『7つの明るい未来技術 2030年のゲーム・チェンジャー』連載第2回を読んだ

小説家・ライターの渡辺浩弐さん(note Twitter)の新連載2回目が更新されたー!

今回発表されたのは第2回。4月18日に連載がまとまった単行本が発売するものの、4月30日でこの回の記事はクローズされる模様。内容確認したい人は今のうちに読んでおかなきゃだぜ。

以下、前回と同じく、本文に突っ込みをいれながらの感想文です。


今回のテーマは「デジタルツイン」。実際にある街をシミュレーション空間上に作り上げて、色々なパラメータ変更をためし、現実に反映させる。

渡辺フィクション的にも幾度となく出てきたテーマですね。ディスプレイ上に切り取られた結果バーチャル空間上に現出した「渋谷」や、「街」にこだわらなければ『アンドロメディア』のAIちゃんなんかも完全なデジタルツイン。


生きていない、けれどもオリジナルと全く同じデータからなる臓器を持ち代謝系を維持している「デジタルツイン」だったら。その存在に対してはどんな過酷な実験をすることもためらう理由がない。

これは、論旨からはたしかにそうなんでしょうけど、私だったら精神的なストッパーはあると感じてしまいそうです。自分が住んでいる家が崩壊する様であるとか、(今回のデジタルツインでは考慮されてませんが)街に住む人々が事故に巻き込まれるとか、そういう実験をするときはためらいがあるかなーと。ラストオブアス1の超序盤で殺してくれって言ってるモブを撃つのにもひーひー言いましたよ、私。


それに対してこの空間は、現実の街をよりよくするために使う、システムの集合体です。できる限り正確なコピーを目指していくことになります。だから双子(ツイン)なんです。

「正確なコピー」を突き詰めていくと、コピーも本物に近づいていくってのが面白いと思いました。どっちも本物になったとき、ディスプレイ越しに2秒で入り込める中野ブロードウェイが、新幹線を使って行く必要がある中野ブロードウェイの価値を毀損するのでしょうか。むしろ価値をあげることになるのか。いつでも行けるからこそ一度は行ってみたい場所になるんじゃないかなあ。コンビニでビールはいつでも変えるけど、ビール工場見学ツアーの最後に飲むビールは格別にうまい、みたいな。ちょっと違うか。


データは〝現代の石油〟と言われたりします。資料を紙ベースで保管せずにデータ化すれば、それは以後、様々に加工して多方面で使えるものになります。

この文言初めて知りました! ただ、石油として活用されるようになるほど長い時間をかけて維持できるのかとっても心配! 日本の財政頑張れ!


街のデータを重ね合わせていく

「重ね合わせ」という言葉も色々な捉え方ができて面白いです。位置データ的に見ると、漫画版「プラトニックチェーン」であったような互いに別の場所にいると思っていた3人が地図データ上で見ると地上階、屋上、地下で重なっていた、みたいなことがあったり。時間軸を重ねていくと昔はここ、肉屋だったけど、火葬場になったんだなとかもありそう。

本文中にもあるようなデータの重ね合わせとなると無限の組み合わせで、シミュレーションゲームとしても遊べるようになるんでしょうね。

あと、家を探すときにも役に立ちそう。南極の氷がこれくらい溶けたらこのエリアは海に沈むからやめとこうとか、30年に一度の大雨が来てもこのエリアの下水処理能力は耐えきれるのかとか。

「それを行う主役は、我々ではないんです」と言われるとなげやりに聞こえる部分もあるけど、YouTubeとかインスタとか見てると「【あなたの家は大丈夫?】xxxxを調べる方法!」みたいなコンテンツって結構需要があるみたいだし、案外こういうデータも活用されるのかな。


静岡県が事前に、現場を含む伊豆半島全体の詳細な3Dデータを確保していました。

これ、単純にすごいですよね! 渡辺作品で何度か登場する「背景に映っている山の稜線から実際にどの山か照らし合わせる」が現時点でできちゃいますよ!


住民の力に期待しているのが、こまめな更新ということです。街は常に変化していくものです。それを一番知っているのはそこに暮らしている人々なんですね。変化したところを素早くアップデートして頂けるようになると素晴らしいな、と。

「それを行う主役は、我々ではないんです」発言とも繋がるのですが、設計構想の時点で住民に頼る部分があるシステムって、しっかり機能していくのかなという疑問があります。極端に言うと動画プラットフォームだけ作れば、面白い動画は利用者が作ってくれるでしょっていうような皮算用にも聞こえます。面白い動画を作れる人からしたら、そのプラットフォームに乗る必要性ってあるのかなあと。文化事業としての側面も大きいはずなので、ある程度以上に公が主体になってほしい。……けど今の日本にそんな余裕はあるのか。日本の財政頑張れ!


例えばUnityやUnreal Engineといったポピュラーなゲームエンジンには、スムーズに流し込めるように整備したいとも考えています。

東京都すごい! 都庁でこんな言葉が出てくるなんて!


この取材には星海社の編集者の太田克史さんと守屋和樹さんも同席していた

この取材が2022年4月13日に行われたもので星海社さんが同席していたということは、この取材は書籍化を前提に行われたものだと思われます。第1回分だけ読むと、普段から渡辺さんがああいう取材をしていたのが結果として公開された可能性がありましたけど。仕込みの期間ってやっぱり1年とかかかっちゃうんですね。

あと、この当時は守屋さんが担当だった(?)んですね。昨年9月発売の『世にも醜いクラスメートの話』の担当も守屋さんでした。ツイッターを見てるとこの連載の担当は丸茂さんっぽいので、途中で変わったのかな。と思って調べてたら守屋さんは星海社から離脱していた模様。


このデータを使ってどんなことができるか考えれば考えるほどワクワクしていたのは筆者だけではなかった。(…)このあたりから二人も話に加わって、どんどん盛り上がっていく.....

ぱっとアイデアが出てくるのは作家はもちろんだけど、編集者さんもすごいなーと思います。こういうのって普通の人が思い付くのは、渡辺さんが思い付くどころか小説化してるからなー。

今回で言えば人間はデータに意図的に入れていないってことから考えると……。

  • 長年稼働しているライブカメラを利用して、いまだ誰も見たことがない10年スパンのタイムラスプ動画を作成。

  • ある年ある日のスーパーの店内を3D化することによって、そしてそのデータに入り込むことによって、統計データではない実際の物価感覚が味わえる。

を思い付きました。ゲーム感覚の利用方法だとなんだろうな。

  • 単純にかくれんぼは面白そう。おとなになると外ではしゃぎ回るのは恥ずかしくなってきますけどデジタルツイン上なら大丈夫。泥棒と警察チームに別れて、監視カメラの存在を前提に逃走ルートを作る泥棒チームと、監視カメラがないルートにいかに人員を配置するかの警察チームの非対称PvP。

  • 日本が世界に誇る電柱、電線の数を逆手にとって電柱を伝うだけでどこまで行けるかゲーム。実際にやると捕まっちゃうし感電しちゃうしでやばいですけど3D空間上なら大丈夫。トップランカーレベルになると「この間に電線が通ってれば送電ロスがないのにな」とか気づけて、電力会社就職への道が開ける、かも。


現実をデジタル化する。ビッグデータを召喚する。しかしそこにビッグブラザーが出現する可能性は回避する。それが非常に重要なことなのである。

かっこいいこと言った! プラチェ時代から使われ続ける言葉ですね。「撮ってるあなたも撮られてる」。


第2回も楽しく読みました。Amazonの単行本紹介の記述を見ると第3回は「食用昆虫」っぽいですね。ツイッターで侃々諤々の議論が毎日行われているテーマなので楽しみです。

私の認識はコオロギは1グラムあたりのタンパク質を作るのにコストがいわゆる動物よりも低い。狭いところでも飼育できる。ってことくらい。

言われるデメリットはアレルギーがある人もいる? 弱毒性がある? そもそもコオロギに限らず食べ物が捨てられ続ける社会のなかで、見た目も悪い昆虫である必要がある? みたいな感じでしょうか。

味に関しては世界中で頑張ってるんですから、そのうちみんなが食べられるようになるだろうと思ってます。一番の問題は昆虫を食べてこなかった世代が現時点では圧倒的であることくらいなので、数十年のスパンで考えたらゆっくりと解決していくのではと思っています。世界人口は今後も増えていくのは間違いないので、お肉を食べたい人は高級品になっていくお肉を買うためにお金をためとかなきゃですね。


渡辺さんはこの連載(と単行本版)『7つの明るい未来技術 2030年のゲーム・チェンジャー』にあわせて各テーマについてYouTube配信を始めました。

ハイテクノロジーをやわらかく話すといった内容で配信タイトルは「ハイテク夜話」。再生リストも作られているようです(ミスなのか現時点では謎の非公開動画までリストアップされてます)。

毎週金曜22時から渡辺さんのYouTubeチャンネルにて。先日の3月17日は連載第1回のテーマ「人工冬眠」について語っていました

次回配信は「デジタルツイン」がテーマになると思われます。視聴者の皆さんのアイデアも聞きつつ楽しく配信していきたいということなので、活用案もコメントしながら見ると楽しいのではと思います!


あとあと、渡辺浩弐さんの無料公開されている小説がまとまっているページを見つけたので、とりあえずブックマークだけでもしておくといいよ! ショートショートなので1作5分の暇潰し! しかも100作以上あるみたい!!

渡辺浩弐さんデータベース 試し読み可能作品


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