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水玉病と蛙化現象


アーバンギャルドというアーティストが好きだ。中学三年の頃に、初めて水玉病という楽曲を聴いてからファンになり、かれこれ細く長く15年くらいファンでいる。
学生時代に人間関係がうまく作れなかった悲しみ、苛立ち、(無縁だったけど)性とか恋とかの気持ち悪さ、思春期に思い悩んだことの多くをアーバンギャルドの楽曲に救ってもらったなと思っている。今でもやるせないときにふっと思い出すのはアーバンギャルドの楽曲の歌詞だったりする。
作詞(・作曲・ボーカル)担当の松永天馬さんの歌詞はすごく優しい。
「死にたい」と言う少女たちに向けて、「生きろ これは命令形だ(ノンフィクションソング)」と言ってくれる。
「君の病気は治らない だけど僕らは生きてく(ももいろクロニクル)」と、どうにもならないことを解消しないままでもちゃんと歩いていけると教えてくれる。
少女と名乗れなくなっていく女たちに、「恋したレコードも埃をかぶってく(中略)ぴかぴかの街は色褪せてく 少女の私を捨てて(さよならサブカルチャー)」というやるせない歌詞で寄り添ってくれる。
それらの歌がなかったとしても、私は自殺しなかったと思うけど、その歌詞の「命令形」の「生きろ」は間違いなく大学生の頃の私のお守りだった。
ようするにアーバンギャルドは私にとって宗教みたいなもんなのだ。
なにせ、アーバンギャルドのライブは異常だ。
たとえば「ベビーブーム」という曲は、
天馬さん「皆さん!セックスはお好きですか!」
観客「大好きでーす!!」
天馬さん「ふざけるな!!(絶叫)
処女捨てたもう事なかれ……処女捨てたもう事なかれ!!!(大絶叫)」
というコーレスから始まるし、曲の間奏中には演者が観客席側にコンドームをばら撒きまくる。(もらったコンドームを財布に入れておくと金運が上がる、という謎のジンクスまで生まれる始末)
私がアーバンギャルドのライブに通い詰めていたころのトリの曲だった「セーラー服を脱がないで」では、
「生まれてきてごめんなさい!!!」
と絶叫させられる。
観客たちはほとんどが10〜20代の女性客たちだった。みんな、日本国旗の白い部分を赤に、赤い部分を白くした通称「血の丸国旗」の小さいフラッグを振りながら楽曲を聴いていた。血の丸国旗がステージのライトを受けながらいっせいにはためく様はすごくきれいだった。
中三の頃初めてお小遣いでアーバンギャルドのライブに行き、まあ、こういうライブだったので、迎えにきてくれた親に「どんなライブだったの?」と聞かれて答えに窮したことを覚えている。
でも楽しかった覚えがある。すごく。
当時未知すぎて恐怖と嫌悪の象徴みたいだったセックスを「大好きです!」と茶化して絶叫するのも、「生まれてきてごめんなさい!」と絶叫するのも、ライブの最後の最後に「それでも明日も生きてくれるかな?」と天馬さんに問いかけられて「いいとも!」と絶叫するのも、いまだに反芻できるくらいに清々しくていい気持ちだった。

なんでこんな感傷100%みたいな記事を書いてるかというと、偶然アーバンギャルドを嫌いな人の記事を拝読したからだ。
その記事ではアーバンギャルドやそのファンのことを、「メンヘラをかっこいいと思ってやってるみたいな、私は尖ってますよ、人とは違いますよ感を出したくてやっている感じが苦手だ」と仰っていた。おっしゃる通りのファン層だと思います(「個性的な女の子はこんな音楽聴かない(傷だらけのマリア)」という、ファンを刺しにくる歌詞の曲がある)と思いながらその記事を読んだのだけれど、つい最近私も似たようなことを思ったな……とふと思い至った。
何かっていうと、「蛙化現象」っていう言葉について。
この言葉って、自分が相手に抱いてた理想がちょっとでも崩れたら、「蛙化現象起きた」とか言っておけば、自分を幻滅させた相手を微妙に悪者に仕立て上げ、そして自分は微妙に被害者側に立てるようにできる、かなり傲慢な言葉だなあというモヤモヤした嫌悪感があって。ただ精一杯やってるだけなのに、ちょっとのミスで蛙化させられた側はたまったもんじゃないよなという。
でもこの言葉ってなんとなく、少女から男性に向けて言うイメージがあり、10代の頃に少女が感じる色々なものへの嫌悪感に名前がついただけなんだろうなあという気もしている。もうほとんど忘れちゃったけど、当時10代だった私も色んなことが気持ち悪くて嫌いだった気がして、蛙化現象という言葉がなかった当時の私の場合は、アーバンギャルドの楽曲に救ってもらってたんだなあと思うなどしました。
もしかしたら今の30になる自分が、アーバンギャルドを初めて聴いたら、案外好きにならなかったかもしれないな〜なんて。その時その時にしか出会えないものがあるなあと思い、記事にしてみたのでした。


〜追記〜

蛙化現象、「フードコートで自分のことを探してキョロキョロしている姿」「お会計で小銭を出そうとしている姿」「好きだったのに、告白されたら急に蛙化した」みたいな、「えぇ……」と思ってしまうような使用例しか知らなかったんだけど、「マナーが悪かった」とか「店員さんに横柄な態度をとった」とかそういう、「見損なった」のマイルドな表現方法だったりする時もあるのね。若者言葉のネイティブな使用例がだんだんわかんなくなっていく。

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