『7つの明るい未来技術 2030年のゲーム・チェンジャー』連載第7回+書籍版を読んだ

小説家・ライターの渡辺浩弐さん(note Twitter)の新連載7回目が更新されたー! 今回分で最終回!

今回発表されたのは第7回(最終回)。そして4月18日より連載がまとまった単行本が発売中! 4月30日でこの回の記事はクローズされる模様。単行本を買う前に内容確認したい人は今のうちに読んでおかなきゃだぜ。

以下、今までと同じく、本文に突っ込みをいれながらの感想文です。


(取材・2023年1月16日)

今回だけ取材日時が今年。7つのテーマの取材日を列記してみると、以下の通り。

  • 人工冬眠・2022年5月12日

  • デジタルツイン・2022年4月13日

  • ブレイン・マシン・インターフェイス・2022年4月23日~5月23日

  • NFT・2022年5月11日

  • 昆虫食・2022年7月6日

  • 遺伝子検査・2022年12月13日

  • AI/ロボット・2023年1月16日

(公開された)取材は2022年の4月から始まったものなので、1年がかりの企画だったんですね。NFTと人工冬眠分のインタビューは二日連続だったんだ。へー。

特に画像生成AIのことで言えば、去年の夏くらいに話題になったものです(Stable Diffusionの公開が2022年8月23日の模様)。企画開始時点でテーマを決めていたわけではなくて、取材を続けるなかでこれはと思うものを探し続けていたことがわかります。


その草分けは『ローグ』(1980年)です。PCGによるマップの自動生成機能のおかげで、入るたびに形の変わるダンジョンが実現していたんですね。
──『ローグ』以降、ローグライクというジャンルが成立していて、日本ではスパイク・チュンソフトの『不思議のダンジョン』シリーズが知られていますね。

あたし、ローグはやったことないけど、『トルネコ』は自動生成じゃなくて何百かのマップのかたちが固定されてROMに入ってて、そこにアイテム、敵、階段をランダム配置してるんだと思ってた! ダンジョンの形まで自動生成だったんだ。すごい。


AIを完全に使いこなせるのは、今時点では専門家だけです。

専門家が言う、「専門家は専門家なんです」みたいな表現ってかっこいいですよね。今回に限らず、人工冬眠の砂川先生も、自負が見えてかっこよかったなー。


ゲームと同じで、社会でも、高度なAIが出てきたとしてもそれが人間に取って代わるということはないんです。例えば小学校の現場で、教えることができる、監視も、採点もできる、そんなAIロボットがいたとしても、それにクラスを担任させることは不可能でしょう。

この点、小学校だと確かに、って思いますが、大学くらいになるといける部分が多くなるような気がします。リモートで受けていた授業だったり、リモートワークの相手方が人間じゃなかったくらいならここ数年で出てきそうな気がします。

あるいは役所の書類の受け渡しとかだったらネット上である程度実現しているところもありそう。AIとは何かという定義問題にもなりそうですけど。それらも結局どういう行政を行いたいかという市長やらの偉い人のコントロール下にあると見るならば確かに「取って代わることはない」ことになるのかな。


最善の動きを自分で判断して実行しているAIに対して、その演技を外側から見て、そのシーンをさらに盛り上げるために指示する、つまり映画における監督のような存在ですね。

続くメタAIの話にもかかってきますが、いわゆる「AIの登場はツールが増えただけで、使い手の能力をエンパワーメントしているにすぎない」ってやつですね。良くも悪くもそれだけでは完成せず、手をいれていかなくてはならない。


また、新しいロボットを導入するたびにその場所の情報を取り込んで、それに合わせて調整する時間が必要となります。環境をまるごと把握したメタAIから指示を出す形にすれば、すぐに高度で柔軟な行動をさせることができます。

この概念かっこいい! 絶対SF映画で悪のスーパーハッカーにメタAIが乗っ取られちゃうやつ! で、唯一スタンドアローンで運用していた廃棄直前の旧型AIロボットが主人公警官のパートナーになるやつだ!

コンビニなんかで一店舗一店舗の情報を逐一インプットして接客させるより、「コンビニとはどういう場所で何をするのか」みたいな概念を教える、みたいなことかな。新宿店で働いていた人間は渋谷店でもすぐ戦力になるみたいな。

コンビニ(セブンイレブンだけで国内20000店舗超)でAIロボットが採用されたら、学習事例が多岐にわたるので超絶強い接客ロボットがうまれそう。


メタAIはプレイヤーの行動ログを観察しています。その人間の得意な動きや苦手な攻撃などを把握してそれをもとにリアルタイムでゲーム内容を、例えば敵キャラクターの強さなどを変化させているんです。

この技術も面白い! 私は最近あまりゲームをしないのですが、昔はゲーム漬けの毎日を送っていました。なので時々やるゲームでイージー、ノーマル、ハードの3つのモードがあっても、昔のゲーマーだったときのプライドがあってイージーはなんとなく選びたくない。でも、ノーマルで始めると難しすぎて途中で投げてしまったり。イージーを選んでも、ノーマルを選んでもストレスが溜まる仕様。

そんなことも、この技術があれば解決されちゃいますよ。難易度設定自体がなくなって、ゲーム中のプレイスキルによってちょうどよい難しさになっていく。クリア後はガチゲーマーも、ゆるゲーマーも「あのゲーム難しいんだけど、もう少しでクリアできそうだから何度もやっちゃうんだよな」って語り合えちゃうやつ。


そういう土壌があったからこそ、初音ミクが生まれたわけです。欧米だったら単に優秀な音声合成ソフトとしてリリースされたはずのものが、キャラクターとしてデビューしたことがとても日本的なんです。

言われてみればそうかも。SiriやAlexaはどっちかというと誰でもない存在を目指しているように感じます。このポジションなら音声ソフトであってもSiriやAlexaが「Siriの消失」や「Alexaの消失」を歌う世界は想像できません。

「初音ミクのライブ」って言われたら、ツールとしての初音ミク楽曲を聞きに行くライブじゃなくて、ミクに会いに行くライブだし、不思議ですね。


機械をキャラクター化するセンス

インターネット老人会になりますけど、Win MeのMeたんを思い出します。ポンコツOSもポンコツ愛されキャラをかぶることによって愛されるようになっていまう。

AppleとかGoogleはやらないでしょうけど、携帯のOSも擬人化したらやはり付き合いやすくなるように思えます。何ギガもするようなファイルをダウンロードする前に「頑張るから待っててね」って言われたり、あるいは単純に目覚ましタイマーを簡易的な自動生成ボイスにするだけでもつきあい方がグッと密になる気がします。

新端末へのデータ移行も楽になってきているので、古くなってきて処理が遅くなってきたら「新しい体がほしいなあ」と言わせたりして販促もバッチリ。


自然に老いていく人工生命を作ることができたらとても面白いですね。

この節、完全に『アンドロメディア』の話してる!! と思いつつ確認したら『アンドロメディア』って文庫版が1998年の発売で四半世紀前の作品ですよ。今の渡辺ファンの何割が知ってるんだろう。再公開、再発刊してほしいですね。

今回に関係ありそうな切り取りかたをすると『アンドロメディア』とその続編『中野ブロードウェイ脱出ゲーム』は人工知能のAIである、「AI(アイ)ちゃん」と「アイちゃん」の生と死にまつわる物語です。

前者のラストシーンは主人公が死んだAIちゃんを復活させると決めたシーン。後者のラストシーンは死なないアイちゃんを殺すと決めたシーン。と私は認識しています。

とは言っても『アンドロメディア』での「AIちゃんを生き返らせる」ってそもそもなんなんだ、という疑問もあるのです。生き返らせることができる存在って本質的な意味で「死ぬ」のかな? 完全に同一存在を再作成できるとなるとそれは「死」ではないんじゃない?

あるいは『中野ブロードウェイ脱出ゲーム』のアイちゃんも無限に自己複製が可能であるならば、そのうちの一体を殺しても仕方ない。ソメイヨシノはすべての個体が単一個体からのクローンだなんていいますけど、ならば一本を伐採することではなく、ソメイヨシノのDNA内にある死亡プログラムを一気に発動させないといけません。

となると『中野ブロードウェイ脱出ゲーム』で最後に示唆された「AI殺し」ってなんなんでしょうね、というのが今回のインタビューにもしかしたら隠されているのかもしれないな、と読みました。

今後技術が発達していくにつれて、あらゆる病気や怪我を治せるようになっていき、もしかしたら老いすらも超越し、人間であっても死から遠く離れていくのは間違いないでしょう。

つきつめていくと、その時代の人間を殺すこととAIを殺すことは同一の手法が用いられるのではないかと考えられます。

ではその手法とはとなると「自分は死ぬ存在だと認めさせること」なのかなと。一周回って今の人類がすでに理解していること。

自分は死ななくていいという前提に立つとあらゆる延命行為で自身を延長させられます。この前提を世界設定レベルで破壊したのが『令和元年』シリーズなのかなあと。

ではなぜAIは死ぬべきなのかというと、今回のインタビューにあるように「忘れる」ことができないからなのかなと。この点は『2999年』の「科学者の一生」にあるように自身への呪いや怒りや悲しみすら忘れられないというくだりに代表されるように思えます。

人間が自身の生活圏をたかだか数十年生きるくらいでも、失敗を思い出してうわーって過去に殺されそうになるのに、そのテラバイト階乗の情報を扱うAIがならないわけがない。AIに人格を与え、それを認めるのであるなら、AIとはやはりそうなるものなのです。むしろ過去を捨てられないAIを殺してあげることこそが人間がしてあげられる優しさであるかもしれない。

『中野ブロードウェイ脱出ゲーム』に続き、タイトルが予告された『アンドロジニアス』は『M-Noah』という作品のなかで「人間再生システム」の名前としても出てきました。作品『アンドロジニアス』は逆説的に、システムが崩壊する話と推測するならば渡辺作品の歴史的にも合致するのかなあと考えました。


という感じの「AI/ロボット」回でした。

インタビューの締めの流れを見ると、インタビューとしてはもっとAI論が続いているように思えます。最後の渡辺哲学に接続するために切り取られているような。渡辺ファンだからいいんですけど。

私自身の考えでは渡辺文学の根底の大きなところにあるのは、ゲームボーイのポケモンブームの際に「子供たちがメディアではなくポケモンデータというコンテンツに価値を認めた」ということです。

今回のインタビューを読んで、それに加えて「たまごっち」の存在もあるのかなと言う気がしました。極めてプリミティブなあり方ですけど、たまごっちの何が新しかったかというと死のタイミングがランダムだったことです。死をプログラミングしたことが革新的だったといっていたはずです。


というわけで連載版「7つの明るい未来技術 2030年のゲーム・チェンジャー」全七回でした。このnote記事がアップロードされる頃にはジセダイの各回もクローズされてしまう。なんとか間に合ってよかったぜ。


単行本版『7つの明るい未来技術 2030年のゲーム・チェンジャー』も紙書籍、電子書籍で発売中です。

連載版からプラスされたのは「はじめに」と「おわりに」。そして各章の最後に追加された「その先の未来」と題された、各テーマへの小説家的アプローチの3点です。

「はじめに」と第一章の「その先の未来」は公式の試し読みでも読むことができるので興味があれば是非。

紙書籍と電子書籍版は、収録内容はもちろん変わりませんが、解説画像などのレイアウトを考えると圧倒的に紙書籍の方が出来がよいです。ただ、検索性とか携帯性で考えると電子書籍の方が便利なんですよね。悩むところ。

ちょっと文句言いたい部分で言えば、試し読みを読んだ時点で、紙書籍版は画像が白黒なのではわかっていました。確かにフルカラーで本を作ると何百円か値上げせざるを得ないでしょうしこれはしゃーない。

でも電子書籍だったら連載時にカラーだった画像は、カラーのまま収録してくれてよくない?? 電子書籍って結局のところいわゆるhtmlで作ってるわけだから、言ってみればわざわざ白黒にする手間をかけてるってことでしょ。そんなことしなくていいからカラーのまま見せてくれ。文句言いたいのはそれくらいです。今後の作品ではこの点期待!!


渡辺さんはこの連載(と単行本版)『7つの明るい未来技術 2030年のゲーム・チェンジャー』にあわせて各テーマについてYouTube配信を始めました。

ハイテクノロジーをやわらかく話すといった内容で配信タイトルは「ハイテク夜話」。再生リストも作られているようです。

すでに人工冬眠、デジタルツイン、ブレイン・マシン・インターフェイス、NFT、昆虫食の5回がアーカイブ視聴できるので興味ある方は是非!


あとあと、渡辺浩弐さんの無料公開されている小説がまとまっているページを見つけたので、とりあえずブックマークだけでもしておくといいよ! ショートショートなので1作5分の暇潰し! しかも100作以上あるみたい!!

渡辺浩弐さんデータベース 試し読み可能作品


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