『7つの明るい未来技術 2030年のゲーム・チェンジャー』連載第1回を読んだ

小説家・ライターの渡辺浩弐さん(note Twitter)の新連載が始まったー!

過去の著述からつながるところもあれば、新しい言説もありでこれは面白そう! ってことでファンの私の読書感想文です。

今回発表されたのは第1回で、第2回は2023/03/13公開予定。連載目次ページを見ると「全7回」とのこと。このペースでいくと単行本が発売する2023/04/18(04/19と表記されている公式ページもあり)までには終わりません。なので、今は単行本からの先行公開ですが、途中からは単行本からのシングルカット(死語?)になるのでしょうか。

出版レーベルとなる星海社新書は発売前にpdfでの試し読みも公開しているので、そこでもまた深く作品情報を確認できそうです。

また、現時点ではAmazonにも表記もありませんが、星海社は電子書籍版も同日発売を行っています。日付が変わった瞬間に読むことも可能なはずです。

以下、本文に突っ込みをいれながらの感想文です。


〈ゲーム・キッズ〉シリーズ

という表記。たぶん出版社が関わる記述ではこの……なんていうんだ、三角カッコ? が使われたのは初めてだと思いますが、悪くないと思いました。「『ゲーム・キッズ』シリーズ」だと、でも『ゲーム・キッズ』ってタイトルの作品は厳密にはないしなあってなりますし、カッコにくくらない「ゲーム・キッズシリーズ」だと前後の言葉によって使いにくかったので。


その時のエピソードは『死ぬのがこわくなくなる話』(星海社)という本にも書いた

『死ぬのがこわくなくなる話』は現時点では新品流通がなく、電子書籍化もされていない作品です。が、Twitterで連載されていたこともあり、当時の連載ログがTogetterに残されています。

今回のテーマである、「人工冬眠」がテーマの主題といってもよい連載です。なので『死ぬこわ』を読んでいると、今回の連載も「そういえば渡辺さん、そんなこと言ってたなー」と懐かしくなります。

先日、渡辺さんのツイッタープロフィール表記が「過去作品の電子書籍化スタートしました」から「過去作品の電子書籍化も進めています」に変わりました。『死ぬこわ』や他の未電子化作品も含めても期待してよいのでしょうか。

アルコア延命財団。なんとなく変わり者の秘密基地のイメージが私の中にあったからか、人里離れた砂漠のど真ん中にでもあるのかと思ってました。しかしGoogleマップで見てみたら普通に街中にあるんですね


理化学研究所・生命機能科学研究センターの砂川玄志郎氏

ググってみたら理研の紹介ページを発見! ツイッターもされているみたい。

理研サイトのニュース欄やお知らせが「ふつうの人」にも分かりやすい記述で面白いっすね。


(取材・2022年5月12日)

単行本の発売からすると11ヶ月くらい前の話。本を作るのって大変なんだなあという気持ちと、これくらいのスパンでのリサーチだと今後の回で特集されるはずの「AI」についてはちょっと古いものになっているのではという不安。どの分野の「AI」なのかで変わってくるでしょうけど、去年秋くらいかジェネラティブAIは本当にビックリするほどの速度で進化していってますよね。


マウスの場合は遺伝子操作技術でいろいろな個体を作り、実験を繰り返してきましたが、人間の場合はおいそれと遺伝子をいじるわけにはいきません

本筋とは違う部分ですけど、ここで遺伝子操作技術って出てきて、へー、と思いながら10分くらいググったら、遺伝子組み換え食品ってもう穀物輸入量で言えば過半数になっているのではみたいな話もあるんですね。すごーい(なお、Wikipedia情報かつ、遺伝子組み換えとゲノム編集の違いもよくわかっていない人間の発言です)。


身体が活発に動いている時には病気もどんどん広がりますが、冬眠してそれを止めることで、余裕をもって処置ができるようになるわけです。たとえばがん細胞はものすごい速さで増殖しますから、対処が間に合わないことも多いんです。

医療の観点から見るとまだ若い方(たぶん)である身なので、「若いうちにガンにかかると進行早いよ」なんて言葉を聞くと怖くなっていました。そういうのに対する対症法としても人工冬眠が有効なんですね。人工冬眠といえば外宇宙への植民にしかイメージがありませんでした。


人間と機械を直接的につないでいく『攻殻機動隊』の世界はかなり現実化しているわけです。

これを砂川先生が言っているのが、今回の記事で一番面白かったところです。普通なら聞いていた小説家が「それって攻殻機動隊みたいですね」っていうところなのに!

ステレオタイプなイメージだと、理系のセンセイは技術のみを求め続けて倫理的なところは二の次なんてことがあります。だけど、技術が浸透していった先の世界イメージも持って研究されているのがわかると、安心感や親近感があります。

大袈裟にいうと◯◯が好きなやつに悪いやつはいない、みたいな。少なくとも彼があれが好きなんだったら、俺もその考えを理解できるかもしれないし、彼も俺のこの不安を理解してくれるんじゃないかって。


仕事がないからコロナ禍がおさまるまで2年ぐらい冬眠するかとか、付き合ってる子との年齢差が大きいから10年ぐらい冬眠して待とう、とか。

後者の例え話はさすがSF作家ですね。猫SFのあれでしょうか。この技術なら3親等を越える玄孫でも現実的に結婚できるのではと思って調べてみたら、直系の血族とは結婚できないそうです。残念。


いなくなった人がまた復活するっていう、人類が今まで経験したことのない事例が出てくるということになります。その間の、生きているわけでも死んでいるわけでもない状態をちゃんと定義しないといけない。

この部分はちょっとわかりませんでした。冬眠している熊が死んでいないように冬眠している人間は死んでいないのでは? これを「生きているわけでも死んでいるわけでもない状態」とすると、いわゆる植物状態は生きていない状態になってしまうように思います。

個人的には冬眠は他人と会うことができない入院くらいのイメージでした。ただ、たしかに長期間の冬眠になると「生きている」だけで課される税金やらなにやらとの調整は必要になってくるのだろうとは思います。


また、冬眠中に記憶が消えたり、人格が変貌してしまう可能性もないわけではありません。

そういえば確かに冬眠前後で記憶が連続するのかって疑問です。動物ででも冬眠前後で記憶が連続しているのかってデータあるんでしょうか。ペットが冬眠明けに飼い主に近づいてきても、それが愛着をもって近づいてきたのか餌をくれそうだから近づいてきたのかって証明は難しそう。知らんけど。


ただしSF って、科学ではできないようなことまでをリアルに見せてくれるものですよね。そういう意味では人工冬眠は、もはやSFではない。現実のテーマになっています。

この発言めちゃくちゃかっこいいですよね。最先端の研究者にしか言えない台詞。


そこで今は、サイエンス・フィクションではなくシム・フィクションというジャンルが重要なんじゃないかと。最先端の科学者が取り組んでおられることを勉強して、それについて研究者とは別のスタンスから考察を行う。その成果を物語という形で提示する。それは科学への期待を加速すると同時に、警告としても機能するものだと思います。

長年、渡辺さんのファンをしていますけど、「シム・フィクション」についてこんなに分かりやすく説明されたものはありませんでした。Wikipediaの渡辺浩弐のページにシム・フィクションの項を作るならこれを載せるべきってレベル。

ちなみに「シム・フィクション」という言葉は1993年3月19日に発売された号の『1999年のゲーム・キッズ』連載第1話から使われている言葉でもあります(このときの表記は正確には「仮想科学小説 Simulation Fiction」)。もう30年前なんですねー。というかあと1ヶ月もしないうちに「ゲーム・キッズ」30周年記念ですね。ケーキでも食べます。


セーブしておいた記憶を渡して、これをあなたの脳にダウンロードして本来の自分に戻ってくださいと言われても、納得できるものではないでしょう。

──確かにそうですね。クローンで復活させたり、もしかしたら冷凍後に再生した人間でも、この問題は起きてしまうかもしれません。

『死ぬこわ』の中核となる部分を渡辺さんがさらりと翻している! とはいってもこの理屈を認めてしまうと、同一人物を二人同時に存在させることも可能になるので推進し続けるにも確かに無理がありますよね。

このあたりや、宇宙のくだりは砂川先生がSF作家よりもSF作家らしいことも言っていて面白いです。なんちゃってSF好き民としては、最先端のテクノロジー研究をしている方がSF好きだとやっぱり嬉しいです。

「自分」の置き換え問題はテセウスの船もはらんでいますし、砂川先生も間違いなくそれは気づいているのですが、あえて明確に答えを出さずに終わるのが、「あなたも考えてみよう」って感じでいいですね。

答えを提示する前提の文章であれば、インタビュー形式ではなく、「取材の結果、私、渡辺浩弐はこう考えた」というスタイルをとればよいのでたぶんふわっと終わるのは意図的なはず。


無限でいいのなら、その期限が永遠の未来なら。遺伝子レベル、さらには分子レベルで自分と全く同じ組み合わせの存在がこの宇宙で再び作り出される可能性は0ではない。

『死ぬこわ』ではペンローズ・タイリングで否定したことを大オチで持ってこられるとちょっともやっとします! 一応0ではないと留保はしていますけど。最近のソシャゲの説明書きにありがちな、当選率1%の抽選を無限に試行しても、当選にいたらない確率は0じゃないやつですよね。


そんな感じで第1回、楽しく読みました。今回は連載だったからないだけかもですけど、砂川先生への著書へのリンクとか関係論文ソースの記述とかそういうのも単行本にはあると便利ですね。

Amazonの単行本紹介の記述を見ると第2回は「デジタルツイン」になるのかな。語感から自分自身をデータ化していったときの、データ側の自分だと思っていたけど違ったみたい?

現実世界の情報をもとに、仮想世界に「双子」を構築し、さまざまなシミュレーションを行う技術です。

https://www.ntt.com/bizon/glossary/j-t/digital-twin.html

もっと広くデータ化された世界自体のことを「デジタルツイン」と呼んで、そちらでシミュレーションしたことを現実世界側にフィードバックする。みたいな感じかな。渡辺作品でいうと撮られ続けた結果、ディスプレイの向こうに出来上がった「渋谷」みたいな感じ?

人工冬眠は概念自体は誰でも理解していることだったので、次回のデジタルツインは技術説明の部分から知らないことばかりで楽しそうっすね。

あと、渡辺さんのツイートによると「書籍版はさらに深い内容になってます」とのことなので、この連載部分以外にも各章はそれぞれのテーマを掘り下げた文章が載ってそうですね。ワクワクが止まらないぜ。


あとあと、渡辺浩弐さんの無料公開されている小説がまとまっているページを見つけたので、とりあえずブックマークだけでもしておくといいよ! ショートショートなので1作5分の暇潰し! しかも100作以上あるみたい!!

渡辺浩弐さんデータベース 試し読み可能作品


以下、おまけ。

連載内容とは関係ない枝葉末節の部分で気になったところ。要は表記とかへの指摘です。この連載がすでに出来上がっている単行本からのコピペだとすると、単行本でもおかしい表記があるってことになります。それは悲しいので発売前に書いておけば、関係者のどなたかは読むでしょってことで書いておきます。校正前のものだけどファンにいち早く届けたいから公開しちゃうよ、ってタイミングのものだったら、めんどくさいファンですみません。

「ステファン・ブリッジズ氏」。Stephen W. "Steve" Bridgeなのでステファン・ブリッジ氏では。『死ぬこわ』(少なくとも連載)では「ブリッジ氏」になってました。あ、あとこのWikiだとステファンの会長職は1993~1997のようなので、最後にアルコアにいったのがステファン会長時代なら「それから約20年」というよりは30年近いかも? 連載関係みてると渡辺さんのアルコアに対する記述を見ると1993年頃のが多いのよね。→2023.03.02追記。最初にある写真に日付が入ってましたね。「5 18'95」なので1995年5月18日かな。

「2021年。日本の科学者により、ブレイクスルーと言うべき発見があった」ってあるけど、理研の砂川先生のページのニュース見ると2020年のこれじゃないのかな? 2021年のこれだと櫻井先生はクレジットされてないし。合わせて言ってて2021年かな?

「──いや、僕が作った言葉なんですけどね(笑)」。段落文末の「。」がない。「SFの方が先を行っていると思います(笑)。」にはあるのでどちらかが処理間違い。

「生まれつき冬眠能力を持ってる人が一定数いるかもしれないと書かれていましたね。」「冬眠能力を遺伝的に持ってる人がいるという説もあります。」。ここだけ「い抜き言葉」になっているような。口語のインタビューではありますけど「持っている」の方がスマートかしら。

「定期的に激減しはまた復活する」。発音すると問題なく読めるんだけど、(かつ、インタビューなので口語を採用しているのはわかってるんですが)文章だと「激減しはまた復活」って一瞬引っ掛かりません? 激減してはまた復活。

「SF と科学の接点ですよね」。SFのあとに半角スペース。他にも半角文字のあとに半角スペースがついてたりついてなかったり。

「あなたは眠りについ次の瞬間には目覚めるんです」。眠りについて、かな。眠りにつき、かも。→2023.03.02追記。この台詞は序文のリフレインなので「眠りについた」でしたね。

「『週刊ファミ通』での連載を経て」。ライター紹介は渡辺さん本人が書いてて意図的かもですが、『1999年』は『週刊ファミコン通信』での連載。

2023.03.02追記。ツイッターで教えていただきました。「たとえぱ"人間とは何か"といった根源的な命題は避けて通れません」。「たとえば」が「たとえぱ」になってますね。

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