見出し画像

「アオアシ」から学ぶキャリア教育

私は「アオアシ」(小林有吾、ビックコミックス)が好きです。サッカーが好きで、そして高校生をプロに育てるという視点でとても面白いから。


なので、前からこの話を少しずつ「キャリア教育」として分析できたらと考えていました。(書影は「版元ドットコム」で確認しました)

今日から気になる話を1話ずつ拾っていきたいと思う。なお、本文中の理がない限り、ページ数は小学館の通常版のコミックスによるものとします。

第1話 ファーストタッチ

まず主人公である青井葦人の試合のシーンから始まる。いきなりゴールを決めて、スーパーヒーロー登場か、と思いきやそうではない。ゴールを決めてあと一息で勝利というところで、相手選手に頭突きをして一発退場となる。(ここには、あとになって色々な伏線があるが、省略します。)

ここで大事なのは、東京エスぺリオンというJリーグチームのユース監督である福田達也と出会うところがポイントである。そこから、彼のユース生活が始まるのだが、この「出会い」こそ、キャリア教育の中で大事な考え方である、グラノヴェッターの「弱い紐帯」という考え方である。

M.グラノヴェッターは『転職ーネットワークとキャリアの研究』(1998 ミネルヴァ書房 渡辺深 訳)で、失業した人が新しい仕事を見つけるときに、親族や親友といった近しい関係の「強い紐帯」よりも、知り合いといった少し遠い関係の「弱い紐帯」のほうが、職を見つけやすくしかも口添えまでしてもらえるということを調査から明らかにしている。(前掲書52p)「アオアシ」でも、福田達也がたまたま青井葦人の出ている地元(母親のお墓参りの途中で愛媛に寄った際)の試合をみていたという、同郷というとても「弱い紐帯」の関係にある。しかも、地元の高校に推薦の話もあったが、退場でそれもなし=失業状態だった葦人を見出したのだから、まさにグラノヴェッターの指摘通りだ。青井葦人と福田監督は「弱い紐帯」によって、めぐり合っている。

次にキャリア教育で見逃せないことがもう一つ。葦人には「俯瞰」という才能があるが、技術は粗雑でプレーも独善的でチームを離れた経験がある。しかし、新しく入った中学校のチームでは仲間が受け入れて(周囲が良い意味でおもしろがる。監督も放任主義。)、活躍するというエピソードがある。仕事における能力とは、本人のもつ才能と周囲の環境が合って(あとは本人が就労する意欲があって)成り立つものである。つなり、能力とは個人の中で完結して保有されるものではなく、周囲との関係の中で成立するという視点がここで示されている。(ICFの生活機能分類における、個人と環境の関係において「障害」が起こるという考え方にとても似ている)

もう1つ、第1話でどうしても、触れておかなければならないのは、成功する人はどういう人か、ということ。オーストラリアのグリフィス大学のアーサー・ポロバットらは大学生の学業成績とIQ(知能)テストと性格の関連性を調べた結果、学業成績はIQよりも性格の方が予測しやすいことを明らかにしてます。(篠原菊紀2017『ほほえみお母さん&お父さん』1月号より)そして、そこで大切なのは「経験の開放性」と「誠実性」だと言っています。「経験の開放性」とは、新しいことに出会った時に『ちょっとやってみよう』という小さな挑戦ができることです。「誠実性」とは、真面目にコツコツ。第1話でも、葦人は初めて会った福田監督にコントロール・オリエンタードの練習方法を教えてもらい、(34p)それができるようになるまで夜通し練習して身に付けます。

たくさんのキャリア教育の要素が詰め込まれた第1話です。そしてなにより、自身の俯瞰の才能を披露する青井葦人は、「仲間が一生懸命で、これ以上負担をかけないために自分のなすべきこと=シュートを選択する」(51-52pp)ことを語っています。

自分自身のキャリアを考えた時、私も自分自身の手柄や努力を中心に考えてしまいがちですが、世の中で成功する人たちは、周囲への感謝を必ず口にします。それは、社交辞令ではなく、自分を育ててくれた人や社会への自然に沸き立つ感情なんだと思います。

さて、第2話はどのようになってくか、少しずつですが筆を進めていこうと思います。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?