるパンデミックを位置づけることができると考えられる(中国に端を発したとされる新型コロナウイルスの原因が、蝙蝠や鼠などを食する文化にあるという説に基づく)。すると、このウィズ/ポスト・コロナ時代において求められるのは、「ポスト人間中心主義」、つまり、他種との共存共栄や、自然保護による社会の持続可能性の検討である。
 また、コロナ禍の時代は、「人新世における最初の転換点」であり、アーティストがそれらにどのように対峙しているかを芸術に打ち出している。
 このような視点の下、有名な作家から気鋭の作家まで、多様な作品を取り上げ、解説をしている。

感想 

 僕が美術館を巡ったり、オンラインで作品を見たりするとき、「もっと自分に『学』があればなぁ」とよく思います。勿論、美術を見るときに最も大事なことは、「学」や「うんちく」ではなくて、「自分がその作品をどう思うか」という「感性」にあるとも僕は思っているので、「俺がその作品を綺麗だと思うならそれが全てだ!!!」というくらいの強い気位で、作品を見つめることにしています。
 でも、その見方だとどうしても毎回同じような感想になってしまう気がしまうんですよね。読書メモを見返すと、どのタグにも「おもしろい!」「名作!」「泣いた!」「どんでん返しが傑作!」とか在り来たりなことしか書いてない、前に読んだ作品との差異が分からない、あのときもどかしい感覚なんですよね(きっとこれは僕だけじゃないはずです!)。
 だから、僕は「自分の頭の中をクリティカルに表出できる」そんな「武器」として「学」を備えたいなぁ~、なんていう風にいつも思います。

 そんな僕にとって、この本はとても勉強になりました。勿論、アカデミックな視点でのアートに関してはずぶの素人の僕なので、アート市場の経済的考察についてのところはとても難しいなぁという思いでしたが…苦笑(著者、宮津大輔さんは前作でも、アートを経済学的な視点から紐解かれているので、専門分野かと…そんな方に解説いただいているのに難しいとは申し訳ない…)。
 ただ、それでも、これから訪れるウィズ/ポスト・コロナ時代のアートの見方として「ポスト人間中心主義」的な見方を、本書を通じて僕が学べたことは、これからの僕の美術史において、とても重要なことなのではないかなぁと思うわけです。ふと、美術品を見たときに、「2020年代の作品か、ウィズ/ポスト・コロナ時代だなぁ。あ、宮津さんが『ポスト人間中心主義』的見方を教えてくれたなぁ」と思えることで、その作品がより一層深まるんだろうなぁと思うと、これからがとても楽しみです。

 また、本書を通じて衝撃を受けたアーティストさんを見つけました。長谷川愛さんという方なんですが、『私はイルカを産みたい…』という作品が載っていて、見たときに大きな衝撃を受けました。そして、宮津さんの解説を読んで、この方の他の作品を見てみたい、と思いました。

 そんな出会いも本書を手に取ってよかったと思ううちの1つです。

おわりに

 実は、読んでから一服ついて落ち着いてから記事を書くつもりだったんですが、興奮冷めやらぬままに書いてしまいました。仮眠をとった後に読んでみると、誤字脱字の嵐…。訂正できていないところもあるかと思いますが、最後まで乱文にお付き合いいただきありがとうございました。僕の記事を読んでいただいて、少しでも興味を持っていただいた方がいれば、本書を是非手に取ってみてください。(僕は、宮津さんの前作『現代アートを買おう!』を読もうと思います。)

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