声
車のラジオから、知らない曲が流れてきた。
そのラジオ番組は、ちょうど車通勤を始めた時から聞きはじめていた。退勤する時刻に始まり、保育園に間に合うように焦りながら、保育園からは子どもの声を聞きながら、帰宅して最後まで聞けない、そんな番組だった。
「働く人に向けた」ラジオ番組からは、いろいろな曲が流れてきて。好きなアーティストが流れてくると、気持ちは上向きになる。
高校時代にバンドをやっていて、ユニコーンやくるりが好きだった。自分の好きな音楽だけあればよかった。自分の知らない、聞いても好きにならない曲なんて、なくなってもよかった。本当にそう思っていた。
けれど、私が知らない曲、嫌いな曲にも、私以外の大切な思い出が詰まっていて、誰かの背中を押していたりする。そう思うと、ラジオから流れてくる聞きなれない曲にも、何かあるのではないかと思う。
坂本龍一がさまざまな音楽的技巧を駆使した曲でなくても、演奏技術が乏しい若いバンドが演奏したものでも、誰もが誰かの心を動かす。だからこそ、音楽は絶えず誰かが新しいものを生み出す意味があるのだと、40を過ぎて思えるようになった。
事実、今までしなかった、聞いてこなかった曲が気に入り、itunesにダウンロードしてリピートしていた。
「分けて考えない」
仕事を通して今気をつけていること。何かがあると、人はなぜか彼岸を分けたがる。自分の岸を守るために、かかる橋を打ち砕いて、彼岸に罵詈雑言を投げかける。そんな世の中にあって、分断はきっと何も解決をしないのだろう。
だから、音楽もまた、自分に不要だとしても、気に入らないものでも、なんでも分けて考えてはいけないのだ。
それは、自分自身に対してもそうだ。昨日嫌いだった曲が、今日好きになることもある。元気な月曜日に聴く曲と、疲れ果てた週末に聴く曲は同じではない。
J.D.クランボルツは面白いこと言う。「その幸運は偶然ではないんです。」たまたまその番組で流れて、たまたま私が聞いていて、たまたまその時の気持ちに寄り添った曲が流れ、次の日に何かを決断することがある。だいたいは大事なことを思い出して、重要な決断を告げることが多かったが。
THE BLUE HEARTSの『青空』がラジオから流れてくる。
そう、明日もまた頑張らなければ。
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