被害女性より身内を守る警察組織 根底に女性軽視内部告発者逮捕やメディア捜査は権力の乱用だ
警察による犯罪隠蔽事件が相次いでいる。
2023年12月に起きた沖縄の性暴力事件は、半年以上も沖縄県警・外務省・防衛省によって隠されていた。さらに青森・神奈川・山口の3県でも、2021年以降に少なくとも5件の米軍関係者による性暴行事件が隠されていたことが明らかになっている。
そして米軍関連ではないが、鹿児島県警による性暴力事件のもみ消しと、これを内部告発した職員の逮捕、情報提供を受けたニュースサイト事務所の家宅捜索などの一連の行為は、明らかに違法逮捕・捜査である。これらは被害女性の人権を何重にも踏みにじるだけでなく、内部告発者を脅し、報道をゆがめ委縮させる効果がある。逮捕状や家宅捜索令状を発行した裁判所にも責任があるはずだ。
(編集部)
▼内部告発者の逮捕とメディアの家宅捜索
鹿児島県警は4月8日、ニュースサイトHUNTER(ハンター)の事務所(福岡市)を家宅捜索しました。ハンターの中願寺純則記者は、2021年9月、新型コロナの療養施設で起きた女性の性被害の訴えに対し、県警や医師会の対応に問題があるとして、調査報道を行なっていたのです。
同4月8日、県警はこの事件でハンターに情報を提供していたとして藤井巡査長を逮捕。5月31日、押収したパソコンのデータから、北海道の記者に内部告発文書を送っていたことが判明した本田前生活安全部長を逮捕しました。
本田さんの内部告発により、現職警察官の盗撮(80回)、野川本部長がそれを隠蔽しようとしたこと、その他「巡回連絡簿」で特定の女性の電話番号を入手しメッセージを度々送信したストーカー行為の立件見送り、隠滅など、県警の闇が明らかになっています。
しかし、県警トップのキャリア官僚である野川本部長は、記者会見や県議会で、「隠蔽を指示した事実はない」と一貫して否定しています。7〜8月の県議会では「百条委員会を設置して真相究明すべき」という意見が多く出されました。自民・公明県議団(50人中37人)は設置への賛否を表明していません。
▼女性たちが動いた
7月27日、サンエールかごしま(鹿児島市)で急きょ開催された中願寺記者の講演会(県警の真相を究明する会主催)では、記者が事実関係を明らかにするとともに、「当局発表」頼みの報道のあり方を厳しく批判しました。
その後、女性会議鹿児島県本部は、県議会に対して百条委員会の要請書を提出。8月13日には有志女性たちが、県議会に百条委員会設置、県警には再発防止のための抜本的改革を求めるオンライン署名を開始しました(左QRコード)。
8月28日には「県警の性暴力軽視体質を問う女たちの会(仮称)」の呼びかけで学習会を開き、今後の活動について話し合います。柳誠子県議、小川みさ子県議を中心に、議会内外の運動の連携ができ、力強い動きになっています。
▼強まる抗議の声
国会では、「ハンターへの家宅捜索は言論の自由を保障する民主国家ではあり得ない。戦後初めてではないか」(6月18日・福島みずほ参議院議員)等の追及がありましたが、政府は「適正に対処する」等と回答したのみ。警察権力の暴挙は重大な憲法違反であり、政府の責任が問われていることに言及していません。
各民主団体からも抗議の声が上がっています。『刑事企画課だより』(昨年10月2日付、県警発行)で証拠の「適宜廃棄」を勧めていたことについて、鹿児島県警、国家公安委員会等に対し抗議声明(大崎事件再審弁護団)、県警の強制捜査を非難する声明(新聞労連、日本ペンクラブ)…等々。
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鹿児島では1954年、業者が賄賂として制服の女子高生に売春させた「松元事件」が起きたが、何と9カ月もの間、全く問題視されなかったという。事件から70年経つが、鹿児島県警の体質が当時と変わっていないと見るべきなのか。
しかし、単なる「一県警の不祥事」では済まされない。女性の尊厳の軽視と、知る権利の侵害、報道の自由を踏みにじる警察権力の暴走である。決して看過することはできない。